第2話 勇者は役に立たないらしい

王都は、思っていたより静かだった。


 世界の命運が傾いているという割には、人々は日常を続けている。

 市場は開き、酒場は騒がしく、魔導灯は夜を照らしていた。


 ――だからこそ、余計に重く感じる。


 私は城門を見上げ、小さく息を吐いた。


「ここが……」


 王城。

 魔王討伐の中枢。

 そして、勇者たちが集められ、敗れていった場所。


 


 通達を受けた冒険者や兵士が、続々と中へ入っていく。

 私もその流れに混じり、身分証を提示した。


「……魔法学院生?」


 受付の兵士が、少しだけ眉をひそめる。


「はい」


「属性は?」


「雷、のみです」


 一瞬の沈黙。


「ああ……」


 納得と失望が混じった声。

 それ以上、何も言われなかった。


 雷しか使えない。

 この王都でも、それはすでに“知られた欠陥”らしい。


 


 広間に通されると、すでに何人かが集まっていた。


 重装の騎士。

 年配の魔導士。

 腕利きらしい冒険者たち。


 そして――


「……あれが、勇者?」


 奥の席に座る数人の若者たち。

 豪華な装備。

 魔力の量も、確かに多い。


 だが。


 視線が合った瞬間、彼らは逸らした。


「……また、補欠かよ」

「次の召喚、まだか?」

「こんな世界、聞いてないんだけど」


 小声の愚痴。

 苛立ち。

 恐怖。


 ――戦場に立つ人間の目ではない。


 


 やがて、会議が始まった。


「現状を報告する」


 前に立った将軍が、地図を広げる。


「第三勇者隊は、魔王軍第七将の前に壊滅。撤退時の損害も大きい」


 ざわめき。


「魔王軍は確実に戦術を学習している。勇者の万能魔法は、もはや通じない」


 その言葉に、勇者たちの肩が強張った。


「……では、どうするのですか」


 老魔導士が問う。


「新たな討伐部隊を編成する。勇者“だけ”に頼るのは、終わりだ」


 


 その瞬間。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 勇者の一人が立ち上がった。


「俺たちは選ばれた存在なんだろ!? もっと装備とか、情報とか――」


「すでに十分だ」


 将軍の声は冷たい。


「問題は力ではない。覚悟だ」


 勇者は言葉を失った。


 


 ――なるほど。


 役に立たない、という噂は誇張ではないらしい。


 


 私は、静かに一歩前へ出た。


「発言を」


 場の視線が、一斉に集まる。


「……君は?」


「雷属性しか使えない、魔法学院生です」


 一瞬で、空気が緩む。


「雷だけで、魔王軍と戦うつもりか?」

「無謀だ」

「若いの……」


 想定通りの反応。


 だから私は、腰の刀に手をかけた。


 


「――試させてください」


 ざわつきが止まる。


「魔法演習場で。

 勇者の誰か一人と、模擬戦を」


「なっ……!」


 勇者たちが色めき立つ。


「冗談だろ!?」

「剣士だぞ!?」

「魔法も雷だけじゃ――」


 


「条件は一つ」


 私は、勇者の目を見た。


「全力で来てください」


 


 演習場。


 結界が張られ、観覧席には関係者が集まった。


 対峙するのは、若い勇者の一人。

 火・水・風・土・雷――すべて使える“万能”。


「後悔するなよ」


 彼が詠唱を始める。


 同時に、私は刀を抜いた。


 


 雷が走る。


 詠唱が終わるより早く、距離を詰める。


「――っ!?」


 風の壁が展開される、その“瞬間”。


 私は斬った。


 雷を纏った一太刀が、魔法障壁を“切断”する。


 結界ごと、音を立てて裂けた。


 


 次の瞬間、刀は勇者の喉元で止まっていた。


 


 沈黙。


 


「……勝負あり」


 誰かが、かすれた声で言った。


 


 私は刀を収める。


「万能魔法は、強いです」


 そうして、続けた。


「でも――遅い」


 


 将軍が、ゆっくりと笑った。


「決まりだな」


 


 こうして。


 雷しか使えない剣豪少女は、

 正式に“勇者の代役”として、魔王討伐隊に加わることになった。


 勇者たちの背中越しに、私は思う。


 ――この世界は、

 剣と雷の速さを、まだ知らない。

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