第三章:逆風のコミュニティ

翌週、三河の市民ホール。

佐藤とハルは、数百人の猜疑心さいぎしんに晒されていた。会場には、古くなった作業着を着た男たちや、不安げにハンカチを握りしめる主婦たちが詰めかけている。

「フィジカルAIだか何だか知らんが、これ以上ロボットを増やしてどうするんだ。俺たちの息子は、どこの工場にも雇ってもらえんぞ」

地域住民の代表、老いた元職人の田中が、節くれだった拳で机を叩いた。

町全体が、見えない恐怖に怯えていた。技術が進化すればするほど、人間の居場所が濾過ろかされて消えていくような感覚。マクロ経済の数字が上向いても、自分たちの食卓に並ぶパンが温かくなるとは思えない。

「皆さん、聞いてください」

ハルが立ち上がった。その声は細かったが、静かな決意こころがこもっていた。

「AIは、仕事を奪う『泥棒』じゃありません。僕たちの技を、世界中に届けるための『船』なんです。僕たちが使っているGitHubは、世界中の知恵が集まる巨大な図書館です。三河の技をここに乗せれば、世界中の人が僕たちの技術を必要としてくれる。それは、新しい輸出の形なんです」

会場に重い静寂が訪れる。ハルは続けた。

「息子さんたちは、機械に負けるんじゃない。機械を指揮する、新しい職人になるんです」

ハルの言葉は、脆弱ぜいじゃくな希望の火を灯した。技術を独占し、ライセンス料で首を絞めるゼニス社のようなやり方ではない。自分たちの技を公開し、共鳴する仲間を増やすことで、地域の雇用を「守る」のではなく「再定義」する。

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