第5話 英雄候補
「おお、大丈夫かね?」
「は、はい」
「君は新入生だから安静にね」
「ありがとうございます」
靴を履いて外に出てみると、そこには的に向かって魔法を打つ人達がいっぱい居た。
その光景に期待と同時に不安を感じていると、先生から話しかけられた。今回の先生は白い髭を生やした、おじいさん。
私の顔を見てすぐ、心配をしてくれた。
「授業を受けたくなったら言いなさい」
「あ、今すぐできますか?」
「ふむ、良いのだが今日は大事な日でね」
「大事な日ですか?」
せっかく学校に来たのだから、今すぐ授業を受けて魔法の練習をしてみたい。
けど、先生は複雑な顔をしながら髭を触り、今日は大事な日だと言ってきた。
もしかしたら今日は練習ができないのかもしれない、そう思うと少し残念な気持ちになった。
「実は今日、生徒達の強さを調査する元英雄が来るのじゃ」
「英雄!?」
「今は引退をしておるが、過去に4つ目の星までを救った強き元英雄だ」
さっきまで英雄の話をしていた為、あまりにもタイムリーで驚いてしまった。
今回来る元英雄さんは4つ目の星まで行った事がある、つまり、本物の強さを持っているという事。
話してみたい、ううん、魔法を教えてもらいたい。
「わ、私もやりたいです」
「ふむ、ならやってみなさい」
「え、良いのですか?」
「まあ、滅多に経験はできぬからの」
元英雄さんに魔法を教えてもらう事ができれば、早くお父さんとお母さんの所に帰られるかもしれない。
なら、できる事は全部やってみたい。例え低すぎて笑われても良い。
そう思い、先生にやりたいという意思を伝えた。すると、意外にあっさりと許可をもらえた。正直に言えば、無理だと思っていた。
「ありがとうございます」
「おーい、元英雄さんよ」
「え、な、なな何をしてるんですか?」
「初心者だからのう、挨拶をして顔を覚えてもらい、魔法を見てもらいなさい」
この先生、何をやってくれてるんだろう。確かに英雄さんと話してもみたいし魔法を教えてもらいたいとも思った。けど、練習の時間も無しにいきなりやらなきゃ行けないのは少しハードルが高いのではないか。
私はほんの少し、本当にほんの少し嫌な顔をしながら先生の方を見た。
「呼びましたか?」
「あ、えっと」
「こちらは新しい生徒のアスターさん。魔法を見て欲しい」
「あ、アスターです、よろしくお願いしましゅ」
「緊張してるのですね、私はエミ。そんなに硬くならないで」
いつの間にか、金髪の綺麗な目をした美人さんが前に立っていた。
いきなり目の前に現れた驚きと、美人さんが立っているという衝撃に余計に緊張をしてしまった私は挨拶で噛んでしまった。
どうしよう、凄く恥ずかしい。
「は、はい。エミさん、良い名前ですね」
「ふふ、ありがと」
「あの、私本当に魔法とかした事無くて」
「それじゃあ私が教えながら撃ちましょう」
見た目だけじゃ無くて中身も美しい、良い人だと言うのが少しの会話だけでもヒシヒシと伝わってきた。
「まずは頭の中で使いたい魔法を想像するの」
「想像...」
「そう、火なら火に該当する物を、水なら水に該当する物を、何でも良いわ」
いきなり想像と言われても中々思い浮かべる事ができない。
私はいつも何かを想像するのが好きで色々と先の事を考えたりもするけど、魔法を想像するのは中々に難しい。
でも私が好きなのは風。強すぎれば狂気にもなれるし、人が耐えられる程の風なら気持ちを癒やす事もできる。
「詠唱っていらないのですか?」
「詠唱は魔法が発現した後に頭の中に入ってくるの」
「つまり覚える努力をすり必要は無いという事ですか?」
「そうね」
想像をしたとしても詠唱が無ければ使えない。疑問に思ってエミさんに聞いてみると、初めて使うと同時に頭の中に詠唱内容が出てくると教えてもらえた。
「じゃあ最初に発現したばかりの魔法って」
「最初だけは詠唱無しで使えちゃうのよ」
