第6話 英雄候補

「え、えーと」

「どうしたの?」

「どうしてこんなに広い所に?」


 エミさんに手を引っ張られ、連れられて来た場所はとても広い建物。

 建物の中の前側には、演劇やダンスのできそうなステージがある。


「大事なお話があるからよ」

「ここでする必要があるのですか?そもそもここって」

「皆に報告する必要があるからね、ここは体育館よ」

「み、みみ皆!?」


 大事なお話と聞いた瞬間、嫌な予感がしてきた。そもそもそんな大事なお話を何故大勢の人に聞かせる必要があるのか、私には理解できない。

 もしかしたら私はそれを理解してしまえば負けだと思ってしまっているのかもしれない。


「緊急だからすぐに集まると思うし、大丈夫よ」

「そ、そうですか」


 そういう問題じゃない。私は平穏な生活を送りたいかだけだから人を集めて欲しく無いだけ。

 内心嫌だと思いながらも、エミさんと一緒にステージ裏で座って皆が集まるのを待機する。

 これからどうなるんだろう、私...。


「集まりましたぞ」

「ね、早かったでしょ?」

「そうですね...」


 私はカーテンを開け、ゆっくりと体育館を覗いて唖然とした。

 エミさんの言う通り、生徒達はあっという間に集まり、既に体育館で待機している。

 教室で自己紹介をするだけでも気絶していたのに、こんな状況を私は気絶せずに耐えられるのだろうか。


「私が全部話すからアスターさんは立っているだけで良いのよ」

「エミさん」


 緊張している私の心の中を読んでいるかのようにエミさんは微笑みながらそう言ってきた。

 ここで私が緊張しているのはエミさんのせいではあるが、有り難く思いエミさんの方を見て拝んだ。

 エミさんの微笑みが天使のように見えてしまったから仕方ない。


「さあ、階段を登りましょう」

「はい」


 体育館のステージ裏からステージに出る為に、ゆっくりと階段を登る。

 緊張しているせいで、今にも口から心臓が飛び出てきてしまいそうだ。


「は、はわわ」

「私の後ろに立って」

「は、はい」


 階段を登り、ステージの上に立つと、沢山の生徒がこちらを凝視している。

 威圧等は全くと言って良い程に無いけど、羨望の眼差しがこちらに向いている。私ではなくエミさんに向いているのだろうけど。


「えー、この度、私は英雄捜しを辞めさせてい頂きます」

「え、どういう事だよ」

「そんなぁ」

「あり得ない」

「もしかして」


 エミさんがいきなり英雄捜しを辞めると言い出すと、生徒達の悲しむ声が聞こえてきた。

 この流れってもしかして...。


「いきなりで申し訳無く思いますが、良い英雄候補が見つかりましたのでご紹介させて頂きます」

「隣の子!?」

「見た事無い子だな」

「一体何をしたの」


 嫌な予感が見事に的中し、不安や心配を通り越して叫びたくなった。

 生徒達の羨望の眼差しがエミさんだけでは無く、私にも向けられた。


「今日、この学校に入学をしたアスターさんです」

「よ、よろしくおおおお願いします」


 エミさんは私の名前を呼びながらマイクを向けてきた。逃げられる訳もなく、私は目を手で押さえながら挨拶をした。


「この年齢、そして入学初日、初めての魔法で30000という数値。これは最年少で英雄候補に選ばれても良い数値です」

「おいおいまじかよ」

「化け物じゃないか」

「羨ましいわぁ」

「俺でも12000が限界だったのに...」


 10歳で英雄候補に選ばれるというのは今までに一度も無かった。その偉業を私は成し遂げてしまったのだ。

 生徒達からの驚きの声が聞こえてきても全く嬉しくない。

 平穏な日常を過ごしたかった私からすれば最悪だ。


「という事で、初日から申し訳ありませんが、アスターさんは私が連れて行きます」

「え、ちょっと」

「あ、あのエミさん!?いきなりはちょっと」

「それでは」


 居ても立っても居られない様子のエミさんは私をお姫様抱っこし、飛ぶ構えをする。

 それを見た先生は止めに入ろうとしたが、残念ながら元英雄の速度には追いつけず、気づけば体育館のステージには誰も立っていなかった。


「流石エミ様だぁ」

「かっこいいわぁ〜」

「でも悲しいな〜」

「お前狙ってたのかよ」

「私もっといろいろなお話したかった〜」

「静粛に!静粛に!」


 ☆


 上には美人な顔をしたエミさん、前からは心地の良い風、今すぐにでも眠れそう。そんな呑気な事を考えている場合じゃないのは分かるけど、そうでもしないと衝撃で気絶してしまいそう。


