第9話 宿敵とヤス子

 白銀の機体が両肩の重厚な火器を構え、ヤス子の前に立ちはだかる。大きさは人間が乗っているにしては小型で、3m程度の大きさか。爆弾に装着された通信機器から敵の声が聞こえた。


「子ども!? 君が帝国の脅威だっていうのか?」


 ヤス子は今世で初めて自分を子ども扱いする敵に出会い、眉を上げる。


「帝国が気に入らないのは事実ね」 


 皇帝と同年代ほどの幼い声。機体のパイロットは狼狽を隠すように優しい声色を使う。


「……僕はテンマ。帝国の空を守る者だよ。大人しく降伏してくれないか」 


 できない相談だと、ヤス子は要求を突っぱねる。彼女の意思は固い。


「帝国を滅ぼす。それがきっと、貴方たちのボスのためよ」 


 同じ景色を見た者……テンマは皇帝の言葉を思い出す。腹立たしい。


「君たちが何を見たのかは知らない。それでも、帝国を滅ぼすことが皇帝のためとは、愚弄も甚だしい!」 


 戦いが始まる。白爆ハクバクの両肩に内蔵されたレーザーガンがヤス子を射抜く。ヤス子とクロウは円を描いてレーザーを回避。その体勢のまま彼女も四角い爆弾を操り、テンマを狙う。 

 しかしテンマは飛ばされた四角い爆弾をレーザーソードで両断する。直後、四角い爆弾が再起し、レーザーソードを持つ右腕に取り憑く。 


「な! 早い!」

「まずは一本」 


 炸裂した四角い爆弾が機体の右腕を爆破する。今までの敵であれば右腕は木っ端微塵だったろう。残念ながら右腕は無事。白爆は皇帝の勅命で建造された機体。そう易々とは壊れてくれない。


「なるほど。最初の一撃、爆発させる気はなかった。僕に爆弾を破壊させて『再起』することに全ての力を振った。そして『再起した時に自動起爆する』……僕が破壊しなかったら、どうするつもりだったんだい?」 


ヤス子は喋らない。代わりに鋭い瞳で答える。


「あなたを爆発させる」と。 


 一度爆弾を戻し、ヤス子は起爆を「接触」に変え、四角い爆弾を操る。右手で1つ。左手で1つ。交互に腕を振るい、白爆を連続で爆破する。爆弾がまるで腕での連撃のように白爆に白煙を上げさせる。 

 しかし白爆は仰け反ることもしない。まるで効いていないかのように。


「無駄だよ。白爆に爆弾は通用しない。どんな爆弾であれ、傷をつけることはできない」 


 ヤス子は速度を上げる。しかし、それでも白爆は無傷だ。煙の中、レーザーが放たれる。すんでのところで回避するヤス子とクロウ。しかし、そのレーザーはヤス子を掠める瞬間、爆発した。 


「あぅ! くっ……」 


 咄嗟に、再起させた四角い爆弾を爆発させ、爆炎に自分の火薬の配合を混ぜることでダメージを軽減したが、それでも左腕は重傷だ。


「驚いたよ。今のを軽減できるなんて……とんでもない子だ」 


 どんな爆弾も効かない……それなら。


「あなた『ビッグバン』も効かないの?」

「ビッグバン?」

「皇帝……あの子のお気に入りなんでしょ? 知らないとは言わせない。」


 皇帝……彼女の傍ら。紅い……爆弾。テンマの記憶がその単語により呼び覚まされる。


(あなただけは、私と共に来て)

(たとえこの『ビッグバン』で全てを吹き飛ばしても、貴方は側にいて。私を守って)

(お願い……白爆)


「なんだ、これは? 僕は……テンマ」


 ヤス子は左腕を庇いながら伝える。あれだけの爆発の連撃を受けたのだ。外は良いとして、白爆の中は。コクピットは。


「あなた。今、内部温度が何度か分かる?」

「内部……? 150度……」

「そんな温度で人間は生きられるの?」 


 え……? 


 そして頭への一撃。クロウが目を覚ませと、『白爆』の脳を爆発で刺激する。ヤス子は四角い爆弾を靴の下に接続して星空に浮いている。彼女の爆発は迷いすら吹き飛ばす。心に新たな爆風を吹かせる。ここへ飛んでいる間、ずっと悩み抜いた配合。四角は攻撃のため。クロウは『想い』をぶつけるため。


「『皇帝』じゃない。『あの子』を守るんでしょ?」 


 彼女の腕から血が滴る。きっともう満足に動かない。テンマ、いや白爆は自らの目的を思い出した。


「あの子を……泣かせるわけにはいかない」

「いつまで続けるの?」

「あの子が望む限り。自分を偽ってでも」


 今回は帝国……人格を形成。私は皇帝を守る者。少女を守る。名は、テンマ。


「あの子は幸せなの?」

「わからない。僕には」

「私は、終わらせに来たの。私のことも、あの子のことも。連れて行ってくれる? 今回は、私とあの子の……」 


 テンマはヤス子の胸を貫くためにレーザーソードを引く。頭に皇帝の声が響く。何千年も続けた行為。もはやプログラミングされている。同じことを繰り返すだけ。


「皇帝の邪魔はさせない」

「……私たちの味方でいて、白爆」


 クロウがヤス子を守るため再度白爆の頭を爆破する。破壊する配合ではなく、訴えかける。これでも分からないのかと、クロウは白爆を爆破で説得する。


「うぅ……なんだ? 爆弾は、効かないルールなのに、頭が!」


「ピ!」衝撃。 

「ピ!」衝撃。

「ピピ!」衝撃と爆破。


 クロウが必死に何度も抵抗する。爆発せずにただ体当たりするだけの攻撃もあった。最早がむしゃらだ。超えられない装甲。それでもやる。今回は違うんだ。今までとは違うんだと。

 白爆の中で皇帝の声が響く。


(私を守って。私を守って……)

「守っております」

(あの子を……)

「どうされたいのですか?」


 確かにそれ以上の命令を受けたことはなかった。何千年と繰り返した宿敵との戦い。殺しても殺しても、いつまでも諦めない人間。奴は「諦めないのはあの子のためだ」という。テンマの知性が白爆に融合する。プログラミングに不要な温かさがバグとなって白爆を苛む。それを危険と判断した。


 自動モードを起動します。

「なんだ?」

 対象を排除します。

「これはなんだ?」


 ビームソードがヤス子を切り付ける。四角の爆弾がヤス子を守り、真っ二つに切られる。切られた四角が海に落ちてゆく。再起が遅い。

 満足に動けないヤス子をクロウと残りの四角が必死に守る。ヤス子が倒れるのをクロウが支える。クロウもヤス子を守っている。もう攻撃ができない。

 

 また繰り返すのか?

 あの子に生きろとお前は言うのか。


 白爆の音声が歪む。

「守って……お……ります」

 

 肩のビームの内部爆破。武器系統の回路が焼き切れる。白爆は剣を捨て、両手でヤス子とクロウを抱える。そして帝国の北部へと踵を返した。

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