第8話 帝国とヤス子

 帝都北部から南部へ向かう爆撃機。帝国が南部とはいえ帝都に爆撃を行うなど前代未聞である。それに追従する輸送機には帝国の空挺部隊が搭乗している。敵主力は1人のボマーという異質な状況。帝国は部隊で最も力を持つ者に鎮圧を任せた。空将と呼ばれる彼は部隊の実質的なナンバー1。帝国空軍掃討官テンマ・ハヤブサだ。


「敵機接近! 0時方向! 機影1!」 


 モニターにパイロットスーツの青年が映り、オペレーターの報告に反応する。


「了解。出撃準備完了。指示を待つ」

(叛乱分子の一掃……仕方のないことだ)


「空将、皇帝陛下からの通信です」

「繋いでくれ」 


 皇帝と呼ぶにはあまりに幼く、優しい声が通信に乗る。テンマはその声に身が引き締まる思いだ。


「テンマ、彼女はきっと貴方じゃないと止められない。私を守って。ご武運を」 


 敬愛する皇帝にテンマは誓いを立てる。


「もちろんです! このテンマ・ハヤブサにできないことはありません。ただ陛下、無礼を承知でお聞きしたいことがあります。お許しください」 

「聞きましょう」

「奴は……何者なのですか?」 


 武装アンドロイド、ボマー、そしてパンツァー掃討官、子飼いの怪獣までも倒し地上部隊を壊滅させた。そして驚くべきは主要人物以外ほぼ命があるということ。敵はボマー。爆弾を得意とする者。そんなことが可能なのか?


「彼女は、私と同じ景色を見た者です。片鱗ではなく、全てを」

「陛下と……同じ」 


 だから特別。ほぼ皇帝と同じ力を持つということか。皇帝側のモニターの中でテンマは奥歯を噛む仕草をする。御簾の中、皇帝は少し咳き込んだ。


「陛下! 長話をしてしまい、申し訳ありませんでした!」

「うん……頼りにしてるわ」 


 モニターの中、テンマの歯がまるで作り物のように白く輝いていた。通信が途絶える。陛下はお優しい方だ。テンマは自らの心を奮い立たせる。


(寵愛に応えねば。陛下の邪魔はさせない!) 


 オペレーターから戦況が共有される。


「機影、3に増えました。出撃準備よろし!」

「『白爆ハクバク』出るよ!」 


 帝国の科学、爆学の推を結集した対ボマー用人型強襲兵器「白爆」が輸送機から飛び立つ。夜空をゆくその姿は、まるで流星のようであった。


……


「出てきた」

「来やがったか」 

「さて、何ができるかな」

「決まってるね! 爆撃機落とすよ!」


 爆撃機をヤス子は肉眼で捕捉する。複座式の戦闘機にはそれぞれジョニーとギラ、シャドとシンレイが乗っている。シャドの機体はオートパイロットだ。爆撃機の後ろから、輝く星のような白い物体が近づいている。


「私は白いのをやる。あなたたちは瓜を」

「爆撃機だな? 任せろ!」 

「瓜め、なますにしてやるね!」


 ヤス子は3つの四角い爆弾を展開する。そしてクロウの出力を上げ、白い機体を相手するために先行し、雲に消えた。戦闘機に勝る出力。相変わらず物凄い爆弾だ。


「ギラ、これを渡しとくぜ」 


 ジョニーはギラにヤス子から預かった四角い爆弾を渡す。4つのうちの1つだ。爆弾にはサインペンでヤス子の似顔絵が描いてある。


「ギーラァ?」

「使うかどうかは、お前が決めな」 


 言葉が通じているかは分からない。だが、ヤス子との心は通じている。ジョニーは直感という至極頼りないものが、時にとんでもない力になることを知っている。


「ギラァ!!」

「おぉ! やる気満々と受け取るぜ!? 痛ぇ! 座席を叩くな、座席を!」 


 爆撃機から戦闘機が2機現れる。


「シャドさん! 来たね!」

「と言っても、僕はやることないんだよね」


 戦闘機からミサイルが発射される。オートパイロットの戦闘機など、格好の的だ。着弾するミサイル。しかし、シャドの戦闘機は無傷だ。


「うーん、やっぱりルール違反かなぁ」


 シャドの戦闘機はシャドの手袋と同様の宇宙物質に守られていた。パンツァーカトウの溜め込んだ物質。それを纏わせているため、爆発が効かない。その代わり武器も取り付けていない。いや、武器は乗せてある。


「あっちが先にやってきたことよ! 無法者は無法者に泣かされる運命ね!」


 敵の戦闘機とすれ違う。シンレイはインとヨウを夜空で交差させ、戦闘機の側面から給油タンクを狙う。戦闘機とインとヨウのスピードは比べるまでもないが、瞬間でいえばそれほど大きな差はない。給油タンクに大きな穴が空いたことでそれが証明される。


