第10話 英雄候補
「な、にが...」
「嘘...」
いきなりの出き事に脳が追いつかず、目の前が見えるのに見えない。でも、横から聞こえるサヤさんの声でとんでもない光景が広がっているのは分かる。
「2人共、下がってて」
「エ、ミさん?」
「まだ生きてるから安心しろ」
エミさんの声が聞こえて要約、目の前が見えた。ここで目の前が見えたのは、エミさんとダリアさんがもう生きていないのかもと思っていたが、生きていたからかもしれない。
まだ油断はしてはいけない。ここを襲撃してきた犯人は見つかってすらいないのだから。
「で、でも2人共...」
「そんな...」
サヤさんが指を指した方を見ると、左腕が無いエミさんと、右腕が無いダリアさんが立っていた。その衝撃的な光景に吐き気を覚えた私は、手で口を押さえた。
「さあ、早く」
「でも」
「でもじゃない!早く逃げるんだ」
エミさんに早くと言われたけど、私はこんなお別れをしたくない。引き止めたいが、ダリアさんに逃げろと強く言われてしまった。
「逃げるわよ」
「い、いや」
「私達がここに居て何ができるの?」
「...」
2人を置いて逃げるなんて事はしたくない。せっかく仲良くなったし、これからさらに仲良くなりたいと思っている。
しかし、サヤさんは私に正論を言い、現実を叩きつけてくる。
「そうだ、サヤが正しい。これからの英雄候補はお前ら何だからしっかり生きて強くなれよ」
「ごめんね、アスター。もっといろいろ教えたかったけどできそうにないわ」
「ダリア師匠...」
「エミさん...」
話を聞いていた2人が、最後に言い残したい言葉のような事を言ってきた。
「走って!」
「いやああああああ!」
「これでいい」
「ええ、そうね」
2人を置いていきたくない私は、ここに残って一緒に戦う覚悟を決めていたが、サヤさんに手を引っ張られ、強制的に逃げるという選択肢が選ばれてしまった。
引っ張られながら聞こえた2人の声は寂しそうで、でもどこか安心しているような声にも聞こえた
「音が」
「聞こえない!」
「光が」
「入らない!」
「...」
走っていると後ろから、激しく戦っている音と眩しい光が私の耳と目を刺激したが、サヤさんは全て無い物として無視した。
確かに私とサヤさんがあの場に居ても何もできなかっただろう。でも、エミさんが居なくなった未来を生き続けるくらいならその場に残って死んでも良かった。
そう思ってしまうくらいに、私はこの1日でエミさんに心を奪われていたのだ。
「んぐ」
「...」
「すみません、涙が」
耐えようとしていた涙がこらえきれず、目から出て止まらなくなってしまった。
こんな逃げてる時に涙を流すのはサヤさんの迷惑になるはずなのに、止まってくれない。止まってよ、お願いだから。
「出てない!」
「え?」
「出てないって言ってるの!」
私は下を向き泣きながら走っていたが、サヤさんの声に違和感を感じ、前を見ると、私と同じように涙を流している。
何でこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。悲しいのは私だけじゃなくてサヤさんも同じに決まっている。
「何か来る」
「一体何が」
サヤさんと私は、後ろから聞こえてくる風を切る音に違和感を持ち、振り向いた。
何かが可笑しい、風を切ったはずなのに前から嫌な音が聞こえた。
「いや、いやぁ」
「うぐっ」
前を向くと、すぐそこで両腕の無い息絶えたダリアさんが横たわっていた。
辺りに生えている草は赤く染まり、血の臭いが漂っている。
元英雄候補の人がこんなにあっさりと殺られてしまうなんてありえない。
「2人共!」
「エミさん」
「私はもう保たないからお願いがあるの」
次は、敵の攻撃を避けるような動きでエミさんが私達の前に現れた。一瞬安心した私だったが、もう保たないというエミさんの言葉を聞いて地獄に落ちるような絶望を感じた。
「お願い?」
「私の右手を握って」
「エミさん...一体何を」
エミさんからのお願いは簡単な物で、手を握って欲しいと、ただそれだけだった。でもこんな時に何で手を握るのか全く分からない。
もうすぐお別れだから最後に手を繋ごうと言うのなら、私は握りたくない。
エミさんの慌て様を見ていると、何か作戦があるのかもしれないと思えてくる。サヤさんも私と同じ事を考えているのだろうか。
「私ね、貴方達が英雄候補になって活躍して帰ってきた姿を見たいの。だからお願い、言う事を聞いて」
「...」
「...」
「はい」
「分かったわ」
「フフ、良い子達ね」
エミさんの想いを聞いた私とサヤさんは、無言で見つめ合い、手を握る決断をし、エミさんに頭を撫でられた。
「よし、握ったわね」
「一体何をするのですか?」
「テレポート、英雄候補育成機関」
「ちょっと待っ」
「嫌、離れたく」
手を握ってすぐ、エミさんが早口でテレポートと行き先を唱えると、隣に居たサヤさんの声が聞こえてすぐに目の前が真っ白になった。
☆
「ここは...」
「育成機関です」
「あ、貴方は?」
「私は育成機関のリーダー、オウカです。お見知りおきを」
「アスターです」
テレポートで飛ばされた私の目の前に居たのはオウカさん、育成機関のリーダーらしい。
私がここに来たという事はサヤさんも居るはずだけど、横に居ないどころか辺りを見渡しても見当たらない。
「サヤ様なら、先にお目覚めになり、外に出ましたよ」
「目覚め?」
「ええ、サヤ様は1時間で目覚め、アスター様は2時間でお目覚めになりました」
「っ!」
「お気をつけくださいませ」
私達は寝てて、サヤさんが先に目覚めて外に出た。そう聞かされた私は居ても立っても居られず、走り始めた。
オウカさんには心配をかけてしまうかもしれないが、今はそれどころじゃない。
「サヤさん!」
「やっと起きたのね」
外に出ると、夜空を眺めながら涙を流しているサヤさんが座っていた。
私の声が聞こえて少し恥ずかしくなったのか、自分の着ている服の袖で涙を拭いている。
「アスターもこっちに来て泣きなさい」
「え?」
涙を流すサヤさんに気まずさを感じ、立ち尽くしていると、泣くならこっちに来てと言われた。
目の近くに指を当てると、確かに私の目からは涙が溢れていた。
「大事な話があるの」
「うぅ...はい」
「ほら、ハンカチ」
隣に座ると、サヤさんから大事な話があると言われたが、今はそれどころじゃない。
そんな私を見たサヤさんはアサガオ柄のハンカチを貸してくれた。
「も、もう大丈夫です」
「分かったわ」
「大事なお話って」
涙をハンカチで拭き取り、少し落ち着いた所で会話を始める事にした。
「師匠を生き返らせれる事ができるかもしれないという話よ」
「え?」
英雄は報われない @yamiyamiti
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