全属性が常識の世界で、雷だけ完璧な剣豪少女が勇者の代わりに魔王を倒しに行く
@tomokage_satoru
第1話 雷しか使えないと言われた
雷魔法しか使えない。
それが、この世界で生きる上でどれほど致命的な欠陥か、私はもう嫌というほど知っている。
「……もう一度やってみなさい」
魔法学院の訓練場。
円形の石床の中央で、私は深く息を吸い、詠唱の言葉を口にした。
「——火よ」
何も起きない。
空気は静まり返り、見学していた生徒たちの視線が突き刺さる。
失望、嘲笑、あるいは同情。どれも慣れたものだった。
「次、水」
教師の声は淡々としている。
私は同じように詠唱する。
——無反応。
「風」
——沈黙。
「土」
——やはり、何も。
周囲から小さなざわめきが起きた。
「やっぱり……」
「本当に雷しか無理なんだ」
「初級魔法すら一属性限定って、逆にすごくない?」
誰かの笑い声が混じる。
初級魔法は“できて当たり前”。
火・水・風・土・雷——最低でも五属性。
それがこの世界の常識だった。
雷だけ。
それ以外は、どれほど努力しても、どれほど繰り返しても、私には反応しない。
「最後に雷」
言われるまでもなく、私は詠唱した。
「——雷よ」
空気が、震えた。
次の瞬間、私の指先から走った光が、訓練用の標的を正確に撃ち抜く。
焦げ跡は一切無駄がなく、中心点だけが焼き切られていた。
「……相変わらず、雷だけは完璧ね」
教師がため息混じりに言う。
完璧。
その言葉は、慰めにも誇りにもならなかった。
完璧でも、雷“だけ”なのだから。
「以上。席に戻りなさい」
私は何も言わず、静かに頭を下げて訓練場を後にした。
——前世の記憶が戻ったのは、十歳のときだった。
事故。
衝撃。
暗転。
そして気づけば、異世界の少女として生まれ変わっていた。
よくある話だ。
異世界転生。
チート能力。
勇者候補。
……そんな都合のいいものは、私にはなかった。
唯一、神様らしき存在から与えられたのは、ひとつのスキル。
《剣豪》
説明は短かった。
――剣を扱う才覚を与える。
それだけ。
魔法社会のこの世界で、剣士は補助的な存在だ。
魔法を放ち、結界を張り、遠距離から敵を殲滅するのが主流。
剣は、近接戦の“保険”に過ぎない。
だから誰も、このスキルに期待しなかった。
最初に剣を握ったとき、私は理解した。
理解、というより——体が勝手に動いた。
重心。
距離。
刃の通り道。
考える前に、最適解がそこにあった。
振るえば、当たり前のように当たる。
斬れば、当たり前のように斬れる。
努力も、修練も、不要だった。
剣を持っている間だけ、私は“完成している”。
学院を出た帰り道、街は騒がしかった。
「勇者様が、また……」
「第三陣もダメだったらしい」
「魔王軍、強すぎるだろ……」
噂は、すでに街中に広がっている。
異世界から召喚された“勇者”たち。
選ばれし存在。
全属性魔法を使いこなし、神の加護を受けた英雄。
——そのはずだった。
現実は違う。
勇者たちは敗れ、撤退し、あるいは帰らぬ人となった。
魔王討伐は停滞し、世界はじわじわと追い詰められている。
「……」
私は足を止め、腰に差した刀に視線を落とした。
魔法が使えなくてもいい。
全属性じゃなくてもいい。
雷だけは、完璧だ。
そして剣を握れば、私は迷わない。
その夜、王都からの正式な通達が出た。
——勇者召喚の失敗を受け、討伐計画は再編される。
要するに、勇者に頼る余裕はもうない。
「だったら」
私は、刀を手に取った。
雷が、刃に沿って静かに走る。
眩しくもなく、荒れ狂うこともない。
ただ、そこに在るべきものとして、雷は剣に宿った。
「私が行けばいい」
誰に言うでもなく、そう呟く。
雷しか使えない剣豪少女が、魔王を倒しに行く。
それが非常識だと言うなら、最初から慣れている。
魔法万能社会の異端が、
勇者の代わりに立つだけの話だ。
私は刀を鞘に納め、歩き出した。
雷と剣だけを連れて。
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