第8話 英雄候補
「え、えっとどうしようかな」
「聞こえる〜?」
「あ、はい聞こえます」
炎に囲まれた私は不思議と、不安どころか、気分が高揚している。
何でなのかは分からないけど、もし可能性があるのだとしたら、魔法を使えて気分が良くなっているからという単純な理由なのかもしれない。
気分が高揚し立ち尽くしていると、目の前からエミさんの声が聞こえてきた。
それは心配の声ではなく、満足気な声だった。
「今から炎消しちゃうけど、良いかしら〜」
「良いですよ〜」
燃え盛る炎の音が邪魔で、私とエミさんは少し大きな声でやり取りをした。
もう少しこの炎に囲まれて余韻に浸っていたい所だけど、ずっとこの中に居る訳にもいけない為、エミさんに炎を消してもらう事にした。
でもどうやって、この燃え盛る炎を消してくれるのか、私には皆目検討も付かないが、取り敢えずエミさんに任せてみよう。
「じゃあ行くわよ!」
「は、はい。いぃぃぃ!?」
行くわよとエミさんが言った瞬間、大きい音と共に私の作った炎が一瞬で消えた。
目の前には、杖をこちらに向けているエミさんが立っている。
一体何をしたのだろうか。
「あ、ありがとうございます」
「良いわよ」
「何をしたんですか?」
「何って、魔法をキャンセルしただけよ」
エミさんが何を言っているのか全く分からない。魔法をキャンセルする事ができる人何て今まで聞いた事が無い。
もしそれが本当なのだとしたら、何故英雄候補の時にボスを倒せなかったのだろうか。
あまり元英雄候補の人の過去を聞くのは良くないけど、どうしてもその魔法についてだけは聞いてみたい。
「そんな魔法初めて見ました」
「魔法じゃないわ。これはね、英雄候補が星に行く前に与えられる能力なの」
「能力?」
「そう、能力は神からのギフトと言われてるから、英雄候補の人しか知ってはいけないの」
神から授かったギフトがあると聞いた私は、何故かワクワクしてきた。
さっきまで英雄候補何て嫌だと思っていたのが嘘かのようだ。
「あ、あの」
「さあもう一回何か打ってみて」
次に、与えられる能力にどれ程のクールタイムがあるのかを聞こうとしたが、エミさんはもう一度魔法を打ってほしいとアンコールしてきた。
「あ、えっと...。はい」
「フフ、私夢だったの。こうやって先生になって魔法を教えるの」
まだお話を続けていたいと思った私だったが、エミさんの想いを聞いたらまだ修行をしなければいけない気持ちになってきた。
いや、しなければいけないというよりは、したい気持ちになったのだ。
私もいつかこんなカッコいい英雄候補になってみたい。
「エミさん...。私、頑張ります!」
「何、その顔?」
単純だって言われても良い、だから今すぐにでも修行を始めて強くなっていきたい。
そんな想いを心に宿し言葉に出すと、エミさんは口を抑えて少し笑っていた。
「それじゃあ始めましょうか」
「はい!」
☆
「つ、疲れた」
「お疲れ様」
あれから約2時間が経過し、私の体は疲れによって歩く事すらもできなくなっている。
このままでは一生動けなくなるのではないかと心配になるくらいだ。
そんな私を見たエミさんはゆっくりとこちらに歩いてきて、労ってくれる。
「あ、えっとありがとうございます」
「にしても凄い魔力の量だったわね。あんなに連発できる人は滅多に居ないわ」
「嬉しい...」
動けない私をゆっくりと引き上げ、おんぶをしながら褒めてくれるエミさん。
疲れが一瞬で吹き飛ぶような感覚と、褒められた事による嬉しさで風が吹き抜ける感覚で私の心は満たされた。
こんな日々が続くのなら、このままエミさんの弟子として修行をし、英雄候補として活躍してみたい。
「今日は家に着いたらご飯でも食べてゆっくりしましょう」
「はい!ご飯が楽しみです」
私とエミさんは、夕日を眺めながらこれからの話をして家に向かった。
さっき修行をしていた場所を見ると少し物足りなく感じて来るけど、今はそれよりもこの他愛も無い会話をしている時間が楽しく感じた。
☆
「あ!帰って来たわ!」
「ふむ、お風呂を沸かしておいて正解だったな」
お家に着くと、玄関の前でサヤさんとダリアさんが私達を出迎えてくれた。
しかもお風呂を沸かしてくれていてとてもありがたい。
体がボロボロだから早くお風呂に浸かり、汚れを落としたいと思っていた。
「あ、ありがとうございます」
「全然良いのよ!エッへん!」
「風呂沸かしたのは俺だろ?何がエッへん!だ!」
私が感謝を伝えると、サヤさんがニコニコしながら腰に手を当てた。
でも、実際に沸かしたのはダリアさんだったらしく、怒りながら自分がやったのだと強く言った。
親切心でやった事が他の人のおかげになりそうになっているのだから無理も無い、もし私がダリアさんの立場だったら間違いなく心の中で怒る。
え?何で声に出さないのかって?喧嘩をするのが怖いから。
「あ、あの。ダリアさん、ありがとうございます」
「おう」
お礼を伝えると、目の前に立っているダリアさんは頬を赤らめて返事をしてくれた。でも、何で頬を赤らめているのか私には分からない。
ただお風呂を沸かしてくれた事にお礼をしただけで、特別何かをしたり言った訳では無い。
「あれ、もしかしてダリアったら照れてるの?」
「照れてねぇ!」
「もお、ダリア師匠ったらぁ。このこのぉ」
「おいこら、横腹を突くな!」
ダリアさんの頬を赤らめる姿を見たエミさんは、ニコニコしながらダリアさんに問う。
ダリアさんは図星を突かれたかの様な反応をして否定したが、私達3人は照れている事を知っている為、否定してももう遅い。
その証拠に、サヤさんが笑いながらダリアさんの横腹を突いている。
「まあ、仕方ないよね〜。ダリアって昔から褒められ慣れて無かったし」
「う、うううるさい!」
「えい!えい!えい!」
「いつまで突くんだ!」
「結婚するまで」
「じゃかぁしい!」
昔の話を掘り下げられそうになって、焦っている様子のダリアさん。昔から褒められ慣れてないという事を知っているという事は、2人共同期の英雄候補だったのだろうか。
今すぐに聞いてみたい所だが、ダリアさんは大分疲れてそうだから聞きづらい。
もしここで聞こう物なら、私まで怒鳴られるかもしれない。
「はぁ、はぁ、ご飯を用意するからお風呂に入って来てくれ」
「だ、大丈夫ですか?」
「問題無い、はぁ、一応、はぁ、元英雄候補だからな、はぁ」
「問題無いらしいし行きましょうか」
「あ...えっと、はい」
明らかに誰がどう見ても疲れているようにしか見えない。ダリアさんは本当に大丈夫なのだろうか、もしかしたらお風呂から出たら倒れているかもしれない。
そんな心配をする私とは反対に、エミさんは楽しそうな顔をしている。
「おっ風呂、おっ風呂〜」
「...」
何でか分からないけど、初めて会った時のエミさんと今のエミさんが別人に見える。
私という英雄候補を見つけてテンションが舞い上がっているのかもしれない。もしそうなのだとしたら、大きなプレッシャーになるから辞めて欲しい。
プレッシャーに押しつぶされそうになっていると、気づけばお風呂場に着いていた。
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