第6話 黒宮さんと自転車と【1】

「ちょ、ちょっと! どこに連れていくんですか!?」


 あの後、私は黒宮さんに腕を掴まれ無理やり連行――もとい。教室から連れ出されてしまった。何の説明もなしに。襟元を掴まれながら。


 このクソ黒め。おかげで皆んなからギョッとされちゃったじゃん。こんな目立ち方、私は望んでないってば。もっとこう、なんというか「あの女子可愛いー」みたいな注目を望んでるんだけど。


 そして、黒宮さんに投げかけた質問の答えがコレである。


「どこにって、駐輪場だ」


「駐輪場!? え!? 今から!?」


「なんだよその反応は。都合でも悪いのか?」


「悪いどころじゃないですよ! もう少しでお昼休み終わっちゃうじゃないですか! 授業に間に合わなくなっちゃいますよ!」


「そんなのサボれ」


「サボれって……私、まだ入学してから一ヶ月も経ってないんですよ!? なのにサボったりなんかしたら、先生からの評価が……」


「んなもん気にしてるのか? くだらねえ」


 サボることに関してなのか、それとも先生からの評価に関してなのかは分からない。が、こればかりはさすがに私の方が正論だと思っている。


 だが、この後の黒宮さんから発された言葉を聞いて、『私の正論』がぐらついたのを感じた。


「お前、授業に対して疑問に思ったことねえのか?」


「授業に、疑問……?」


「ああそうだ。授業なんて、教科書を読めばすぐに分かることをアイツらはそれをなぞって説明するだけじゃねえか。それに何の意味がある?」


「え? えーっと……」


 言葉に窮した。そんなこと、考えたこともなかったから。だけど、黒宮さんの言葉にはしっかりとした自信の理念やポリシー。それらが私に伝わってきたから。


「俺には分からねえんだ。ただただ、単に時間を無駄に浪費するだけだと思ってるからな」


「え、えーっと……それは、その……。じゃあ、黒宮さんはどうして学校に来てるんですか?」


 その問いかけを聞いて、ピタリと足を止めた。そして、彼の表情に浮かび上がる。憂い。諦め。憂愁。様々な『負』の感情が。それらが今の黒宮さんを支配している。そんな感覚を覚えた。一度天井を見上げ、溜め息をつき、私に向き直る。


「――出席日数だよ。授業の三分の一以上欠席したら、その時点で留年が確定する。本当にくだらねえルールだ。でも、嫌々でも来るしかねえんだよ。俺には金がねえからな」


「えーっと……あの、お金と授業になんの関係が? それに、出席日数の問題があるなら余計にサボらない方が……」


「分かってる。だからさっさと済ませて教室には戻る。授業が終わる十五分前までに戻れば欠席扱いにはならないからな。俺は特待生として大学に入らなきゃならねから留年できねえんだよ。学費を免除してもらえなくなる」


「と、特待生!?」


「驚くことじゃねえだろ。そんな奴、ごまんといるからな。まあ、金がねえって言ったのはそういう意味だ。理解できたかガマガエル」


「あ、あの。もしかして、黒宮さんって頭いいんですか!?」


「……別に」


「えっと……。失礼ですけど、実はさっき、黒宮さんが停学になってたって聞きました。それって内申書に響いたりしないんですか?」


「そこは問題ねえ。解決済みだ。実際に今日、学校に来てんじゃねえか。二週間の予定だったが二日間で解除してくれたからな」


 解除? 停学が? なんでだろうか……。と、色々と疑問や好奇心を抱いたが、あえて訊かなかった。


 こういう件にはあまり深く訊かない方がいい。デリケートな問題だ。黒宮さんを傷付けてしまう可能性だってある。


 不思議と、それだけは避けたいと何故か思えた。


「いいから、さっさと駐輪場まで行くぞ」


「だーかーらー! 無理やり連れて行こうとしないでくださいって! 制服破れちゃったらどうするんですか!?」


「俺の制服じゃないから知らん。どうでもいい」


「このクソ黒がー!!」



『第6話 黒宮さんと自転車と【1】』

 終わり

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黒くて眩しい黒宮さんは私を知りたい 〜巫女の血を引く私と彼を一冊の小説が繋げる初恋物語〜 十色 @midorinooka_new

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