第3話 英雄候補
「じゃあ行くぜ」
「ふぅはぁふぅはぁ」
満面の笑みでこちらを見ながら質問をしようとしてくるイクタ君を見た私は、呼吸をするのも困難になってくる。
息をするのが苦しい、学校って楽しい場所じゃなかったの?何で私は親に追い出されて悲しみ、少し楽しみにしていた学校でも苦しい思いをしているのか。
神様は本当に意地悪。
「彼氏、居る?」
『彼氏、彼氏、彼氏、カレス?カレピ?...』
「だ、大丈夫ですか?」
聞かれた意味が分からない。一体この人は何を喋ってるんだろう。目の前がグルグルして、皆の顔が変に見えてきた。
彼氏?彼氏って何だっけ、先生が何か言ってる気がするけど、何を言ってるか分からないよ...。
「きゅう」
「え!9人もできた事あんの!?」
「違うでしょ?最低よあんた!」
「えぇ~何でだよ」
「おい、しっかりしなさい!誰か、早く回復魔法を!」
何を言っているのか分からないけど、言い争いのような話声や、大慌てな誰かの声が聴こえる。
あぁ、もう目が見えない、駄目...。
☆
何か聴こえる。誰かが私を呼んでる。けど、誰か全く分からないような声。
ここは一体どこなの?目の前が見えたと思ったら教室では無い所に居る...。
この心地良い風はもしかして。心地良い風を浴びてから気づいた、ここは海だ。
でも私さっきまで教室に居たはずなのに、本当に何が起きたの?
「おおおいいい、はやくぅぅはぁこぉべぇぇぇ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
空から、巨人が出すしそうな低い声が聞こえてきて怖い...。思わず悲鳴を上げてしまった。だけど何となく分かる。この声は先生で、早く運べって言っている。
「わ、私気絶したの、かな」
「うん、そうだよ?」
「だ、誰」
私が独り言を言っていると、誰かが話かけてきた。けど、全く知らない人で怖い。
見た目はキラキラしたピンク髪の女の子。私とは真逆で元気そうで少し羨ましい。
そんな事より、もっと大事な事があった。
「こ、ここってどこなの?」
「ここは貴方の作り出した理想の空間」
「空間?」
この子は何を言っているのだろう。全く分からないけど、ここが現実で無い事は分かった。
て言う事はここ天国?私、緊張のし過ぎで死んだの?風は心地良いし、ここなら一生居られる気がして来る。
「逃げたかったんでしょ?」
「逃げたい...」
「あの世界から」
「...」
「ほら、図星」
逃げたかった...。確かに私は逃げたかったのかもしれない。人と関わり合うのが苦手で、生きているだけで親に迷惑をかけてしまっていた。
だから私は親に追い出されてしまったのかもしれない。魔法何て本当はどうでも良くて、ただただ邪魔者な私を追い出したかったんだ。
「そう...私は」
「可哀想ね」
「あ、ああ貴方にそそそんな事言われる筋合いはな、無い」
「ふーん、頑張ってタメ口使ってるね」
「...」
「ほーら、また図星」
久しぶりにイラついてくる。いつも気が弱く何も言わないような私が、タメ口で知らない人に怒っている。もしかしたらこの空間でなら物事をはっきり話せるのかもしれない。
「何ですか!私の天国でくらい、私の好きにさせて下さいよ!」
「ふーん、言えるんじゃん」
「え?」
敬語に戻ってしまったが、それでも私はいつもより強めにハキハキと喋る。
すると、女の子は微笑みながら変な事を言ってきた。言えるじゃん?それはつまり、私が普段あまりハッキリと物事を言えない性格である事がバレているっていう事?
「貴方、何であの時しがみついてでも家に残らなかったの?」
「それは...」
原因は分かっている、私は流されるがままに生きてきたからこういう性格になってしまって、あの時もすぐに諦めてしまったんだ。
「親の期待に応えたかった、そうでしょ?」
「っ!!」
「ビンゴみたいね」
驚いてしまった。何でこの子は私の思っていた事とか考え方が分かるのか。何かの魔法?それとも私が分かりやすい?
