第4話 手がかかる話
目を覚ますと、最初に目に入ったのは点滴の袋だった。ぽたぽたと、一定の間隔で水滴が落ちている。左手に違和感があって目を移すと、彼女が手を握ったまま眠っているようだった。
「千奈」と呟く。彼女はわずかに肩を震わせて、顔を上げた。
俺を見て、しばらく固まる。
「起きたの……?」
「変な夢を見たよ」
「いま、先生呼んでくる」
「行かないで」
千奈は目を見開いて、俺のことをじっと見つめる。それから不意に脱力した様子で、その場にへたり込んだ。
「死んじゃうかと思った」
「死んで来たよ」
「変な冗談言わないで。ああ、目が覚めてよかった。わたし……わたし、一生後悔するところだった」
「うん。俺もだ。俺も、君を後悔させたということをずっと後悔するんだなと思ってた」
なんだかまだ頭がぼうっとしていて、上手くものが考えられない。「仕事はどうなってる?」と訊くと彼女は呆れた顔をした。それから、「お生憎。退職願を出すように会社から勧められて、おじさんとおばさんが怒り狂いながら訴訟起こしてるところ。有休もとれてないし残業代も出てないんでしょ?」と片目を瞑る。俺は思わず笑ってしまって、「そんなにガッツがあったのか、うちの家族は」と呟いた。
「じゃあ、無職か」
「いいじゃん、そんなの。どうでも」
「確かに。君がここにいることの方が大事だもんな」
「こっちの台詞だよ。本当に、生きててよかった」
「どうして俺の手を握っててくれたの? 二年前に別れた元カレの」
千奈はもう一度俺の左手を、今度は両手で包むようにして握った。俺の手に頬を寄せ、上目遣いで俺を見る。
「ねえ、落ちてくときなーんにも掴まなかったんだって? それ聞いたとき、死ぬほど悲しかった。道連れにしてよ、私のこと」
「……いいの?」
「私、強くなるよ。二度とあなたの手を離さない」
俺は彼女の手を握り返しながら、「手がかかりますよ、俺は」と言う。彼女は「なんで敬語なの」と言いながら、ほっとしたように笑った。
ブラック企業撲滅教で葬式をやった俺が生き返る話 hibana @hibana
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