落ちる、
流音
***
寒いな、と思ったらもう冬になっていた。
季節の変わり目のような、恋に落ちるとは、それとよく似ている。
追いかける恋が好きだ。
求められる恋愛は向いていない。
穏やかな恋も、多分向いていない。
母の血だろうか。
母は恋多きおんなのひとだった。
追いかけては、捨てられを繰り返し、あのひとは結局ほんものの恋やら愛を見つけられたのだろうか。
今となってはわからない。
白い煙が、空の上の、上のほうに登ってゆく。
今日は母が空に旅立った日、だ。
スマートフォンにメッセージが入っていた。
「今日は会える?」
簡潔なその一言に若干の嫌悪感を抱きつつ、
「今日は母の葬儀だから」
と返した。
自分から追い求めて手に入れた筈なのに、手に入れた途端、何だか煩わしくなってしまう。
季節が移ろいゆく、その過程が好きなのだ。
季節が変わってしまえばもうそれで終わり。
わたしの恋愛はいつもそんなふうだ。
「…李央さん?」
ふいに耽っていたそれが遮断された。
声の主は月山さんだった。母の最後のひと。
ロマンスグレーの紳士、といった様相な月山さんは早くに奥さんに先立たれ、子どももなく、独り実直に人生を送ってきたひとだ。
そんな月山さんが何故母のような奔放なひとを愛してくれたのか、わたしにはわからないでいる。
「李央さん、この度は」
「ああ、月山さん、堅苦しいのは今日は無しで」
わたしは絵に書いたような形ばかりの笑顔を作った。
月山さんの声を聞くのもこれで最後になるんだろうな。
頬に冷たいものが触れた。
初雪。
ちらちらと降り始めたそれは、月山さんの涙のようにも思えた。
わたしも、もうそろそろ今の恋は終わりだな。
思った瞬間、連絡先を削除した。
冬だ。
季節の移ろいは終わり、今はもう、冬。
落ちる、 流音 @mamehanata
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