第四章:国家という名の開発環境

数日後、霞が関。

結城は、佐藤たちの工場からの嘆願書を読み、深く息を吐いた。彼のデスクには、食べ残しのコンビニ弁当と、真っ黒なコーヒーが置かれている。

画面には、国内自動車産業の輸出統計が、緩やかな傾斜を描いて下降している。

「車を売る時代は終わる。これからは、車を動かす『知能』を売る国にならなきゃいけないんだ」

結城の目論見は、ゼニス社のような外資による知財の独占を打破することだった。彼は極秘裏に、国内の町工場が持つ「職人の技」を暗号化エンコードし、共通のプラットフォームで共有する法整備を進めていた。

「知財を守るために隠すんじゃない。誰もが使えるように開放することで、外資の特許を無効化する。これが、日本経済のデバッグだ」

結城はキーボードを叩き、一つの巨大なファイルをサーバーに送信した。それは、一人の官僚が抱える孤独な戦いから、国家規模のコラボレーションへと移行する瞬間だった。彼は、佐藤たちの工場のデータを、そのプロジェクトの『初版』に指定した。

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