第6話 最後のデート
夜の公園。私はメッセージで湊くんを呼び出した。
私が送ったメッセージはすぐに既読になり、「公園で待ってる」という一言が返信されてきた。
約束の場所へ急いでいけば、街灯の下で、湊くんは私を待っていた。駆け寄る私の足音が響く。彼は顔を上げ、少しだけ驚いたように、それからひどく穏やかに微笑んだ。
「……実里。そんなに急がなくても、どこへも行かないよ」
その声の優しさに、泣きそうになるのを必死に堪える。湊くんは私の隣に立つと、少しだけ迷ってから、ポケットから手を出して私の震える肩に触れた。
「実里。俺、エリカとはちゃんと話して別れた。……もう、お前が嘘をつく必要はなくなったんだ」
彼の言葉は、私を縛っていた透明な鎖を1つ、確実に断ち切った。でも、ここで彼の胸に飛び込むわけにはいかない。まだ、私の手には阿崎くんから渡された泥だらけの原稿が残っている。
「……佐野くん。私、最低なことばかりしたのに、そんな風に言ってくれて、ありがとう」
私は、彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「でも、もう少しだけ……もう少しだけ、待っていてほしいの。今度は、私が私の物語を終わらせてくる。誰かに書かされたハッピーエンドじゃなくて、私の本当の気持ちを、阿崎くんに……世界に、叩きつけてくるから」
湊くんは一瞬、目を見開いた。守られることを望んでいた「背景」の私が、初めて自分から戦うと言ったからだろう。やがて、彼は満足そうに目を細め、私の頬を包み込んだ。
「……わかった。信じて待ってるよ。……行ってきな、実里。俺の自慢の、主人公(ヒロイン)」
彼の体温を勇気に変えて、私は背を向けた。夕焼けの向こう。阿崎くんが待つ、あの場所へ。今度こそ、私が私の言葉で、すべてに決着をつけるために。
翌日の放課後。私は、阿崎くんが指定してきた無人の講義室にいた。
阿崎くんは、私が用意した新しいプロット——彼に強要された「偽りの結末」——を読むのを楽しみにしているのか、どこか浮き足立った様子で私の向かいに座る。
「さて、佐倉さん。続きを見せてくれるかな? 俺たちが最高に幸せなキスをして終わる、完璧な最終回を」
阿崎くんが差し出した手を、私はそっと押し返した。そして、カバンからノートPCではなく、一冊の古いノートを取り出した。あの日、湊くんに「俺のために完結させて」と言われた、私の本当の原稿。
まだ完結させてはいない。阿崎くんに読ませるつもりもない。けど、彼の前に立つ恐怖から守ってくれる……湊くんの存在を少しだけ近くに感じるような気がして、お守り代わりに持ってきた。
「……阿崎くん。別れよう。もう、あなたの隣で嘘を書くのはやめる」
阿崎くんの顔から、血の気が引いていくのがわかった。彼は凍りついた笑みのまま、震える声で私を威嚇する。
「……冗談はやめてよ。どうしたの急に。湊が恋しくなった? でも、これをバラされたら君は――」
「バラしてもいいよ。……バラされる前に、私、自分でこの秘密を公開するつもりだから」
放課後の講義室。私が「別れよう」と告げた瞬間、阿崎くんは天を仰いで笑い出した。その笑い声は、喉の奥から絞り出されるような、ひどく乾いた音だった。
「……あはは! そうか、やっぱりそうなるんだ。君の物語は、どれだけ俺が書き換えようとしても、最後には必ずあの男(湊)のところへ帰結する」
彼は立ち上がり、ゆっくりと私に歩み寄る。その瞳には、今まで見せたことのないような、剥き出しの狂気と——それ以上に深い、諦念が混ざり合っていた。
「ねえ、佐倉さん。君は本当に残酷だ。湊を守るために俺に従う。それって結局君の頭の中は湊でいっぱいってことだよね?……俺がどれだけ隣にいても、君の瞳の中に、俺は一度も映らなかったのかな?」
