お題フェス11「手」の短編

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お題フェス11「手」

薄汚れた密室。

椅子に縛り付けられた女と、それを見下ろす男がいる。空気は重く、時間だけが腐っていた。


「ぎゃあっっっっっあああ!」


悲鳴が壁に跳ね返る。


「いちいち騒ぐな。二回目なんだからよ。いい加減慣れろ」


男は淡々と、切り取った指をガーゼに包み、ジップロックへ放り込む。その手つきに迷いはない。


「おい、こいつをまた届けろ。ご丁重にな」


「はい、メッセージはいかがいたしましょう?」


「早く金払わねーと娘の指全部なくなっちまうぞ、でいんじゃね?」


「了解しました」


椅子に拘束された娘が、怨嗟をにじませた目で睨み上げる。


「あんたたち、こんなことして、ただで済むと…」


ドカッ。


言葉が終わる前に、拳が顔面を叩き潰した。


「黙ってろ。てめーは金を生む木だ。それ以上でもそれ以下でもねえ。おい、口にタオルでも噛ませとけ」


部下らしき男が、無言で手際よく動く。


「んんんー」


「よし、この辺が、まあ、妥協ラインだな。次騒いだら耳落とすぞ」


娘は血の気を失い、ただ小さく頷いた。


「俺たちゃ別にサディストじゃねえのよ。ただの商売に、仕事に、熱心な男たちなんだ。そのへんわかっちゃくれないかな。って、無理か」


男はスマホを取り出し、口座画面を確認すると、それを娘の目の前に突き出す。


「あんたの値段は五億だ。あんたの親からしたら年収の数%だろ。なのに、これ見なよ」


そこに映っていたのは、五百万という端金だった。


「舐められたもんだ。いや、俺たちがじゃない。あんたの命の見積もりがだよ。俺だって、さくっとさらって、さくっと金を受け取って、さくっとあなたを解放して、それで終わりたいんだ。だがよ、このざまだ。なあ」


男はスマホを置き、枝切りバサミを掴む。金属の冷たさが光を吸った。


「1時間に1本。そう宣言してあるんでな。律義にいきましょうかね」


ジョキン。


「おいおい、あと7時間であんたの指が無くなっちまうぜ。せっかくの美人が台無しだな。指のない女とかドン引きだぜ。お気の毒に、まったく。ま、おかげで竿が萎えちまって、貞操の心配は要らないわな」


男は肩をすくめる。


娘は歯を食いしばり、恨みを込めて睨み返す。

その背後で、部屋に入ってきた部下が男に耳打ちする。

男は心の底から嬉しそうな笑みを浮かべた


「朗報だ。あんた、長生きできそうだ」


娘の瞳に、かすかな光が宿る。


「足にも指はあった。プラス十時間の猶予ができたな、おめでとう」


「んんんーんんんー」


娘は大粒の涙を流し、必死に抗議する。男は鬱陶しそうに何度も殴りつけ、静寂を取り戻す。そして、まるで雑談でも始めるかのように口を開く。


「ちょいと面白いことを思いついたんだが、聞いてくれるかい? てか、お前にも意見を聞きたいな」


男は部下を指す。


「は、なんでも」


「おう、美人って、まあ、指がなくても美人だよな」


「は、はあ、まあ、そうですね」


「んじゃよ、まぶたや唇がなかったらまだ美人かな? 少し興味が出てきちまってよ。おい、どう思う?」


恐怖に喉が引きつり、娘は口に咥えさせられていたタオルを飲み込み、窒息しかける。


「おいおい、死なせちゃなんねえ。おい、吐き出せ。おい。お前も手を貸せ!」


慌てて引きずり出される。


「ぜーぜーぜー…」


娘は言葉を失い、壊れた機械のように肩で息をする。


ピコン。

スマホが乾いた音を立てる。


「残りの4億9500万入金確認。よかったな。解放されますよっと。お嬢さん、おめで…」


ダンダンダン。


男の身体が弾かれ、床に崩れ落ちる。もう動かない。

引き金を引いたのは、さっきまで部下を演じていた男だった。


娘は状況を理解できず、喉を震わせる。


「あ、あ、あ、あああああー!」


ダンダンダン。


次の銃声は、娘を黙らせた。


元・部下の男はスマホを操作し、五億円を自分の口座へ移す。


「俺はここにいない。そう誰もが思っている」


得意げに、死体へ言い捨てる。


「大令嬢なんだ。指は1本でいいって言ったろう。それをこんなになるまで…かわいそうに」


娘の冷えた手を見下ろし、淡々と呟く。


「さて、こっから忙しくなるぞ。まずはロンダリングしないとな」


男は部屋中にガソリンを撒き、影のように立ち去っていった。

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