第7話 仲間たちとヤス子
陸上軍本部は指揮官とボマー部隊を失った。そしてレジスタンスも蜂起。状況は変わりつつあった。怪獣が大人しくなり、数時間。ヤス子とクロウは未だ怪獣の傍らにいた。
「ジョニーの奴、遅いわね」
ヤス子はこのまま北に向かうつもりだ。帝国という存在を消す。そしてタカ子を今度こそ救う。今回は良い方向に進んでいる。ヤス子は肌で感じていた。するとヤス子に声をかけるものが現れた。カドタと戦った際、共闘した二人だ。
「あなた、ヤス子さんですね。私はシャド」
「シンレイだよ」
「あら、あの二人は大丈夫だった?」
「一命を取り留めました。ありが……」
シャドが礼を言おうとすると、遮るようにシンレイが前へ出て腰から首を垂れる。
「本当にありがとう。友達、助けれた。あなたのおかげね」
「いや、助けられる命は、助けないと」
その言葉に「ちっちゃいのに立派ね!」と、シンレイはヤス子を抱きしめる。少し香る火薬の香り。そしてその顔にはうっすらと火傷の後が見えた。
「あなた……」
「あなたボマーね? 私もよ」
シンレイの乱れたお団子の髪から三角錐型の二対の爆弾が現れる。
「インとヨウね。あなたの爆弾、名前ある?」
「クロウよ」
「ピ」
クロウがゴロリと姿を現す。重厚な姿は見る者によっては恐怖の対象だろう。
「クロウ……インとヨウとは違うね。なんか……強いというか、偉いというか、貫禄あるよ。爆弾の王様みたいね」
ヤス子が「もう長いから……」と苦笑する。シャドはというと、あいさつもそこそこに怪獣に興味深々のようで、何やら色々な装置を取り付けていた。
「何してるの?」
「あぁ、好奇心の塊ね。研究してるよ。危害は加えないね」
シャドがヤス子を呼ぶ。ヤス子は不思議な顔をしてシャドの傍へ行き、話に耳を傾けた。
「ヤス子さん。この怪獣、最初からこのサイズでしたか?」
「いいえ、多分、何かスイッチを押していた気がするわ」
シャドは眼鏡を直し、少し考える。
「きっと爆弾ですね。そうだな……何か残っていないかな」
シャドの言葉に、ヤス子は四角い爆弾を使って辺りを探る。四角い爆弾のうち、一つが地面に貼り付いた。
「そこに何かあったみたい」
掘り起こしてみると、そこには再起型ではない爆弾のかけらが残されていた。何かの陶片のようなものだ。
「あぁ! やっぱり! それです、それがあればきっと怪獣のエネルギーを制御できますよ。僕のネックレスとグローブのものと一緒です」
シャドが手袋を見せる。同じような陶片が埋まっている。たしかあれでカドタの爆弾を防いでいた。凄い力を持っているのかもしれない。
「これは宇宙から飛来した物質なんです。これを主として火薬の配合を行えますか? ヤス子さん。うちのボマー、爆発が苦手なんです」
「一言多いね!」
やってみようと、ヤス子は陶片をクロウと共有しようとするが、クロウは珍しく拒否した。「ブー」とビープ音が鳴る。
「え? ダメなの?」
「ピ」
どうしよう……と途方に暮れていると、四角い爆弾のうちの一つ、先ほど地面に貼り付いた爆弾が瑠璃色に光り出した。
「もしかしたら、ここにあった爆弾はあの子から元々作られたのかもしれません。あの子で試してみましょう」
陶片を四角い爆弾に当てると、みるみると吸収してゆく。そして瑠璃色の爆弾が出来上がった。
「じゃあ、やってみる」
怪獣の傍で爆弾を爆破する。すると半月状に瑠璃色の光が広がり、怪獣はみるみるうちにヤス子と同じほどの背丈となった。
「やった! 成功だ! きっと大きくなることもできますよ」
「も、もういいでしょ? 大きいのは」
シャドは自分の仮説が正しかったことが証明され満面の笑みだ。小さくなった怪獣はヤス子に鼻を近づけ、擦り付けてくる。そして小さく鳴いてみせた。
「ふふっ……お前、名前は?」
「ギラァ」
「ギラか、いい名前ね」
「ギラちゃん、かわいくなったね」
シンレイがギラの頭を撫でる。と、空に戦闘機が見えた。ジョニーの物とは違う。帝国空軍だ。編隊を組んで全部で三機。あっという間に空を過ぎて行く。
「ギラ、あのままだったら、危なかったわね」
「ギラ?」
「というか、ギラの撃墜に来たのなら、反応が遅いです。偵察か、現状把握か」
そうこうしていると、ジョニーがヤス子を真っ赤なスポーツカーで迎えにきた。戦闘機を引き上げ、レジスタンスのリーダーへの指示も終えたようだ。
「ヤス子! 持ってきたぞ、通信装置。お、扱いやすいサイズになったな。ほれ、お前にはこれ! あんたたちも食う?」
ジョニーはヤス子に通信装置、ギラにりんごを渡す。シャドとシンレイもりんごを受け取った。通信装置はジョニーと以前使っていた物だ。ジョニーがりんごを食べてみせる。ギラもシャドやシンレイが美味しそうに食べているのを見て恐々と食べたがーー喜んでいる。気に入ったようだ。ヤス子がジョニーを見つめ、笑顔になる。
「ん? どうした?」
「いいえ、なんでも」