彼は私の肩を強く掴み、顔を近づける。その距離でさえ、彼の視線は私を通り越して、私の中にある「物語」を見ているようだった。
「どうすれば、君は俺を見る? 脅して、縛り付けて、嫌われて……。それでしか君の世界に居場所を作れなかった俺の絶望が、君にわかるか?」
「阿崎くん……」
「……あはは。ひどい脚本だ。俺をこんなに掻き乱しておいて、最後には『登場人物』ですらないって切り捨てるんだから」
阿崎くんは自嘲気味に笑い、顔を手で覆った。ずっと籠ったような笑い声が響いていたが、徐々に彼を包んでいたどす黒い泥のような何かが流れ落ちていくような、不思議な雰囲気の笑い声に変わりだしていくのを感じた。
笑い終わると、顔を覆っていた手がとれた。ようやく窺えたその瞳からは、先ほどまでの冷徹な光が消え、ただの、年相応の少年の脆さが剥き出しになっていた。
彼は震える手で、ポケットから二枚のチケットを取り出し、テーブルに置いた。
「……最後の執着だ。笑ってくれていいよ」
「阿崎くん……?」
「これは脅しでも何でもない。君に片思いをする、ただの一人の男としての……身勝手な願望なんだ。だから、断ってくれてもいい」
彼はチケットを私の方へ、指先で静かに押し出す。
「一度だけ……たった一度だけでいい。俺を君の『本当の恋人』として、デートしてくれないかな? 脅迫も、小説のノルマも、湊の影もない場所で。……それで、俺たちは終わりにしよう。俺が持ってる君の秘密も、その場で全部消去するって約束する」
その声は、消え入りそうなほどに優しく、そして震えていた。今まで彼が私に向けてきたどの言葉よりも、今の言葉は重く、私の心に刺さった。彼は、自分のやり方が正攻法では入れないことを、誰よりも分かっていて……。だからこそ最後だけは、嘘のない「恋人」という役割を演じて、この物語を自分の手で閉じたいのだ。
私は、テーブルの上のチケットを見つめる。これを断れば、彼はきっとそのまま消えてくれるだろう。でも……。
「……わかった。行こう、阿崎くん。一日だけ、あなたの恋人になる」
阿崎くんの瞳が、驚いたように揺れる。そして彼は、今まで見たどの作り笑いよりも下手くそな、けれど一番人間臭い、泣きそうな顔で笑った。
「……ありがとう、佐倉さん。君は本当に……俺にはもったいないくらい、優しい『作者』だ」
阿崎くんとのデートの日は、皮肉なほどに穏やかないい天気だった。
待ち合わせ場所に現れた彼は、いつもの隙のないシャツ姿ではなく、少し着崩したカーディガンを着ていた。眼鏡の奥の瞳には冷たさはなく、どこか遠足を楽しみにしていた子供のような、落ち着かない色が浮かんでいる。
「……おはよう、佐倉さん。来てくれてありがとう」
彼はそう言って、少しだけはにかんだ。今日の阿崎くんは、いつもの冷徹な「支配者」の顔をクローゼットに預けてきたようだった。
秋の柔らかな陽光。私たちは海岸沿いの並木道を歩いていた。
今日のデートの目的地は、彼が「一度、君と行ってみたかった」という海辺の公園だった。
彼は道中、私を脅すような言葉は一切口にしなかった。それどころか、私が好きだと言った作家の新刊の話や、大学の中庭に咲く花の名前など、ありふれた会話を丁寧に紡いでいく。
彼は私の歩調に合わせてゆっくりと歩き、車道側を歩こうとする私を、何も言わずにそっと内側に引き寄せた。かつては支配のための束縛に思えたその手が、今は壊れ物を扱うような慎重さを帯びている。その指先が触れるか触れないかの距離に、彼の「遠慮」と、今までとは違う「敬意」を感じて、私は逃げ出したいような、抱きしめたいような、複雑な感情に揺れた。
「……楽しいね、佐倉さん。このまま、時間が止まればいいのにな」
