第2話 英雄候補
泣きながら外を歩いていると、いつの間にか学校に着いていた。いつまでも泣いていると、いじめられるのではないかと心配になった私は人気の無い所で、泣き止むのを待った。
よく考えると、私は転入生だ。入学式なんて無い。つまり、教室で1人で自己紹介をしなければいけなくなるという事だ。
「ど、どうしよ...自己紹介って何を言えば良いの?」
自己紹介何て、ただ自分の名前を名乗って、趣味や好きな食べ物を答えれば済む事。2人からはそう言われていたが、それすらも緊張するし、どう思われるのかを考えると、言葉何て1文字も出てこなさそう。
「と、取り敢えず練習しないと」
まだ時間はある。何回も反復練習をするような時間は無いけど、少しは喋られるようになる。そんな希望を抱き、人気の無い場所で練習をしてみる事にした。
「わ、わたちは」
噛んでしまった。これが本番だったら、その場で頭が真っ白になって倒れてしまっていた事だろう。そんな事を想像すると、余計に緊張感が増してきた。このままでは、練習の時点で失敗をし続け、成功する事何て1度も無いんじゃないかと思えてくる。
「私は、アスターです。よろちく」
次は、名前を名乗る事ができた。しかし、次のよろしくお願いしますのよろしくの所で噛んでしまった。私は一体何をしているのだろうか。冷静になった途端、いきなり恥ずかしくなってきた。
普通、自己紹介の練習をする人なんて居ないのではないか。
私はそれすらも分からない程、人との関わりを避けて来て、甘えて来たのだから自業自得だ。
「もう良いかな...」
とうとう覚悟を決めた私はまたゆっくりと歩き始め、学校の門を通った。周りには同じ制服を着た人達が沢山居て、それだけでも少し緊張した。
「おはようございます」
「おはよぅございますぅ」
いきなり、先生らしい人が挨拶をしてくれたけど、緊張してしまっていたせいで変な挨拶で返してしまった。
ここまでコミュニケーション能力が無いと、自分でも自分がヤバい人間なのではないかと思えてくる。このまま成長したら、いつか口を開く事のできない屍になりそうで怖い。
「こ、ここが...」
校舎内に入り、渡された案内の紙通りに歩き、教室の前に立つ。ここでさらに緊張が襲ってくるせいで扉を開く事ができない。
「あれ、何か書いて...」
紙をよく見ると、職員室に来るようにと書いてあった。何でなのか全く分からない。けど、そう書いてあるならそうしようと思い、職員室の前に立つ。
「よし、開けまーす」
「おお、来たかぁ」
ドアをゆっくりと開けると、大人の人達が沢山居て、椅子に座って何か作業のような事をしていた。だけど、今はそんな事はどうだっていい。同年代の人達なら耐えられても、大人の人達がいっぱいいると、萎縮してしまう。
「あ、あの...私どうすれば」
「そこで座って待っててね〜」
「は、はい...」
私は椅子に座っていて気づいた。ここに居る人達は全員先生だ。
そう知った途端、さらに緊張感が増した。
「うん?」
「え、ええと...。おはよう、ございます」
「うん!おはよう!」
椅子に座って待っていると、生徒が職員室に入ってきた。その生徒に挨拶をすると、返事をしてくれて、それが嬉しかった私は、思わずニッコリとしてしまっていた。
コミュニケーションを取るというのはこう言う事を言うのだろうか。
「さあ、時間だ。行こうか」
その後、数分くらい座って待っていると、先生に呼ばれた。今から私は、沢山の人の前で挨拶をする事になる...。
正直に言えば今すぐにでも帰りたい。もし、自己紹介中に噛んでしまったらその場で倒れる自信がある。
「まあ、緊張しなくても良いよ。皆優しいから」
「そ、そうですか...」
職員室を出て、少し若い担任の男の先生と歩いていると、緊張はしなくても良いと言われた。
でも、心配性の私はその言葉で安心する事はできず、顔がゆっくりと段々下に向いていく。
「ここだ」
「は、はい」
緊張しながら歩いていると、いつの間にか教室の前に立っていた。
ここだと言いながら扉の取っ手に触れる先生。私は、それを引いてしまったら死んでしまうというような顔をしてしまった。