ヤス子は育ての両親の復讐を終えた。しかし、このままではいつかまた最初に戻ってしまう。ヤス子の瞳は決意に満ちている。ヤス子は通信装置をクロウに取り付けた。
「ジョニー、私、今回で終わらせるわ」
「ヤス子……」
「手伝ってくれるから、持ってきたんでしょ?」
ヤス子はジョニーに通信装置を搭載したクロウを見せる。
「当たり前だ」
「ありがとう。この子にね、名前をつけたの。クロウよ」
「ピ」
ジョニーはクロウを撫でる。
「クロウ? カラスか。いい名前だな」
「カラス……? あぁ、そっか」
ヤス子は名前の意味など考えていなかった。ジョニーは呆れた様子で微笑む。
「なんだよ、気付いてなかったのか。カラスはな、理解しようとしているんだよ。自分に降りかかる全てを。嫌われがちなやつだけどな」
「理解……?」
クロウは数千年の時を生きている。ヤス子は記憶を取り戻してから、この時初めてクロウをしっかりと見つめた。黒い球体にセンサーらしきオレンジの光。クロウもヤス子を見つめていた。
「好意もヘイトも全てを理解して、自分の強さに変えてるのさ。ピッタリの名前だよ、クロウ。ヤス子を一緒に守ろうぜ」
「ピ」
自らの呪われた運命を続ける限り、ジョニーには会える。しかし、きっとこれではいけない。ヤス子はジョニーの優しい表情が眩しくて見えない。彼女はジョニーに背を向ける。シンレイがヤス子に近寄る。
「もう伝えたか?」
「え!? あぁ、今回はまだかな」
「今回? ! 誰ね?」
ヤス子が顔を上げると、そこにはヨレヨレのストライプのスーツを着た中折れ帽の男がいた。
「あんた、ヤス子だろ?」
傍らには助手のような丁稚がいる。
「オレは帝都日報のトベってもんだ。こいつは……チェルシーでいい」
「ど、どうも……生きる伝説さん」
ヤス子は目を閉じ、ため息を一つ。
「その話振りなら、もう私のことをある程度知っているんでしょう? なに? 私に用はないわ」
シンレイがチェルシーを見つめる。昨日の丁稚だ。
「なんだ、新聞屋さんね。わたしよ、屋台のお姉さんね」
「あー! お姉さん! ヤス子さんのお知り合いなんですか!?」
外野が盛り上がっている。トベは声を張った。
「空軍、どうするつもりだ?」
トベが含みのある言い方をする。
「どういう意味?」
「爆撃するつもりらしい、この街を。確かな情報だぜ?」
「なにぃ!?」
ジョニーは血相を変える。トベは無線傍受のイヤホンと小型端末を見せた。確かに陸上軍が壊滅し、レジスタンスが勢いづいた今、その芽を摘む格好のタイミングではある。ここは帝都の南。本丸は北側。本丸から飛んだとしたら、もう時間がない。
「爆撃機はもう目と鼻の先だ。住民を避難させる暇はない……街を助けてもらっといて、こんなこと言いたくねぇが……最後まで責任を取ってくれ、ボマー」
「空軍ってことは……テンマ・ハヤブサが出てくるな。できれば相手にしたくない。いちいち鼻に付く奴、優等生さ」
ジョニーが苦手そうな顔をする。テンマ……ヤス子も記憶を掘り起こす。毎度毎度、必ずと言っていいほど出てくる。白銀の機体。きっと奴だ。
「ジョニー、私は先に行く。後から来て」
「待ってくれ、俺たちも……」
ヤス子が彼らの装備を見る。飛べるようには見えない。
「ついてこれるの?」
「……」
そこでチェルシーが動いた。
「なら、持っていってください。そして、返してください」
チェルシーはヤス子にボイスレコーダーを投げた。ヤス子は反射的に受け取ってしまう。
「ちょっと、返せる保証はないし……壊れても知らないわよ? それに録音機能ならこの子にだって……」
「取材用です。普通は何個も持っていくものですよ。それにそれは返してもらうものですから! 特注の一番丈夫なやつなので。それでダメなら諦めます」
少し考え、ヤス子はトベに近づく。
「な、なんだよ?」
「書くもの、ある? 消えないやつ」
トベはヤス子にサインペンを渡す。そしてヤス子は自分の四角い爆弾に何やら描いていた。トベが不思議がるが、すぐにヤス子はサインペンをトベに返す。
「ありがとう」
「あ? あぁ……」
ひらりとヤス子は手を振り、ジョニーと何やら話した後、クロウに乗って飛び立った。ジョニーが車を転回し、ギラたちに声をかける。シンレイはギラを助手席に乗せてあげた。シャドとシンレイは後部座席へ飛び乗る。
「じゃあ行くかぁ? ギラ、お二人さん」
「ギラァ!」
「付き合いますよ。何ができるか分かりませんが」
「せっかく友達助けたのに! 爆撃機、ぶち落としてやるね!」
ジョニーたちも戦闘機を飛ばすためアジトへ戻る。チェルシーが不安そうにトベに事後承諾を取る。
「トベさん、良かったでしょうか」
「しゃーねぇ。俺たちは空は飛べねぇからな。だが、行けるとこまで食らいついていくぞ!」
「やっぱり行くんですか。怖いなぁ」
そう口に出したチェルシーの口角はトベと同様に上がっていた。
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