第3話 黒と白

 自転車で勢いよく電柱にぶつかって転倒し、その際に頭を強く打ってしまった私。なんて不幸なんだと思っていたけど、違った。


 やっと出逢えた。白馬に乗った、私だけの王子様に。


 きっと、これは運命なんだ。私の日頃の行いが良いからなんだ。と、すぐに調子に乗ってしまう私。華ちゃんの言う通り、この性格少しは直していかないとなあ。じゃないと、この王子様に捨てられてしまう。


「白馬に乗った王子様……」


 制服をよく見てみると、ネクタイの色がモスグリーンだった。ウチの学校はネクタイの色で学年が分かるようになっている。この色は、確か三年生だったはず。年上の王子様、か。すごく素敵かも。


 年上ってことは、きっと私のことを引っ張っていってくれたりするんだろう。いわゆるエスコート的な。


 でも、そうか。この人とお付き合いできるんだ。毎日イチャイチャラブラブできるんだ。今から楽しみで仕方がない。


「ふふ……うふふふふ……」


「お前、意味もなく笑ってるけど、頭を強く打ったせいでおかしくなったのか?」


 その王子様は私のことを心配してくれた。のか? これは。


「あ。いえ、そういうわけではないです。いつもと同じで、ちょっと妄想が捗っちゃっただけですから」


「妄想が捗る? まあ、さっきも『白馬に乗った王子様』だとかわけの分からないことを言ってたしな。でも、いつもと同じなのか」


「はい! これが通常運転です!」


「なるほどな。つまりお前は常に頭がおかしいってことか。あのな。俺が乗ってるのは自転車だ。お前にはこれが白馬に見えてるのかもしれないが。そもそも、俺は王子様なんかじゃねえ」


「いえ! 自転車でも大丈夫です! 王子様だっていつも白馬に乗ってるわけじゃないでしょうし。それに、庶民派でいいと思います!」


「お前、バカだろ」


「ば、バカ!?」


 あれ? この王子様、なんかやたらと口が悪い気がするんだけど……。いや、そんなはずがない。絶対に大丈夫。だって、これは運命の出逢いなんだから。


「分かりました。ふつつか者ではありますが、それではこれからお付き合いの程、お願いします!」


 三つ指をついて、床に頭をくっつけながらお辞儀。やっぱり乙女は礼儀正しくなくてはいけない。失礼があったら申し訳がない。


 が、私の気遣いは空に消えた。


「あ? 何が『それでは』だ。お辞儀の意味も分からねえし。それに、付き合う? 何言ってんだこのガマガエルが」


「が、ガマガエル!?」


 ちょっと酷いような……。女子に向かってガマガエルとか。やっぱり口も悪いし、言葉遣いも乱暴。でも、それはきっと、この王子様なりの照れ隠しなんだろう。この恥ずかしがりやさんめ。


 ……な、わけがないか。


「ああ。さっき電柱にぶつかった時、そんな悲鳴をあげてたからな。潰れたカエルみたいに。だからそう呼ばせてもらう。いいだろ、ガマガエル」


 さすがにカチンと頭にきた。何度も何度も乙女に向かってガマガエルとか。すごく腹が立ってきた。


「あの、ちょっと失礼じゃないですか? 女子に対してデリカシーなさすぎじゃないですか? 私はガマガエルじゃありません! 曽我部優子という名前があります! ちゃんと名前で呼んでください!」


「分かった。曽我部・ガマガエル・優子だな」


「ミドルネームみたいに言わないで!」


 確信。この人めちゃくちゃ性格が悪い。いや、悪すぎる。それにめちゃくちゃイヤな奴だ。きっと。


 ――って、え!?


「ど、どこに行っちゃうんですか!?」


 その王子様(仮)は黙ったまま立ち上がり、自分の自転車にまたがってしまった。嘘でしょ!? 人をガマガエル扱いした上に転んじゃった女子を置いて帰る気なの? この人は!? 見捨てる気なの!? サイテーなんですけど!!


 でも、それは私の勘違いだった。


「乗れ」


「の、乗れって、どこに連れて行くんですか? そもそも自転車の二人乗りは校則違反なはずじゃ……」


「病院だ。校則なんて知らねえ。俺が決めたわけじゃねえからな。だから守る気なんかさらさらねえ」


「え、えっと……びょ、病院は大丈夫です! 頭から血も出てませんし」


「逆だ。血が出てた方がまだマシだ。頭の中では出血してるかもしれねえ。それに頭を強く打ったことに変わりはねえ。後になって何かあるかもしれねえからな。一応、ちゃんと検査してもらえ」


「で、でも……」


「黙って乗れ、ガマガエル」


「は、はい……」


 校則を破ることに少しの罪悪感を覚えながら、自転車の後ろの荷台に腰掛けさせてもらった。なんだろう、この人。すっごく不思議な人だ。イヤな奴だと思ってたら、私のことをこうして心配してくれたりするし。


 私の中の感情が、上手く整理できない。


「あ、あの……お、お名前を訊いてもいいですか?」


「俺の名前なんて、お前が知る必要なんかねえ。とりあえずクソ野郎とでも呼んでおけ」


「そんなの無理ですよぉ。先輩なわけですし」


 この後、この人が名乗った名前を聞いて、確信した。


 絶対に、この人が運命の王子様だと。何故そう感じたのか。


 それは――


「……まあいいか。仁。じん黒宮仁くろみやじんだ」


 この人こそが今朝、華ちゃんが言っていた『黒宮先輩』だったから。



『第3話 黒と白』

 終わり

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