その言葉は、悲鳴のようにも聞こえた。 私は彼の隣を歩きながら、心の中で何度も阿崎くんに謝った。
――ごめんね、阿崎くん。あなたがくれたこの「最後のデート」は、確かに温かかった。でも、その温もりが、私に「本当の熱」を掴みに行く勇気をくれたの。
彼は確かに間違えた方法を選んだ。彼が私に向けていた言葉は、支配による恐怖に満ちていた。でも、一度だって彼は私が本気で嫌がることはしなかったし、させなかった。私の秘密を知っているのだから、いくらでも私を従わせるカードにすればよかったのに、いつもその言葉の奥に小さな逃げ道があったのかもしれない。その横顔には、入学式の日から彼が抱え続けていた、果てしない孤独の断片が透けて見えた。 彼は、私を愛したかったのだ。ただ、愛し方を知らなかっただけで。
「佐倉さん、見て。あそこのカフェはテラスから海が綺麗に見えるんだ。それにタルトが有名なんだって。お茶していこうか」
彼は自然な動作で私の手を取った。その手のひらは驚くほど温かくて、一瞬、本当に私たちが普通の大学生カップルであるかのような錯覚に陥る。
テラス席で運ばれてきたベリーのタルト。彼はそれを私の口元に運んで、「美味しい?」と幼い子を見るような瞳で笑いかける。周囲から見れば、それは微笑ましい光景だっただろう。
夕暮れ時。最後に、ここに行きたい。と連れてこられたのは、公園の端のほうにある波打ち際のベンチに座った。夕日でオレンジ色に染まる海を見つめながら、阿崎くんがポツリと口を開いた。
「……俺ね、本当は怖かったんだ」
「怖かった……?」
「君が書く小説の中に、俺が一人もいないことが。湊がいて、栞さんがいて、蓮先輩まで特別枠で登場しているのに、俺だけは世界のどこにも存在していない。……それが、君の中の俺の立ち位置。それが、俺そのものを否定されているみたいで、怖くて仕方がなかった」
彼は砂浜に自分の足跡を刻みつけるように、地面を見つめた。
「だから、強引にでも君の物語に割り込んで、君にとっての『忘れられない存在』になろうとした。……嫌われてでも、憎まれてでも、君の記憶の原稿に『阿崎陽人』という名前を深く刻みたかったんだ」
彼は顔を上げ、私を見た。その瞳には、もう涙はなかった。ただ、一筋の光を追い求めるような、純粋な色だけがあった。
「でも、今日一日君といて、ようやくわかったよ。……物語の中に居場所を求めるのは、もうやめる。俺は君の『登場人物』にはなれなかったけれど、一瞬でも君の隣を歩く『現実の男』になれた。……それだけで、俺のこの初恋は完結だ」
阿崎くんは、自分のスマートフォンを取り出した。画面には、私が彼に送り続けた小説のデータや、彼が握っていた「秘密」のフォルダが表示されている。彼は迷うことなく、一括削除のボタンをタップした。
『完全に消去しますか?』
「(……さよなら、僕の執着)」
指が画面を叩き、データが消える。それは、私と彼を繋いでいた呪いの連鎖が、消滅した瞬間だった。
彼は歩き出した。その歩調は、先程までの「デート」の時のような穏やかさはなく、ひどく急いでいるように見えた。まるで、これ以上ここにいたら、自分が作った「逃げ道」に自分自身が落ちてしまうのを恐れているかのように。
「……阿崎くん、待って」
私は、背を向けた彼の背中に声をかけた。阿崎くんが足を止める。でも、彼は振り返らない。
「私、ずっと怖かった。あなたの言葉が、あなたが握ってる私の『恥部』が、いつか私の人生を完膚なきまでに壊すんだって思ってた。……でも、違ったんだね」
一呼吸置いて、私は彼の背中に届けるように言葉を紡ぐ。
