第3話 レベリング

「……ふむ。あれが、この世界の『一般的』な死者か」


 空中を滑るように泳ぐ私の眼前に、一体の魔物が現れた。

 それは、私と同じく『スケルトン』なのだろう。

 だが、その姿はあまりにも私とはかけ離れていた。

 二本の脚で立ち、錆びた剣を握る、人の成れの果て。


「同胞よ。一つ問わせてもらおう。その不自由な脚で、何を目指す?」


 返答はない。人型のスケルトンは、ギチギチと音を立てて剣を振り下ろした。

 私は【空中遊泳】で容易くその軌道を回避する。


「……遅いな。欠落しているのは肉だけではない。知性も、そして美学もだ」


 反撃として、私は空中から加速し、弾丸の如くその魔物へと体当たりを敢行した。

 今の私には強化された咬合力と、強固になりつつある骨がある。


 ――カツンッ。


「……ほう」


 手応えは、硬質な石を叩いたかのようだった。

 相手の骨には傷一つ付かず、逆に私の頭蓋に痺れるような衝撃が走る。

  圧倒的なレベルの差。あるいは、存在としての『格』の違いか。


「理解した。今の私では、貴公という壁を穿つことは叶わないらしい。  

 無意味な衝突を繰り返す程、私は愚かではない。……さらばだ、名もなき騎士よ」


 私は即座に転進した。 挑むべき時ではない。

 今の私に必要なのは、無謀な勇気ではなく、確実な『研鑽』である。


 それからの私は、ひたすら倒せる敵を探した。

 どうやら、動物の糞なども見つけたので、スケルトンとスライムの他にも生物と言う者がいるらしいな。


「フハハ……見つけたぞ」


 視界に入ったのは、不自然に彫られた大穴だった。

 しかし、そこには出られなくなったスライム達が大量に詰め込まれている。


 私は、スライムの群れに躍り込んだ。

 彼らにとって、私は『美味しそうな出汁の出る骨』に過ぎない。

 だが、私にとって彼らは『私の糧となる経験値』でしかなかった。


 一つ、食らう。二つ、砕く。

 スライムの体内を泳ぎ、核を噛み砕くたびに、私の骨格は密度を増し、鈍い金属のような光沢を帯びていくのを感じ取れる。


「……ふふっ、どうやら良い事ばかりではないらしい。

 私は重くなっている。 速度をつけると止まるのも一苦労だな。

 だが、急旋回は得意なままだ。 このままでも問題はない」


 不毛な殺戮を繰り返すこと、数刻。

 レベルが上がっても、大した能力など得られなかったのだが、ついに、私の意識に激震が走った。


【レベルが10に到達しました】

【一定の条件を満たしました。進化先を選択してください】


「進化……。不完全な私を埋める、新たな定義となるか?」


 目前に現れた選択肢は三つ。


【スケルトン・ソルジャー】ふむ、恐らく武器の扱いに長けたスケルトン。

【スケルトン・メイジ】こちらは魔法が扱えるのだな、実に面白い。

【ボーン・ゴーレム)】骨を繋ぎ合わせた怪物か。


「フハハハ……。選ぶまでもない。 私が求めているのは、人間の骨格だ。

 メイジであれば鯛のままの可能性もある。

 ならば選択しよう。兵士と言う意味である選択に鯛などありはしないのだからな」


 私は、迷うことなくその意志をインターフェースへと叩きつけた。

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