「いきなりごめんね、居ても立っても居られなくて」

「は、はい...」


 あぁ、英雄候補の事を言って来ないという事はそう言う事か。

 今から私どこに連れていかれるんだろう。今日1日で家から学校、学校内にある職員室から保健室、そこから外で授業を受けて体育館、目が回りそうなくらい色々な所を周っていた。


「少しだけ我慢してね」

「え、ええ!」


 空を飛んでいるこの状況だけでも衝撃を受けたというのに、エミさんはさらに速度を上げた。それくらい今向かっている場所に早く着きたいのだろう。


「はい、着いた」

「は、速すぎます」


 気づけばもう着いていた。目の前には大きな建物が建っている。

 あれ、ここどこかで見た事あるけど...。また嫌な予感がしてきた。


「さあ、入って」

「お、お邪魔しまうま」

「うふふ、緊張してるのね」


 緊張をしすぎたせいで、建物の中に入る前に変な挨拶をしてしまった。

 やばい、本当に恥ずかしくて穴があるなら今すぐにでも入りたい、どうしよ。

 エミさんの笑みが明るすぎて、私の暗さと比較した時に更に恥ずかしくなってきてしまった。もうどうせならここで殺して欲しい、全く痛く無い殺され方が良いな。


「おーい、おーい」

「はっ」

「どうしたの?」

「す、すすすいません」


 変な事を考えていると、前からエミさんの声が聞こえてきて、現実に戻って来れた。

 建物の前でエミさんが手を振りながら扉の前で立っている。待たせてしまっていると焦った私は謝罪をしながらエミさんの元に向かった。


「全然良いよ」

「あ、ありがとうございます」


 エミさんの元まで行くと、扉を開けてくれた。許してくれた上に扉まで開けてくれる何て、やっぱり天使なのでは?ニヤニヤが止まらない。

 あー私の顔、今気持ち悪い顔になってるのかな。想像もしたくない。


「アスターって、可愛い顔するわよね」

「え、えええ!そ、そそそんな事無いですよ」

「え〜、私は可愛いと思うけどなぁ」


 私が不安に思っている時にこの言葉は心に染みる。正直に言えば、エミさんが女性な筈なのにドキドキしてしまっている自分が居て、変な気持ちになっている。

 何で私が欲しい時に欲しい言葉を言ってくれて、気にしている事に対して気づいてくれるんだろう。この人は天使を超えて神なのだろうか。


「そ、そんな可愛いなんて。ん?今、呼び捨て」

「あ、ごめん。嫌だった?」

「い、いえ少し驚いただけで、とても嬉しいです」


 天使を超えて神のようなエミさんに見惚れていたせいで、呼び捨てで名前を呼ばれていた事に気が付かなかった。

 エミさんは少し不安そうな顔をしているけど、呼び捨てにされた事は本当に嬉しく思っている。


「あ、そういえば、今日もう1人の英雄候補がここに来るの」

「ど、どどどういう事ですか?」

「1ヶ月前に英雄候補になった女の子がここに来るの。だから、顔合わせをして仲良くなってもらおうかと」


 私は本で読んだ事がある。英雄候補は見つかった地域で集められ、全員が18歳以上になったら一斉に星へと連れて行かれる、と。

 一度に星に行ける人数は7人までとなっている。


「今のところはもう1人居るんだけど、別の地域だから対面できるのは1人だけなの」

「へ、へぇそうなのですか」

「大丈夫、今日来る子、根は良い子って聞いてるから、ちなみに性別は女の子」


 どうやら、今の英雄候補は私を含めて3人居るらしい。エミさんが私を安心させようと、今から来る女の子は根は良い子と言ってきたが、その言葉のせいでさらに不安になってしまった。


「お、噂をすれば」

「も、もう帰ってきたのですか?」

「うん、多分もう入ってくる筈」


 外の音が聞こえたのか、エミさんは元英雄と英雄候補が帰ってきた事に気づいた。

 はぁ、どうしよう。

 根は良い子っていうのは不安しか無い。


「只今戻ったぞ!」


 扉がいきなり開き、男の人が入ってきた。髪の毛は赤色で、逞しい見た目をした好青年だ。

 そしてその後ろには青い髪の色をした、私と同じくらいの年齢の子が立っている。


「この扉邪魔ね」

「あ、こら待て」

「あ、やばいわね」

「ひぃっ」


 大きい扉が締まりそうになり、それを邪魔に思った青髪の女の子は剣を握った。その瞬間、元英雄が止めようとするが、間に合わずに扉がバラバラになってしまった。

 何て事をするんだろう、扉がバラバラになる音が大きすぎて私の心臓が飛び出そうになってしまったじゃないか。


「私はサヤ、よろしくね」

「は、はい...」


 扉をバラバラにしたのが楽しかったのか、笑顔でこちらに近づいて来て、手を握られた。

 根は良い子、根は...。私、生きて帰れるのかな。

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