「あなたは私を脅しながら、いつも、私が一番嫌がるラインだけは越えさせなかった。原稿だって、私がどうしても書けない部分は、無理に書かせようとはしなかった。……あなたは私を支配していたんじゃなくて、私が自分から逃げ出すための『理由』を、用意してくれていたんじゃないの?」
阿崎くんの肩が、ピクリと揺れた。
「私を脅迫することで、私が『仕方なく』あなたと一緒にいられるように、小さな逃げ道を作ってくれていた。……そうでしょう?」
沈黙が流れる。やがて、阿崎くんは短く、自嘲気味に鼻で笑った。
「……買い被りすぎだよ、佐倉さん。俺はただ、君が完全に壊れて、使い物にならなくなるのが嫌だっただけだ。……物語の続きが読めなくなるのは、読者(ファン)として一番の損失だからね」
彼は一度もこちらを向かなかった。けれど、その声はいつもの冷徹な響きを失い、ひどく震えていた。
「嘘つき、だね。お互いに」
私の「好き」を隠すために逃げ続けた嘘。彼の「愛」を隠すために支配し続けた嘘。そんな偽りの物語でしか繋がれなかった私たちの、これが最後の「答え合わせ」だった。
私の言葉を聞いた阿崎くんの背中から、ふっと力が抜けたのがわかった。彼は、この広い海に溶けてしまいそうなほど小さな、けれど今までで一番穏やかな声で言った。
「……そうかも、しれないね」
画面からすべての秘密が消え、私たちを繋いでいた「呪い」は、ただの真っ白な虚無へと還った。阿崎くんはスマートフォンをポケットに仕舞い、潮風を吸い込んで、憑き物が落ちたような顔で私を見た。
「でもさ……」と、彼はふと真面目な顔をして、言葉を付け加えた。
「今度はきちんと、正々堂々正しい手順で湊と勝負しようと思う。君に恋する一人の男として、その瞳に俺が映るように」
それは、脅迫者としての彼ではなく、一人のライバルとしての宣戦布告だった。いつかまた、物語の中ではなく現実で、私が彼を「一人の人間」として意識する日が来るかもしれない。そんな未来を予感させる、強くて真っ直ぐな言葉だった。
「……うん。待ってる。ありがとう、阿崎くん」
私が答えると、彼は少しだけ寂しそうに、でも満足げに微笑んだ。そして、別れ際に彼は一歩踏み出し、私の頬にそっと、羽が触れるような柔らかなキスをした。
「……っ!」
驚いて目を見開く私に、彼はいたずらっぽく、どこか誇らしげに笑ってみせた。
「これだけは、俺が湊に唯一勝てた場面として残してもいいかな?」
湊くんさえまだ触れていない、私の心の、ほんの数センチの隙間。彼は最後の最後で、誰の物語にもない、彼だけの「一等賞」を自分の手で勝ち取ったのだ。
今度こそ、彼は背中を向けた。その足取りは、待ち合わせの時よりもずっと力強く、前を向いていた。
私は彼から貰った自由と、頬に残る熱を抱きしめて、走り出す。夕焼けの向こう。私たちの「本当の物語」が待っている、あの場所へ。
――君は気づいてたかな?俺は、一度だって君のことを「実里」とは呼ばなかった。
始めは、湊へ向けた子どもみたいな意地だ。あいつが名前で呼ぶから、俺は苗字を呼ぶことで違いをつけたかっただけ。
君とのこの歪な関係が続いている間に、君の心が俺に向いてくれたなら、その時は名前で呼ぼうとも思った。でもそんな日は来なくて……結局、最後まで、俺は君を「佐倉さん」と呼び続けて終わってしまった。
今は、それもいいかな。って思ってる。そうすれば、きっとこれからも俺たちは友だちでいられる。
「……さよなら、実里」
いつか、ちゃんと君の隣に立てる権利をもらえたら、今度は正面切って名前で呼ばせてほしいな。
俺がポツリとこぼした「好きな女性」の名前は、冬の訪れを告げる風がどこかへ運んでいった。
「さて、俺は俺でちゃんとやることをやらないと。だね」
2人が分かれたベンチから少し離れた東屋の影で、俺は火のついていない煙草を指先で弄んでいた。