「それって」
「危ないのよね、だから飛ばす前に周りには気をつけないと行けないの」
聞いておいて良かった。もしこれを聞いていなかったら、変な場所に魔法を飛ばして誰かに当ててしまっていたかもしれない。
私は風が好き、という事は風で誰かの事を切るかもしれないという事だ。
使う時は的だけを狙わないと。
「まあ基本はこれだけで良いのだけど、慣れるまでは杖が無いとね」
「これが、杖ですか?」
「ええ、今回は私のを貸してあげるわ」
「え、良いのですか?」
「良いわよ」
基本を教えてもらえた所で、エリさんから小さめの杖を頂き、片手で握った。
これで要約魔法が使えるのだと思うとワクワクしてきたし、緊張感が更に増した。
「おい、あっちで新入生が魔法を使うらしいぞ」
「しかも元英雄の前で?めっちゃ見たい」
「おーい皆、面白いのが見れるぞ」
あちこちから色々な声が聞こえてくるけど、正直に言えば辞めて欲しい。
元英雄のエミさんの前というだけでも緊張をしているのに、さらに生徒がいっぱい観てくるのは余計に緊張してしまって心臓に悪い。
「大丈夫よ、私がついてるから」
「は、はい。ありがとうございます」
私が緊張をしていて、生徒からの視線にも怯えているという事に気づいたエミさんは私の肩を手で触りながら緊張を解こうとしてくれた。
この人は英雄の他にも天使とかもやっていたのではないだろうか。
「ゆっくり息を吸って」
「すぅ」
「吐いて」
「はぁ」
生徒が私とエミさんを囲み、魔法を撃つ瞬間を今か今かと待っている中、私は緊張を消す為に深呼吸をして杖を強く握る。
すると、ゆっくりと緊張感が消えていき、準備が整って来た気がした。
「さあ、想像して」
『風、何もかもを簡単に斬ってしまう程の強く鋭い風』
「できたら言って」
『目で負う事も難しい速度の風』
自分の中での風を段々と完成させて行き、より狂気的な物を頭の中で創り上げる。
「できました」
「杖を前に出して」
できた事を伝えると、杖を前に出すように指示され、ゆっくりと前に出した。
まだ何も起きない、ここからどうすれば良いのだろうか。
「次は、体の内側に秘めている魔力を解放して」
「はい」
初めて親の前で魔法が発現した時と同じように魔力を出せば、ちょろっとしか出なかった風も今なら狂気的な風に変わっているかもしれない。
今回は完全に想像した風な訳だし。
「出て!風!」
「そうよ、それで出るの」
「え?」
「ん?」
杖から出た風が段々と大きくなり、球体のような形になって勢いよく的に的中した。
魔法を出した本人の私は勿論、エリさんもそれを見て驚きが隠せていない。もしかしたら私が想像した風は少し威力が高すぎたのかもしれない。
「おおおおおおお!」
「すげぇ、あいつ一体何者だ?」
「学生であんなの見た事ないわ!」
「こりゃおったまげたわい」
生徒と先生が私の魔法を見て唖然としている。無理も無いだろう。まさか魔法未経験者の新入生が、あの威力の風魔法を出したのだから。
「アスター、貴方一体何者?」
「え、えーと」
「あんなの、魔力の量と想像力が無いと出せないわよ」
私が何者なのか、そんなの私が聞きたい。親は魔法にも恵まれなかったし、親戚にも魔法を操れる人何て数人しか居なかった。
そんな私があんなのを出せる何て思えない。あ、もしかしたらこれは夢なのかも。
「ちょっとこっちに来て」
「え、あの、ちょっと」
夢なのかもと思っていると、エミさんから手を強く握られ、強い痛みが走った。
その瞬間、これが夢では無い事に気づいた。
手を握られてどこかに連れて行かれそうになる中、後ろを振り返ると30000という数字が的のあった所の上に出ていた。
「はぁ、ど、どうしよぉ...」
エミさんに聞こえないようにため息を溢し、小さい声で不安の言葉を漏らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます