第4話 英雄候補



 さっきまでの居心地良かった気持ちがゆっくりと消えていく。という事は、本当にあれは夢とか天国ではなく私の理想の空間だったんだ。

 ただ1つ残っているのは、心の中だけ正直になれたという点。声では言えなくても、心の中でなら本音を言えるから、ストレスが溜まりずらくなった。

 まだ目の前が全く見えない。私の身に何が起きているのだろうか。

 気になるけど、どうしても目の前が見えない。


「聞こえるかぁ」


 まだ何も見えないけど、やっと声が聞こえてきた。この声は多分、最後に質問をしてきたイクタ君の声、正直に言えば女の子が来てくれた方が気持ちが楽だから女の子が良かったけど居ないよりはマシかな。

 普段は1人が楽で好きだけど、気絶後に目覚めるなら誰か居て欲しい。


「き、聞こえます」

「目は開くか?」

「...少しなら」


 私は今の状況を正直に伝えた。声はしっかり聞こえる

けど目をあまり開く事ができない。

 できれば今すぐこの部屋から出て1人になれる場所に行きたい。だから早く開いて、私の目。


「...」

「どうだ?見えるか?」

「は、はい」


 やっと目の前が見えたけど、やっぱり目の前にはあの男の子が居る。

 この後ゆっくりバレないようにここを抜け出したい。けど隙を突かないと出られる気がしない。

 どうしよう。


「じゃあこれ何本に見える?」

「よ、4本です」

「ブッブー、今の彼女の人数でしたぁ〜」

「そ、そうですか」


 流石の私もそれはドン引きしてしまいそうだ。一番気持ちが悪いのは本数を聞いてるのに彼女の数と言ってきた所。

 今すぐにでもビンタして逃げ出したいくらいに気持ちが悪い。


「へっへ〜ん、あ痛!何すんだよ!」

「あんたの頭を殴った」

「それは分かる、何で殴ったんだって聞いてるんだ」

「いじめてるからでしょ」

「いじめてねーよ」


 少しスッキリした。気持ち悪い顔であんな事をしてきたイクタ君を殴ってくれた女の子には脱帽だ。

 でも、イクタ君は自分が悪い事をしたと認めたくないからか、何故殴ったのだと怒っている。

 何で分からないの?初対面にするべきではない質問をし、気絶をさせた挙句、ここでは彼女の人数を自慢。そんなのイクタ君が9割悪いに決まっている。

 残りの1割は私が気絶してしまって皆に迷惑をかけてしまった事。つまり、この1割はイクタ君に対しての悪かったでは無く、他の生徒に対しての悪かっただ。


「で」

「で?」

「俺の彼女になる気は無いか?いっぱい楽しい思い出作ろうよ」

「え、えぇぇ」

「へっ、あんた露骨に嫌な顔されてるわよ」

「うるせぇよ」


 いきなりでと言われて最初は何も理解できなかった私だったけど、次の言葉で全てを理解した。

 このイクタ君は私を彼女にしたいだけだ、と。

 誰がこんなチャラくて4人も彼女の居る人と付き合いたいと思うのだろうか。

 もし付き合うのなら私だけを見て欲しいから絶対に嫌。


「じゃ、振られた男はほっておいて教室に戻ろうか」

「は、はい。ありがとうございます!」

「振られてねーし!てか俺も教室に戻るし」


 棚からぼた餅とはこの事を言うのだろうか、何もしなくても女の子が教室に戻ろうと誘ってくれた。

 安心したけど、まだイクタ君は何か言おうとしてくる。何て面倒臭い人間なんだ。


「あれ、知らないの?」

「んあ?何が」

「あんた、今から生徒指導室行きよ」

「聞いてないんだけど」

「まあ、言ってなかったからね」

「は?ふざけんな」

「それじゃあね」


 有難い事にイクタ君は今から生徒指導室に行く事になっているらしい。これなら安心して教室に戻る事ができる。

 イライラし続けているイクタ君の前を歩き、扉の前に立つ。

 自己紹介も終わってるからここからはやっと楽な思いができる。そう思いながらゆっくりと女の子の後を着いていく。


「もう大丈夫よ」

「は、はい。ありがとうございます」


 女の子と一緒に廊下を歩いていると、いきなり辛くなってきた。

 初対面の子と何を話せば良いのか全く分からないせいで、頭の中が白くなってくる。

 あ、そういえばお母さんが言ってた。


 『友達を作る時はね、相手に質問をするの』


「あ、あの」

「ん?何?」

「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「ふふ、許可何て要らないわよ」


 まず一番最初に名前を聞いてみたが、変な聞き方をしてしまった。

