第2話 出逢いは突然に

 私と華ちゃんは猛ダッシュのおかげで遅刻することなく学校に到着できた。そしてガラガラと無機質な音を立てて引き戸を開けて教室の中へ。


 すると、入るや否や、一人の女子のクラスメイトがやたらと興奮気味に私に話しかけてきた。確か、彼女の名前は水野みずのさんだったったかな? まだ入学したてということもあって、私はまだクラス全員の名前を覚えてないのだ。


 それにしても水野さん、一体どうしたんだろう?


「本当にありがとう、曽我部さん!」


 水野さんは私の手を力強く握りながら感謝の言葉を贈ってきた。


「え? 私、お礼を言ってもらえるようなことなんかしたっけ?」


「したよ! したした! 曽我部さん、この前私の相談に乗ってくれたじゃない!」


「相談? あ! 思い出した! あれだよね、居残りで補習をさせられた時に好きな男子がいるって話してくれたやつ」


「そうなの、それそれ! あれから私ね、勇気を出して告白したんだ。そしたら彼とお付き合いできることになったの!」


 ……え?


「あんなにカッコいい人、私となんかじゃ釣り合わないと思って諦めてたんだけど、曽我部さんが相談に乗ってくれたおかげで勇気をもらえて! 全部、ぜーんぶ曽我部さんのおかげだよ!」


「そ、そうなんだ」


 まただ。また不思議なことが。華ちゃんの時もそうだった。私に恋愛相談をしてきた人達は、何故か皆んなその恋が成就するんだ。確か中学三年生になったくらいの頃から。


 なんなんだろう、これは。偶然にしてはあまりにも出来すぎている。


「よ、良かったね水野さん」


「うん! ありがとう!」


 不思議なのはそれだけじゃない。そもそも、どうして皆んな、私なんかに恋愛相談を持ちかけてくるんだろうか。だって私は恋愛経験ゼロだから。普通、そんな人に恋愛相談なんてするだろうか? 不思議だ。本当に不思議だ。


 でも、まあいいか。悪いことが起きてるわけじゃないし。


「あ!」


「どうしたの曽我部さん?」


 そうだ! きっと今ならオーケーしてくれるはず!


「改めておめでとう、水野さん。それでね、私もちょっとお願いがあって。ぜひ、ぜひ! 今日提出予定の宿題を写させて――」


「優ぅちゃーん」


 華ちゃんに襟元をグイッと掴まれて、水野さんからどんどん離されていく私。なんでそんなことするの! アイドルの握手会だってこんな乱暴に剥がしたりしないでしょ! せっかく恥を忍んでお願いしたっていうのに!


「水野さんが断りづらい状況になった途端、宿題写させてとかサイテーなことしないの! あ、水野さん。気にしないでいいからね」


「そ、そんなあ。じゃあ私は一体誰に宿題を写させてもらえば……って、引きずらないで! お願いだから! 見られてる! 男子に見られてるから! 男子の中に白馬に乗った王子様がいたらどうするのよ!」


「幼馴染の優しさだと思いなさい。あと、今の優ちゃんなんかに好意を抱くような男子がいるわけないじゃない。今朝も言った通り、もう手遅れだから。とりあえず、まずはその性格を直しなさい」


「酷いよぉーー!!」


*   *   *


 学校も終わって、やっと我が家に着いた。鍵でドアを開け、玄関に入ったその瞬間、私は膝からガクリと崩れ落ちた。だ、ダメージが大きすぎる……。


「高校生にもなって、先生にあんなに怒られるとは……」


 予想はしていた。宿題をやってこなかったことで怒られることは。しかしである。宿題をしてこない常習犯として認識されていた私は、反省を促すために先生から激怒されたのだ。


「いいじゃん宿題くらい! 見逃してくれたって! なのに、男子も見てる前で公開説教だなんて。もし男子の中に運命の王子様がいて呆れられたりしてたら、私、立ち直れない……」


 あー、もう嫌だ。怒られた上に、追加で宿題を追加で出されてしまったし。よし、今日こそ絶対に宿題をして……あ!!


 私は一度自分の部屋に戻って自転車の鍵を手に取った。そしてマンションの駐輪場まで猛ダッシュ。そのままの勢いで自転車を猛スピードで走らせた。


「宿題、学校に忘れてきたーー!!」


 もう、あんなお説教なんか二度と食らいたくなかった。だから今日こそ絶対に宿題をする! してみせる! と気合を入れていたというのに、まさかそれを学校に忘れてくるとは……あり得ないな。自分のバカさ加減にさすがに呆れてしまう。


「はあ……はあ……つ、疲れる……」


 自転車を勢いよく漕いで漕いで漕ぎまくってたら、体力ゲージがどんどん削れていった。今はもう、完全にゲージはゼロ。日頃の運動不足がたたってしまった。元々、私は運動が苦手だ。だから帰宅部なわけだし。


 って――


「ああ!! 危な……ぐえぇ!!」


 ペダルから足を滑らせて、その際にハンドル操作を間違えて、そのまま自転車ごと電柱に激突。痛い……。思いっきり頭をぶつけてしまった。


「イタタタ……まさか電柱にぶつかって転倒しちゃうなんて。あーあ、自転車も。私って、もしかして世界一不幸な女子高生なんじゃないの……?」


 とりあえず、勢いよくぶつけた頭――額を触って確認。良かった、血は出ていないみたいだ。だけど、自転車のフレームが完全に曲がってしまっている。これでは使い物にならない。


「宿題なんて、いいか……」


 もうどうにでなれと、私は半ば投げやりにコンクリートの上で大の字に寝転がった。通行人がちらちら見てくるけど、誰一人として助けてくれようとしない。世間って結構冷たいな、と。心の底から思い知らされた。


 でも違った。皆んなが皆んな冷たいわけではなかった。


「おいお前、大丈夫か?」


 私に声をかけてくれた人がいた。声で分かった。男子だ。私は一度、起き上がってその人の姿を見やった。


 我が目を疑った。


 その美しさに。


「白馬に乗った王子……様」


 その男子は私と同じ高校の制服を着ていた。不思議な魅力に溢れていた。


 長くて綺麗な黒髪。整った顔立ち。少しだけ悪い目つきはしていたけど、それが逆に、私にとって魅力的に映った。


 一言で言えば、イケメン。


 こんなにもカッコいい男子に声をかけてもらえるだなんて。私は世界一幸せな女子高生だと思った。


 でも、このすぐ後に私が彼に抱いた印象はこうだ。


 この人、とにかくめちゃくちゃイヤな奴!!



『第2話 出逢いは突然に』

 終わり


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