確かに私は親の期待に応えたかったから追い出される時も反抗はしたけど家にしがみつくような事はしなかった。
「貴方、心が読めるの?」
「そんな事、できる訳無いでしょ」
「じゃあ何で」
「さあ、何ででしょうね」
心を読んでいるかのように言い当ててくる女の子に何故分かるのか質問をしたけど、教えてくれる確率は0%に近そうだ。
「お願いがあるの」
「何かしら」
「私をここに閉じ込めて」
我ながら変なお願いをしてしまった。正直、現実に戻っても良い事が無い。
自己紹介も失敗したし、親にも追い出された。私に何が残っているというのだろうか。
そんな私に救済くらいは合っても良いのではないかと思う。
「そんな事で」
「そんな事じゃ無い!」
初めてこんなに大きい声で怒鳴った。親に追い出された時もかなり大きい声を出していたが、ここで最高記録を更新。
私の人生はあまり良い事が無かった。それでも、否定はされたく無い。生きてきて辛い事はいっぱいあった。でも、その分楽しかった事もあった。
だから、そんな事と言われた私は怒鳴った。
「...。取り敢えず、閉じ込める事はできないの。私はその権限を持っていないから」
「そんな」
もし本当にここの空間が私の作った理想なのだとすれば、起きるかどうかは私に権限がある筈だ。
なら絶対に起きない、永眠する。そう思いながら床に寝そべって、心地良い風に当たる。
「私、絶対にここから離れない」
「それは絶対に無理」
「無理じゃない」
「無理」
ここから出たく無い為、私はここに残ると言ったが、絶対に無理と否定をされてしまった。
ムキになった私は無理じゃないと強く言ったけど、完全に否定をされる。
「そもそも、何で私の理想の空間に貴方が居るの?」
「内緒よ、いつか教えてあげる」
この空間が私の理想なのに、全く知りもしない女の子が居るのは可笑しい。
この海と心地良い風は確かに私が一生居続けたいくらいに理想な環境だけど、人が居て欲しいとは思っていない。
「貴方の名前は?」
やっぱりここの空間は凄い。いつもは質問をするのも心臓がバクバクで結局質問ができないのに、今は簡単に質問ができる。
まるで私が私じゃないかのようで、少し違和感を感じてしまう。
「あ、ああアスターって言いますよ、よよよろしくお願いします!」
「やめてぇぇぇぇ。思い出したくないよぉ」
「面白い反応をするわね」
気絶する前にした自己紹介を真似されてしまい、あまりの恥ずかしさに海の上で転がる私。凄く気持ち悪いけど、これなら暫くは黒歴史を思い出さずに済む筈。
それを思い出させたこの子に珍しくイライラしてきた。
私が今までで本気でイライラしたのは、ご飯に嫌いなトマトが入っていた時だけだった。
「ぐぬぬ...」
私がイライラした顔で女の子を見ていると、ニヤッとした顔で「まあまあ、そんな顔しないでよ」なんて言ってきた。
誰のせいなのか分かっている筈なのに知らない振りをしてくる女の子にイライラが止まらない。
「もういい!私に話かけないで」
「貴方が最初に私に話かけたんだけど?」
「...」
しくじった...。確かに最初に話かけたのも私だし、質問しているのも全部私だった。
図星を突かれた私は、ぐうの音も出す事ができず、黙りこけてしまった。
今、女の子はどんな顔をしているんだろう。ニヤニヤしながらこちらを見ているのだろうか、それとも共感性羞恥で顔を隠しているのだろうか。
どちらにしても見たくない。見たくない筈なのに何でか気になってしまう。
もういい、気になるし見てみよう。
「...え?」
見てみると、そこにはあり得ない光景が映っていた。さっきまでのイライラが全て吹き飛んでしまうような光景に思わず、声が出てしまった。
「何で、泣いてるの...?」
「こ、これは違」
「これ、ハンカチはあるから...」
流石に言い過ぎたと反省をした私はポケットからハンカチを取り出して、女の子に渡した。
今まで人を泣かせた事が無かった分、見ていて余計に辛くなる。
「アスターは本当にずるい、ズルいよ...」
「ん?何?」
「また会った時に返す、だから私の事忘れないでね」
「私残るって」
ハンカチで涙を拭いている女の子は、私に別れを告げている。
またいつか会って返すという事は本当にこの理想の空間から引き剥がされるという事なのだろうか。
「言ったでしょ、ここはあくまで理想の空間、時間が無いの」
「そんな」
「バイバイ」
女の子は、私の言葉を遮るように時間が無いと言い、悲しそうな顔をしながら手を振っている。
どうしてもここから離れたく無いから、女の子の言う事はあまり信じたくない。けど、女の子が本当の事を言っているというのは悲しそうな顔を見ていれば分かる。
「最後に名前だけ」
「...」
☆
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