しかし、先生はそれに気づかない。
「皆さん、おはようございます」
「お、おおおおはようございますすす」
先生が丁寧な挨拶をして中に入った後、私は緊張のせいで変な挨拶をして教室に入ってしまった。勿論、目の前の同級生の顔なんて見れる筈がない。だって、人見知りだから。
今皆はどんな顔をしているのか、見えない私には全く分からないけど、期待外れが来たと言いたそうな顔をしているに違いない。
「アスターさん、前を見なさい」
「ひゃ、ひゃい!」
前を見なさいと言われた私は変な返事をして前を向いた。
目の前には、沢山の生徒が居た。私を物珍しそうに見ている生徒の目が少し怖くなって目を閉じてしまいそうになる。
けど、ここで一歩踏み出さないと後で辛くなるのは自分。
私はそう割り切る気持ちでしっかりと目を開いた。
「それじゃあ、黒板に自分の名前を書いて自己紹介をお願いします」
「は、はいぃ」
来てしまった、この時が...。私は緊張をしながらも、手を伸ばして黒板に名前を書く。とは言っても、ただアスターと書くだけだからここまでは心臓が飛び出る程の緊張はしてい無い。
だけど問題はこの後、趣味とか好きな食べ物とか紹介する事。
「あ、ああアスターって言いますよ、よよよろしくお願いします!」
名前を書いて読みあげたけど、緊張のしすぎで変な自己紹介をしてしまう。
本当に大丈夫か、そんな不安と共に私は1つの賭けに出た。ここで挨拶だけをして何も言わなければ他の事は何も言わなくても良くなるのではないか、と。
「...」
「ふむ...」
先生も何も言ってこない。これはもしかして成功したのではないか。先生の顔を伺ってみると、少し微笑見ながらふむって言っているし。
少し早いかもしれないけど、胸を撫で下ろす。
「それでは、皆さんからの質問をお願いします!」
『いぎゃぁぁぁぁぁぁ!』
さっきまでの私の期待を返して欲しい。何で?何でさっきこっちを向いて微笑んだの?
皆から見れば、表ではまだ何も焦りを出さず、ボーっとしているように見えるかもしれないけど、内心では悲鳴を上げながら口から泡を吹いている。
まだギリギリ耐えている証拠だけど、いつまで耐えられるか分からない。
「はい!」
「はい、ベアさん」
早速手を上げた金髪の女の子が1人。正直に言えば、あまり答えずらい質問はして欲しくないけど、そんな質問が飛んでくるのだろうと覚悟を決める。
「趣味は何?」
「しゅ、趣味は音楽鑑賞です...」
「え、私も!また一緒に何か聞きたい!」
「そうですね...」
趣味を聞かれたが、これは想定済みだったからすんなりと答える事ができた。
でも私は1つ大きなミスをした。何で音楽鑑賞何て言う万人受けの趣味を答えてしまったのか...。そのせいで人と関わらなければ行けなくなってしまうではないか。
「次、質問のある人は?」
「はい!」
『も、もう辞めて...。私を殺す気?』
次の質問は一体何が飛んでくるのか。嫌な質問だったらどうしよう。今すぐ逃げ出したい。
「アスターさん、何歳なの?」
「え、ええと、10歳です」
「へぇ〜、つまりまだ魔法を使えるようになったばかりって事ね!」
「は、はい...」
次に飛んできた質問は、年齢だった。この学校は年齢関係無しにクラスを振り分けられるから、違和感は無い。
「さあ、次の質問は?」
「はーい!」
もう辞めてよ。そんな事を思っても口に出せないくらいに気の弱い私は、諦めた。
一体どんな質問が来るのか、目の前を見る私。そこには目をキラキラさせた日焼けをしている男の子が立っていた。
どうしよう、女の子ならまだしも、男の子からの質問何て聞いたら私、私...。
「どうぞ、イクタくん」
「やった!」
「...」
先生が、男の子にどうぞと手を向けると、男の子は指パッチンをしながら喜んでいた。
私はと言うと、立ちながら頭の中が真っ白になっている。
あわわわわ、どうしよう。
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