第6話 騎従の理

「……熱い。いや、今度は『広がる』な。  

 この魂が、私という個を越えて、他者へと繋がる回路を形成していく感触。  

 ふふっ……ついに、ついに私は、あの忌々しい魚類という制約から解き放たれるのだな」


 進化の光が止み、私は静かに己の輪郭を確かめる。  

 体はそれなりに大きくなった。

 しかし、元々宙を泳いでいたので視界には然程変化はない。

  だが、違和感がある。

 背骨のあたりに、妙な『安定感』と『重厚さ』が増している。


「……。なんなのだ、これは。手は? 足は? 私を支えるべき二本の脚はどこだ?」


 私は、近くの磨かれた石壁を鏡代わりに、己の姿を凝視した。  

 そこにいたのは、人型の騎士ではない。  

 全身を白銀の骨の装甲で固め、背びれのあたりがまるで『鞍』のように平らに変形した、あまりにも立派な『騎乗用』の鯛であった。


【種族:スケルトン・ナイト】

【特性:人馬一体】

【特性:不落の骨鞍】


「……。……。ハッ、ハッハッハ! なるほど、そう来たか! 馬ですらない!

 世界は私に『剣を取れ』と言ったのではない。

 『剣を取る者を支えろ』と、そう宣うか!」


 私は、その場に崩れ落ちることはなかった。  

 ただ、壁を叩くピシッ、ピシッという乾いた音が、かつてないほど虚しく響いている。  

 騎士(ナイト)とは、馬に乗る者を指すのではない。

 騎士というシステムにおける『土台』もまた、騎士の一部であるという、あまりにも無慈悲な真理。


「いいだろう。望むところだ。  

 私が一人で戦うよりも、誰かを乗せて、その者に私の力を注ぎ込む方が効率的だというのなら、その不条理、有難く頂戴しよう。  

 だが……。はたして、私を乗りこなせる者が、この世界に存在するのかな?」


 その時であった。  

 通路の向こう側にこれまでに感じた事のない気配が漂っていた。

 私は石の柱に身を潜め、近づいて来るその気配に意識を向けた。


「姫様、もう間もなく最奥へと突入します。 少し休まれますか?」

「大丈夫! この奥にいるグレイヴ・タイタンを必ずテイムして、国を守るんだから!」


 ほう……グレイブと言う事は、この洞窟は、墓地か何かという訳か。

 しかし意外だな。

 この世界の人間が日本語を話すとは……いや、よく見れば違う。

 唇と言葉に妙な違和感がある。

 どうやら都合よく、この世界の言葉を理解出来る能力が私には備わっている様だ。


 しばらくの間、音もなく二人の美少女の跡を追う。

 二人の戦闘能力は大したことは無かったが、光る魔法を使うとスケルトン共があっけなく灰となっていく。

 様子を見て置いてよかった。

 あれをくらえば、私とて無事では済まなかっただろう。

 

 再び歩み始めた二人。

 そして、その先には広い空間が広がっていた。


 中央にはいかにもな巨大なスケルトンが聳え立っている。

 なるほど、あれが先程口にしていたグレイヴ・タイタンと言う奴か。


 姫と呼ばれていた方の少女が、長々と詠唱をした後、魔法を放つ。

 そこで初めてグレイヴ・タイタンが反応を見せた。


「そんな……テイミングを受け付けない!」

「姫様! お逃げ下さい!」


 グレイヴ・タイタンはその巨体には似つかわしくない俊敏な動きで反応して見せた。

 瞬時に距離を詰めたグレイヴ・タイタンの攻撃によって、姫を庇った少女が車にでも跳ねられたかのように吹き飛ぶ。

 しかし、この世界の人間には魔法がある。


 自らに光を宿し、傷を回復させたようだ。

 そして、これまで一撃でスケルトンを葬っていた攻撃魔法をグレイヴ・タイタンへと叩き込む。


 フフッ効果は薄い様だな。

 回復魔法があるとはいえ、二人は追い詰められ、ボロボロになっていく。

 やがて、最終手段とばかりに、少女が囮となって、姫を入口へと逃がした。


 姫は振り返ろうとするが、囮となった少女がそれを赦さない。

 彼女の言葉に、一筋の雫を零した姫が、入り口であるこちら側へと走り、向かってきた。

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