第5話

 気付くとベッドの上。こ、このベッド……豪華すぎる……! 俺が寝ていいベッドじゃない!

「やあ。目は覚めたかな?」

「え、えっと、誰ですか?」

「びっくりした? 僕はトート」

トート様は優しい顔で俺を覗き込む。

「ギリシャ世界から、ねえ……スパイとして潜り込んで欲しかったけど無理そうだなあ」

トート様が物騒な話をし出す。

「さ、さっきから何の話なんですか?」

「あれ? 知らないの? 今ね、戦争中なんだよ」

「戦争⁉」

「そ。エジプトとギリシャと北欧と日本。まあ、一応、こっちは北欧世界と同盟を結んでるんだけど」

とんでもない話だったな……。俺はもう焦るどころか冷静になってしまっていた。

「君は中立って言ったみたいだけどこちらとしては僕たちに付いてほしいんだよね。どうする?」

どうしましょ……。ここで「いいえ」って言ったら殺されるし、「はい」って言ったらゼウス様に恨まれるな。無理です。決められません。俺が答えに迷って黙っているとトート様が唐突に言った。

「君、奴隷にならない?」

「は?」

「まあ、奴隷と言ってもただの侍従なんだけどね。最近、セトがよく奴隷を殺しちゃうから人手が足りなくて。セトってすぐ怒って殺しちゃうからなあ」

い、いやいやいやいやいや! そんな危険なところに⁉ 無理無理無理! 絶対セト様に殺されて終わるって!

「ね? お願い!」

トート様の可愛い顔が間近に。ぐっ……断れないじゃないか! ただでさえ顔が良いんだから!

「わ、分かりました……」

「本当? やった! ありがとう、コーガくん!」

うう……トート様には勝てねえや。


 「よ、よろしくお願いします!」

「ふん。変なそぶりでもしてみせろ。即座に斬ってやる」

ひいっ! やっぱりセト様、怖い!

「返事は?」

「は、はい!」

俺は挨拶を済ませて部屋から出ていく。それと入れ替わりにオシリス様が入っていった。

「セト~。おはよう。今日もいい天気だねえ」

「兄上はこのところ毎日、俺の部屋に入ってくるが、正直うっとおしい」

「まあまあ、そんなこと言わずに。大好物のレタスを持ってきたんだ。一緒に食べよう」

「誰がレタスなどっ……も、もったいないから食べるが!」

「ふふ~。美味しいねえ」

……え、オシリス様とセト様って兄弟⁉ しかもオシリス様はブラコン⁉ 衝撃の事実すぎる。あの二人、これっぽっちも似てなかっただろ⁉ 俺は慌ててその場を離れた。

 ここはいい場所だなあ。新人いびりも無いし、トイレが臭い訳でもない。神様はみんな優しいし(セト様以外は)、俺、こっちに付いてもいいかも。

「コーガくん、明日、お客様が来るから接待してね」

無茶ぶり以外はいいんだけどなあ。

「無理ですよ! 俺はただの使用人で!」

「使用人なら大丈夫!」

「大丈夫じゃないですよ!」

いきなり客の接待だなんて! 昨日はオシリス様をおんぶしたし(セト様に睨まれた)、その前はオシリス様に物をねだられたし(セト様に笑われた)、散々なんですけど⁉

「相手はフレンドリーだから! グッドラック!」

チクショ~! 神様なんて大嫌いだ!

 当日。目の前にはお客様。この人も神様なのだろうか。めちゃくちゃイケメン。が、二人。

「あ、君が噂のコーガくんか! へえ、よくできた人間だねえ!」

二人の内の片方が言った。

「え、えっと……」

「あ、ごめん。つい。俺はロキ。で、こっちが兄のオーディン。よろしくな」

ロキ様がにこっと笑う。はあ、イケメン……。一方のオーディン様はむすっと不機嫌そうだ。

「兄がごめんね? 不機嫌な訳じゃないんだ。兄は目つきが悪いだけで」

「おい、ぼくは目つきが悪いわけじゃない。お前に怒ってるんだ」

「何で?」

「今日はエジプト界からの呼び出しだから来ただけで別だったら行ってない。なぜなら! またお前が悪戯を仕掛けたからだ!」

「やだなあ、兄さん。落ち着いてくださいよ。俺はただネズミ用の罠を改良しただけで」

「お前は反省してないな! それに引っ掛かって怪我した者もいるんだぞ!」

「それは向こうがのろまだっただけですよ」

俺は思った。絶対にロキ様が悪い。ネズミ用の罠を改良して神様が怪我をした? ヤバすぎでしょ……。

「ちょっと、セト、聞いてよ! って、お客さん⁉ やだ、邪魔だったかしら⁉」

ドターン! と盛大な音を立てて飛び込んできた美少女。

「ネフティス。お前はまた扉を壊したな?」

「え? あ、やだ! ごめんなさい! 私ったら、また……今日で三つ目かしら⁉」

ネフティス様が顔を真っ赤にして謝る。慌てて来たらしい。セト様がネフティス様に用件を尋ねる。

「そう、そうなのよ! 聞いて! 私ね、仕事中にどうしても気分が乗らなくて散歩してたの! そしたらイシス様に会ったんだけど何て言われたと思う? イシス様ったら、私のこと、『いいご身分ね。豚みたい』って馬鹿にしたの! ねえ、ひどくない? ひどいわよね⁉」

けれど、答えたのはセト様じゃなくてオシリス様だった。

「イシスはまたそんなことを言っていたんだねえ。そろそろ注意しなければいけないかな?」

「オシリス様はお気楽すぎるわ!」

ネフティス様が涙目で訴える。う~ん、話だけだったらイシス様が悪いみたいに聞こえるけど。オシリス様がロキ様とオーディン様に言った。

「すみません。色々問題が起こりまして。良かったら泊っていってください」

けれど二人は辞退。

「いや、申し訳ないし、帰るよ」

「そうですか。本当に申し訳ございませんね」

二人は去って行った。問題はネフティス様とイシス様のことだけど。

「イシスを呼んでこよう」

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扉の向こうには神様がいた 星紫 @iiyo123123

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