第7話 英雄候補
「はぁ、これで扉を壊すの何回目だ?」
「うーん、分かんない」
「9回目だ」
「え〜、数えてるの?面倒臭い性格してるわね」
本当に根は良い子なのかな。数日で9回も扉を壊すって相当やばいと思うんだけど。正直に言えば今すぐここから走って逃げ出したい。
気が強い人苦手だから私に取ってこの空間は苦でしかないのだ。
「こら、壊した奴がその態度は可笑しいだろ?」
「はぁ、はーい」
面倒臭い性格と言われて、少し傷ついている様子の元英雄候補さんと、叱られている立場で有りながら面倒臭そうに返事をするサヤさん。
この空間の中で、私は空気になったかのように存在が薄れていく。
「何だその態度は」
「はいはい、そこまでよ」
「...」
ため息をしながら返事をしたサヤさんにムカッと来たのか、元英雄候補さんはまた怒りそうになった。
しかし、エミさんが子供の喧嘩を適当に止めるように元英雄候補さんの口を止めたら、静かになった。
「こほん、こちらはさっき私が言ってた英雄候補よ」
「え、えと」
「ほら、挨拶して」
部屋にある椅子に腰掛けると、エミさんが挨拶をしなさいと言ってきた。
人と余り関わって来なかった私は、今まで1日に1回しか挨拶をして来なかったけど、今日はこれで何回目だろう。もう覚えてない。
「は、初めまして!あ、アスターって言います。よろしくお願いします」
「ふむ、良い名前じゃないか。俺はダリアだ、よろしくな」
「アスター、よろしくね!」
クラスやら体育館やらの広い場所で挨拶をした私なら、目の前に居る2人に挨拶なんて余裕だ。
けど、私はここで1つ大きなミスをしてしまった事に気づいた。
挨拶だけでなく、よろしくとまで言ってしまったのだ。
そのせいで、このままでは英雄候補にされてしまうという不安が大きくなって襲いかかって来てしまった。
「ところで、さっき2人は何をしてたの?」
「修行だよ」
「えっへん」
挨拶が終わってすぐエミさんが話題を出し、会話が始まった。これから仲良くして行かなければならない、かもしれない人達との会話だと思うと少し緊張してくる。
今回の話題は2人が何をしていたのか、という簡単な物だ。しかし、内容が少し難しく、私がついて行けるのかが心配。
修行なんてまだ全然した事も無いから、仲間外れになっちゃいそう。
「へぇ〜、良いじゃない」
「まだ俺には届かないけどな」
「いや、当たり前でしょ」
「そうだそうだ〜」
エミさんは修行という言葉に興味津々の様子。何でか分からないけど嫌な予感がしてきてしまう。
まあ、何も起こるはずが無いよね、だって私まだ今日来たばかりの超ルーキーだし。
「どんな修行をしてたの?」
「私、魔法を使えないからダリア師匠と剣を使って戦ってたの」
「魔法を使えないっていう事は他が長けてるのね」
「そうだ、サヤの素早しっこさには俺も正直驚いている」
魔法を使えなくても英雄候補になれるという事は知っていたが、まさか目の前で本物を見る事ができるとは。
サヤさんが長けているのは素早やさ。さっき扉を壊した時に2人が間に合わなかったのはサヤさんの動く速さが速かったからだったのだろうか。
私の目では、そもそも斬る所すらも見えていなかったから素早やさに特化しているのは全く予想できなかった。
ってあれ?挨拶から私全然喋って無い気がするけど、気のせいかな。いや、気のせいじゃなさそう。
どうしよ...。
「で、戦った結果は?」
「攻撃が1回当たったの」
「本当に!?」
「ああ、傷はつかなかったが受けてしまった」
「凄いじゃない!偉いわね〜」
「えへへ」
結果を聞かれたダリアさんは一瞬だけ嫌な顔をし、サヤさんは笑みを浮かべていた。
それを見るだけで何となく結果が分かってしまった。
そして私はあまり見たく無かった光景を見てしまう。目の前でサヤさんがエミさんに頭を撫で撫でされているのだ
そんなのを見せられてしまったら、私もして欲しいなんていうしょうもない理由で英雄候補である事を認めてしまいそうになってしまうではないか。
「それじゃあ行きましょうか」
「どこに行くんだ?」
ん?エミさんが何を言っているのか全く分からない、行くとはどこに行くのだろうか。
ダリアさんも首を傾げている。
「勿論、修行よ」
「おいおい、1日目からか?」
エミさんはどうやら、ダリアさんの話を聞いて今すぐにでも私に修行をつけたくなってしまったらしい。
綺麗な瞳にキラキラ星が瞬いているのが見える。
流石に1日目はまだ早いのではないかと思ってくれていそうなダリアさんが本当に1日目から修行をさせるのかと質問している。
お願いします、ダリアさんに私の今日がかかってます。
「はぁ、良いじゃないか」
「でしょ!?」
「え〜羨ましいなぁ。私なんて3日目からだったのに」
「...」
希望なんてどこにも無かったみたい、ハハハ。ダリアさんは笑顔で親指を立て、サヤさんは羨ましそうに私の事を見ている。
「さ、行きましょうか、ふふふ」
「ひぃ」
ど、どどどどうしよう。今から修行なんてしたら、張り切ったエミさんに殺されてしまうかもしれない。
断る事もできないまま手を握られ、ゆっくりと扉に向かう私。
あの扉の先に地獄が待っていると思うと、気絶しそうになる。もういっその事、気絶して修行から逃げてしまいたい。
「さあ、始めましょうか」
「はへ?」
「どうしたの?」
お、可笑しい。1秒前まで中に居た筈なのに、もう外に立っている。
恐怖を覚えた私は辺りを見渡し、本当にここが外である事を再確認した。
「いつの間に外に?」
「ウフフ、軽く跳んだだけよ」
「...」
私の質問にエミさんは得意げに答えているが、正直言って怖い。
怖いと思ったのは、跳ぶ速度でもなければいきなり外に立たされているこの状況でもない。
エミさんが私に向けている期待の視線だ。
「私に杖を向けて何か打ってみて」
「え、えっと」
打ってみてと言われても簡単に出せないよぉ、風はさっき出したから他の物の方が良いのかな。
そう考えていると、頭の中に炎が浮かび上がったが、ここで使ってしまったら草が燃えてしまうかもしれないと不安になったから辞める事にした。
「何でも良いのよ」
「えーっとじゃあ決まりました」
「いつでも来てぇ〜」
私が今回出す魔法は炎に決めた。正直、何でも良いと言われると炎を打ちたくなってくる。
男のロマンだろうが何だろうが関係無く、私は派手で綺麗な炎を使いこなしてみたい。
『炎は、私の心の奥で燃え盛っている。自分を守る事と、誰にも明かしたくない気持ちを隠す為に』
今回、魔法を出す為に想像しているのは、単純な形やイメージじゃない。
私の性格で魔法を生み出したい。
「行きます」
「さあ来て!」
「ひぃ」
頭の中で出来上がった魔法を放つ前にエミさんに報告をすると、瞳がキラキラし始めた。
どんな魔法が飛んで来るのかが楽しみなのだろうか。
そんな期待を向けられ、脚がブルブルと震えてしまう。
「え、えい!」
「ん?」
魔力を体の奥底から放った瞬間、炎が杖からビームのように発射した。
しかし、それはエミさんを攻撃するようにではなく、私の包み隠すかのように円を描いた。
炎の奥からはエミさんの声が少しだけ聞こえた。
何故攻撃をするような魔法じゃないのかと疑問に思っているのかもしれない。
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