「ジョニーに弱点聞いてて良かったよ」


 戦闘機は逃げるように基地へ帰って行った。ただ、もう1機いる。今度はシャドの戦闘機の裏に回り、バルカン砲を当ててきた。シャドのネックレスに惹かれている宇宙物質の陶片が物理的に剥がされてしまう。


「あっ! ちょ! そんな巧みな!」


 そして敵から放たれるミサイル。剥がされたところは当然ながらシールドが薄い。


「イン! ヨウ! お願い!」


 インとヨウが重なり合い、正八面体となる。この状態でならインとヨウは爆発できる。インが左回り、ヨウが右回りに回転しながら膨れ上がる。そして臨界を迎え爆発。ミサイルを木っ端微塵にする。


 ただ、インとヨウの弱点は一度回転したら、回転が収まるまで広範囲に移動し爆発し続けるところにある。シンレイも自然に収まるのを待つしかない。


「さっさと脱出するね! 死にたいか!?」


 縦横無尽に動き、誘爆を続けるインとヨウ。戦闘機のパイロットは爆発を受けた時点で堪らず脱出する。寒空に大輪の爆発が幾重にも重なっていた。


「空で良かったよ」

「ほんと、そうだね」


 戦闘が終わる。シャドはネックレスに視線を落とす。陶片との出会い。それはシンレイが助手になる前だった。


……


「シャド・チャンドラさんですね?」


 カトウと名乗る人物に研究資料を全て回収された。そして師事していた大学の教授も謎の死を遂げた。一夜での出来事。それから大学では隕石の研究が禁止された。


 シャドは納得がいかなかった。先生の研究を邪魔され、なかったことにされ、その秘密を独占される。そんなことが許されて良いものか。大学から警告を受けてもシャドは研究をやめることはなかった。


 そして遺品を整理していたとき、先生が遺したネックレスと手袋を発見する。身に着けた丁度そのとき、カトウの爆弾部隊が現れ、シャドは命を狙われた。爆発により、シャドは死を覚悟したが、陶片がシャドを守ってくれた。奴らの攻撃が効かないことを悟られないうちに、シャドは身を隠した。


 そしてシンレイに出会い、大学を飛び出して現地での研究を続けた。危険だったが、それが生きる意味だとシャドは感じていた。


……


「シンレイ」

「ん? どしたの?」

「ありがとう、付き合ってくれて」

「今更何よ。私がいないとシャドさんはダメよ」


 シャドは心からシンレイに感謝している。ジョニーの元へ向かう中、シャドは確かに幸せを感じた。


……


 ジョニーはギラと共に作戦を遂行するために爆撃機を迎え撃つ。積んでいる武装はミサイル1発とガトリング、そしてヤス子の爆弾1発のみ。だが、ジョニーにはギラがやる気の時点で勝利が見えている。


「これから爆撃機を落とす! ビューティフルにな!」

「ギラァ!」 


 正面から爆撃機に向かい、一度すれ違う。敵のバルカン掃射の間を縫い、ジョニーの機体が180°ターンを行う。しかし後ろに付くのではなく、爆撃機の上を飛び、追い抜いた形をキープする。そのままでは掃射の格好の的だ。


「そろそろか……やれるか? ギラ!」

「ギラ!」

「信じてるぜぇ!」


 ハッチを開く。そしてジョニーは機体を天地逆さまにする。風でジョニーの叫んでいる声は分からない。しかし、これ以上ないほどに楽しそうだ。ジョニーの心はヤス子に出会い、確実に若返っていた。ギラを機体に固定するベルトが解かれる。ギラが空にずり落ちてゆく。そしてギラは空を舞った。胸にヤス子の爆弾を抱いて。 

 爆撃機の上空、ギラはヤス子の似顔絵付き爆弾を怪獣の力で自分に思い切り叩きつける。起爆する爆弾。そして爆撃機の上に巨大怪獣が現れる。ギラはそのまま空中で爆撃機を押し潰す。衝撃と重さで高度を保てない爆撃機。爆撃機の内部は阿鼻叫喚だ。対応したことのない事態。下がる高度。このままでは墜落する。 

 ギラはこれまでヤス子のことを観察していた。山のような犠牲者を涙を流しながら爆破し、魂を救っていたヤス子。自分を元の大きさに戻してくれたヤス子。そして爆弾に描かれた似顔絵。 

 ギラは地面スレスレで爆撃機を逆さまに持ち上げる。着地の衝撃にギラの足が痛む。しかしギラは爆撃機を無力化した。ただの1人も犠牲を出さずに。


「ビューティフルだぜ、ギラ!」 


 ギラの戦いを見届けたジョニーは視線をヤス子へと送る。白い星の側に黒光りする星があるのだろう。レーダーには2つの星が確かに映っていた。

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