第10話:今の私 ——物語の外に立って

今の私は、

もう誰かの物語の中にいない。

朝、目を覚まして、

カーテンを開ける。

光の入り方や、

空気の温度を、

自分の感覚で確かめる。

それだけのことが、

こんなにも穏やかだったのだと、

少し驚く。

あの頃の私は、

愛されていた。

大切にもされていた。

それは、

疑いようのない事実だ。

けれど同時に、

私はどこかで、

「役」を生きていた。

誰かの世界観の中で、

与えられた位置に立ち、

期待された振る舞いを、

無意識に引き受けていた。

今はもう、

それをしなくていい。

選ぶのは、

私だ。

何を好きだと思うか。

どんな色に心が動くか。

どんな距離が、

自分にとって心地いいのか。

誰にも説明しなくていい。

思い出は、

きれいなまま、

胸の奥に残っている。

笑った夜も、

静かな別れも、

すべてが、

確かに私の時間だった。

でも私は、

そこに戻らない。

物語を否定する必要はない。

ただ、

次のページをめくるだけだ。

今の私は、

誰かの期待に応えるためではなく、

自分の感覚を信じて生きている。

それは、

派手でも、

劇的でもない。

けれど、

とても自由だ。

もしまた、

誰かと心を通わせる日が来たなら、

私はもう、

役を演じない。

その人と、

現実の地面に立ったまま、

言葉を交わすだろう。

鎧も、

物語も、

必要としない場所で。

私は、

私の人生の主役として、

ここにいる。

それだけで、

もう十分だと思える。


――――――――――


これは、私にとって一つのレクイエムです。

もし、この物語があなたの心に何かを残したなら、

無理のない形で応援していただけたら嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡の包丁と、白い残像 白波 瀬奈 @sena_shiranami1209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