第5話 黒い噂

「「「黒宮先輩に助けてもらったーー!!?」」」


「み、皆んな大声出しすぎ! 耳がキーンってなるから! というか、そこまで驚くことじゃないし!」


 お昼休みということで、昨日の出来事を皆んなに話した私である。そうしたらこの反応。私の頭の上はクエスチョンマークだらけに。華ちゃんに限らず、どうして皆んな黒宮さんのことを知っているのだろうか。まだ入学したてだというのに。


 そんなわけで、私は皆に率直に訊いてみることにした。


「あのー。なんで皆んな黒宮さんのことを知ってるの?」


「知ってるに決まってるでしょ! 校内の超有名人じゃん!」


「チョーユウメイジン?」


「優ちゃん、なんでそこでカタコトになるかな……。まあ、優ちゃんだもんね。気にしても意味ないか」


「どういう意味なのそれ!?」


「え? そのまんまの意味だけど? ちょっとおバカな感じ」


「なんだー、ちょっとだけかあ。じゃあ全然問題ないね! うん。良かった良かった」


「いや、だからそういうところなんだけど……。まあいっか。でも、この前も言ってたけど本当に知らないの? 黒宮先輩のこと。校内一の不良で有名なのに」


「……え?」


 黒宮さんが不良? しかも校内で一番の?


「それ、本当? 本当に黒宮さんのこと? 別の人と間違えてるんじゃなくて?」


「間違えてるわけないじゃん。もう何回名前を聞いたことか。それに、優ちゃんにもちゃんと自分で名乗ってたんでしょ? 黒宮仁だって」


「そ、そりゃそうだけど……」


 確かに、あの人は口が悪い。態度も悪い。それは確かだ。でも、不良とは違う気がする。


 昨日知り合ったばかりの私がどうしてそう感じるのかは分からない。分からないけど、絶対に違うと言い切れる。


 あの人は悪い人ではないと。


「でもさ。黒宮先輩って確か停学中じゃなかったっけ?」


「て、停学中!?」


 水野さんの言葉に驚いて、つい大きな声を出してしまった。当たり前だ。停学になるということは、黒宮さんにそれなりの問題行動があったということだから。


 でも、事情が全然分からない。


 いつもの私だったら『まあいいか』だとか『気にしない気にしない』で済ませてしまうけど、でも、今は不思議とそういう気持ちになれない。


 理由が知りたい。


 ――と、思っていたら華ちゃんが説明してくれた。


「確か、同じクラスの男子のことを殴ってあばら骨を折っちゃったんじゃなかったっけ?」


「あ、肋骨!?」


「うん、そう。それで停学。あ、でもそういえば、昨日でその期間が終わったんだっけ」


「そ、そうなんだ……」


 ショックだった。まさか暴力を振るうだなんて。嘘だと思いたい。でも、停学になるということは学校側もそれなりの事実調査をしていたはず。結果、事実として認めるに値することが実際にあったということだ。


 本当はいい人だと思っていたけど、私の勘違いだったんだろうか。


「優ちゃん大丈夫? 珍しく落ち込んでるけど」


「大丈夫、じゃないかな……。だって私、黒宮さんのこと、ずっと運命の王子様だと思ってたからさ……」


「誰が王子様だって? このガマガエルが」


 その声、そして呼び方で誰だかすぐに分かった。咄嗟に教室の後方の扉の方へと目を向ける。腕を組み、気だるそうにしながら壁にもたれかかっている人物。


 黒宮仁さんだった。


「く、黒宮さん? どうしてここに?」


「『さん』付けするなって何度も言ってんだろうが、このガマガエル」


 教室が一瞬にして静まり返った。


 緊張感。それが教室内に充満して、あっという間に全体に広がった。もしかして皆んな、怖がってるのだろうか?


「す、すみませんでした! 言い直します! おい! このクソ黒宮!」


 ただでさえ緊張感に包まれていた教室中が、今度は一瞬にしてざわめき立った。私の方に皆んなの視線が集まっている。


 でも、注目されるのってなんか嬉しい。だって私、こんなにも皆んなから注目されたことなんて人生で一度もなかったから。


「ふふ……うふふふふ」


「なんで急に笑い出してんだよ、ガマガエル。気持ち悪ぃからやめろ」


「あ、はい。あの、クソ黒宮さん。あ、でもそれじゃ長いから、略してクソ黒さん!」


「……クソ黒って言っておいて『さん』付けする意味が分からねえ。それに、その呼び方だと『クロワッサン』みたいだから絶対にやめろ」


「はい! 分かりました! クロワッサンさん!」


「ガマガエル。お前、バカだろ?」


「バカって言う方がバカなんですー。残念でしたー。はい、クソ黒の負けー」


「……小学生かよ」



『第5話 黒い噂』

 終わり

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