「……ま、あいつなりに、精一杯の幕引きだったってわけか」
誰に聞かせるでもなく、夜の風に言葉を逃がす。
阿崎。あいつが最後に実里の手を離したとき、どんな顔をしていたか。遠目でも分かった。物語の主役(ヒーロー)になりたかったあいつが、最後の最後で、ヒロインを逃がすための「悪役(ヴィラン)」という役割を全うしたんだ。
……滑稽だよ。お前も、あの馬鹿正直に走り出した実里も、そしてそれを待ってる湊も。どいつもこいつも、自分の人生を懸けて、たった一行の「真実」を書き込もうと必死になりやがって。
今日で実里は、阿崎の目の前で自分の弱さを全部晒し、阿崎という物語の一部であることを辞めた。そして、真っ白なページに自分の足跡を刻み始めた。
「……まともなハッピーエンドなんて、作家には似合わねえよ」
俺はそこで初めて、煙草に火をつけた。小さな一本の煙が、秋の夕焼け空に白い線を描く。
「せいぜい、血反吐を吐きながら書き続けろ。お前らが選んだのは、誰かに保証された幸せじゃねえ。……一生終わることのない、残酷で眩しい『現実』なんだからな」
紫煙が空に消えていく。俺は阿崎が消えた方角とは逆、実里が駆けていった、光の溢れる駅の方へとゆっくりと歩き出した。
海辺で実里と別れた後、阿崎は真っ直ぐに湊の元へ向かった。
呼び出された湊は、夜の公園のベンチで、阿崎を待っていた。かつて二人が夢を語り合った場所で、今は互いに張り詰めた空気で対峙している。
「……何の用だ、ハル。実里に何かしたのか?」
湊の声は低い。けれど、阿崎は怯むことなく、むしろ清々しい顔で笑ってみせた。
「いや。……彼女との『共犯関係』は、たった今解消してきたよ。証拠のデータも、俺の手で全部消した」
湊の表情に驚きが走る。阿崎はそのまま、湊のすぐ傍まで歩み寄り、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
「湊。俺は君に負けたんじゃない。彼女の書く物語が、どうしても君を選んでしまうから……その『作者の意図』に屈しただけ。……だから、次はそうはいかない」
「ハル……」
「これからは、一人のライバルとして、正々堂々戦わせてもらうよ。脅しなんて安っぽい手段はもう使わない。……彼女の瞳に俺が映るように、一人の男として、君から彼女を奪いに行く」
その言葉には、かつてのねじれた悪意ではなく、清々しいほどの闘志が宿っていた。湊は少しの間、阿崎を見つめていたが、やがて不敵に口角を上げた。
「……ああ。望むところだ。お前には負けねえよ」
二人の間に、一瞬だけかつての「親友」だった頃の風が吹いた。阿崎は背を向けて歩き出そうとしたが、ふと思いついたように足を止め、肩越しに意地悪な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ。言い忘れてた。……さっきのデートの最後、佐倉さんの頬にキスをしておいたよ」
「……は!? お前、何してんだよ!」
「ふふ、驚いた顔。……これだけは、今の君が逆立ちしても勝てない『俺だけの既成事実』だ。せいぜい、悔しがって一生の思い出にしてよ。……じゃあねまた大学でね、湊」
「待て、ハル! てめえ……!」
追いかけようとする湊を置き去りにして、阿崎は軽やかな足取りで夜の闇に消えていった。一人残された湊は、拳を握りしめながらも、どこか吹っ切れたような顔で空を仰いだ。
「……あいつ、最後まで食えない奴だな」
怒りと、悔しさと、そして確かな友情の残滓。湊はそのまま、自分の足で実里の待つ場所へと駆け出した。頬へのキスの跡を、もっと熱い、自分だけの言葉で上書きするために。
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