 目の前の女の子は許可なんて要らないと笑ってくれている。

 もしさらに空気が重くなっていたらと思うとゾッとした。


「ご、ごごごめんなさい」

「謝らなくていいわよ。私の名前はラズリ」

「ラ、ラズリさん、良いお名前ですね」

「そうでしょ」


 会話が終わってしまった。私はなんでこんなにも頭が悪いのか、もっと話を続けられるような返事ができたはず。

 でも、ラズリさんって本当に良い名前。良い香りがしてきそう。あ、それはラズベリーだ。


「そういえば、次の授業を教えて無かったわね」

「授業、ですか!?」

「そうよ」

「た、楽しみ、です!どんな内容ですか?」

「魔法を的に当てて、威力を測るの」


 授業と聞いた私は、ワクワクしてきて思わずどのような内容かを聞いた。

 魔法を的に当てて威力を測るという事は、魔法を操れる事が前提での授業、少し緊張もしてきた。


「楽しそうですね」

「まあ、目に見える物は良い意味でも悪い意味でも盛り上がるわ」

「確かに」


 目に見える物は、結果が良ければ皆に驚かれたり自分でも喜べたりするけど、結果が悪ければ馬鹿にされ、自分でショックを受ける事になる。そう思うと授業を受けるのが少し怖い。

 もしラズリさんの言う良い意味と悪い意味がこれなら私は馬鹿にされてしまうかもしれない。


「数値は一応、この学校の物なら30000まで出るの」

「平均はどのくらいですか?」

「3000よ、学生で10000も出たら将来有望ね」

「という事は、30000を出せる学生さんは殆ど居ないのですね」

「そうよ」


 30000という数値を聞いてもしっくり来ないから、平均値を聞いてみたが思っていたよりも低かった。

 なら私はまず5000を目指そうかな。普通よりも少し上なら注目を浴びる程でも無いし、低すぎて馬鹿にされる程でも無い。


「30000を出す事ができれば、英雄になる素質があると認められて代表になれるかもしれないわよ?」

「え、あの英雄ですか?」

「そう、あの英雄よ」


 英雄は、好きな絵本によく出てきていたからどんな人達なのか、どんな事をするのか私は知っている。

 7つの星を渡って全てのモンスターを討伐し、平和を目指す人達だ。どの英雄グループもどこかの星で必ずリタイアして帰ってきているけど、モンスターの侵攻は抑えられ、この世界の平和は保たれている。本当に英雄には感謝しないといけない。


「星には別世界の人達が居るけど、1つの星に居るボスは中々倒せないらしいのよね」

「だから英雄が行かなければ行けない、という事ですよね」

「よく知ってるわね」

「絵本読んでましたから」


 7つの星にはそれぞれボスが居るけど、どれだけ強い人達でも中々倒せなかった。

 しかし、英雄達だけは違った。最終到着地点は違えど、必ず星をいくつか救って帰ってきた。

 噂によれば、それぞれの星に英雄がまだ1人ずつ残っていて、今も星を守っているらしい。

 ここで私は1つ疑問が浮かび上がった、7つ目の星以外のボスが討伐されているなら、7つ目だけを救えば良いのではないか、と。

 それが気になった私はラズリさんに聞いてみた。


「1つ気になったのですが、良いですか?」

「ええ、良いわよ。好きに聞いて」

「7つ目の星以外はボスが討伐されているのに、何で最初の星から行かないと行けないのですか?」

「7つ目の星を救わないとボスが全部復活してしまうの」


 私が今まで読んできた話にはそんな内容が書いて無かったから少し驚いてしまった。

 復活という事は、頑張って来た物全てが無駄になるという事。

 想像しただけで背筋が凍りそうになる。


「だから、英雄は星に残ってボス以外のモンスターを討伐し続けるの。たった1人で」

「1人?」

「そう、最後にリタイアの原因となった人は残される」

「そんな」


 1人も英雄が居なければ、モンスターの侵攻を止める事ができなくなってしまうのは分かるけど、流石に英雄が可哀想だ。

 私だったら絶対になりたくない。もし英雄候補が辿り着かなければ、その星で寿命を迎えなければ行けないのだから。


「あ、着いたわよ」

「ここですか」


 英雄の人達の事を考えながら少し歩くと、次の授業の場所に着いた。

 目の前には、靴置き場と外に出られるドアが見える。ここで靴を履いて外に出て授業をしろという事なのだろう。

 はぁ、緊張するけどやるしかない。

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