第3話 雷剣の名を呼ぶ
出発は、夜明け前だった。
王都の空はまだ暗く、魔導灯だけが街路を照らしている。
討伐隊の編成は最小限。速度重視――つまり、消耗品扱いだ。
「……名前を聞いていなかったな」
馬に乗る前、将軍が私に声をかけた。
「カエデです」
そう答えると、将軍は一瞬だけ目を細めた。
「カエデ。覚えておこう。
生きて戻れば、だがな」
「はい」
それで十分だった。
最初の任務は、前線近くの村を荒らしている魔王軍斥候の排除。
勇者の“練習”には危険すぎるが、私一人なら話は別らしい。
同行するのは、斥候役の軽装兵が二人だけ。
戦闘に加わる気はない。
「……本当に、あんた一人で?」
一人が、不安そうに聞いてくる。
「問題ありません」
雷と剣があれば、それでいい。
村は、静かすぎた。
家屋の壁には爪痕。
地面には、乾いた血。
「――来る」
そう言った瞬間、影が動いた。
魔王軍の下級魔――四体。
人型だが、動きは獣に近い。
「魔法、来ます!」
兵士が叫ぶ。
炎弾。
風刃。
土の槍。
同時多発。
私は刀を抜いた。
雷が走る。
詠唱はない。
集中もいらない。
雷は、最初から私の中にあった。
一歩。
雷を足に流し、距離を詰める。
二歩目で、炎弾を斬る。
熱は刃に触れる前に散った。
三歩目。
風刃が飛ぶが、軌道は見えている。
身体が勝手に最適解を選ぶ。
――剣豪。
一体目。
首。
二体目。
胴。
三体目。
雷を纏わせた踏み込みで、背後。
四体目が逃げようとした瞬間、
地面に雷を走らせ、動きを止める。
一太刀。
音が消えた。
私は刀を振り、血を落とす。
雷も、すっと消えた。
「……終わりです」
兵士たちは、言葉を失っていた。
「今の……魔法、使ってたよな……?」
「でも、剣しか……」
「雷だけです」
私は答える。
「他は使えません」
村の奥から、震える声が聞こえた。
「……だ、誰?」
隠れていた村人が、恐る恐る顔を出す。
私は、刀を鞘に納めた。
「王都から来ました」
それだけ言うと、村人の視線が変わった。
「勇者様……?」
「違います」
一拍置いて、続ける。
「雷剣です」
その言葉が、村に落ちる。
「雷剣……」
「剣で、魔法を……」
噂は、こうして広がる。
帰路。
兵士の一人が、ぽつりと言った。
「……勇者、いらなくないか?」
「それは、言いすぎです」
私は淡々と答えた。
ただ――
勇者が“万能”なら、
私は“最適”だ。
王都に戻る頃には、報告はすでに届いていた。
「魔王軍斥候、殲滅。被害なし……?」
将軍が、報告書を見て眉を上げる。
「名前は?」
「カエデです」
「そうか」
将軍は、はっきりと言った。
「雷剣のカエデ。
次は、本隊を任せる」
その夜。
王都の一角で、勇者の一人が噂していた。
「……雷剣、だってさ」
「剣士だろ?」
「でも、あいつ――」
私は知らない。
だが、もう始まっている。
雷しか使えない剣豪少女は、
確かに魔王へ近づいていた。
全属性が常識の世界で、雷だけ完璧な剣豪少女が勇者の代わりに魔王を倒しに行く @tomokage_satoru
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