『絆の証明』
赤兎との再会から二週間が過ぎた。
俺たちの連携は日に日に洗練されていき、今では言葉を交わさずとも完璧に息を合わせて動けるようになっていた。
だが、群れの中には——赤兎を警戒する者も少なくなかった。
「あの魔狼、本当に大丈夫なのか……」
「いつ暴れ出すか分からない……」
「近くにいると、怖くて眠れない……」
そんな囁きが、俺の耳にも届いていた。
「仕方ないな」
俺は呟いた。
赤兎は強大な魔獣だ。その威圧感は、俺でさえ最初は圧倒されたほど。ゴブリンたちが怯えるのは、当然のことかもしれない。
「信頼は、行動で示すしかない」
---
その日、俺は赤兎を連れて森の偵察に出た。
最近、南の森で不穏な動きがあるという報告を受けていた。ゼドの集落の近くで、見慣れない魔物の群れが目撃されたらしい。
「確認しに行くか」
俺は赤兎の背に跨った。
鐙を自作してからは、騎乗も安定するようになっていた。カザンに頼んで革と金具で作らせたものだ。粗末だが、十分に機能する。
「行くぞ、赤兎」
赤兎が駆け出した。
風が顔に当たる。木々が後方に流れていく。この疾走感は、前世と何も変わらない。
「やはり、お前の背は落ち着く」
赤兎が嬉しそうに鼻を鳴らした。
---
南の森に着いたのは、昼過ぎだった。
ゼドの集落を迂回し、問題の場所へ向かう。報告によれば、目撃されたのは集落から東に二時間ほど歩いた地点だという。
「この辺りか」
俺は赤兎から降り、周囲を観察した。
木々の間に、何かの痕跡がある。足跡だ。
「これは……」
俺は足跡を調べた。
大きい。オーガほどではないが、人間や普通のゴブリンよりも遥かに大きい。そして、数が多い。二十以上の足跡が、同じ方向へ向かっている。
「集団で移動している。何の魔物だ……」
赤兎が低く唸った。警戒の声だ。
「気配があるのか」
赤兎が頷き、北東の方角を睨んだ。
「行ってみよう」
俺は剣に手をかけ、慎重に進んだ。
---
木々の間を抜けると、開けた場所に出た。
そこに——奴らがいた。
「トロールか……」
巨大な人型の魔物が、二十匹以上。灰色の肌、醜い顔、長い腕。体格はオーガに近いが、より野蛮で凶暴な印象を受ける。
彼らは何かを囲んでいた。
よく見ると——ゴブリンだ。
十匹ほどのゴブリンが、トロールたちに囲まれて震えている。明らかに、捕らえられている状態だ。
「捕虜か。食料にするつもりか」
俺は眉をひそめた。
トロールは知性が低く、他の魔物を捕食することで知られている。あのゴブリンたちは、このままでは食われる。
「助けるか」
俺は考えた。
二十匹以上のトロール。俺一人と赤兎だけでは、数的には圧倒的に不利だ。だが——
「天下無双があれば、いける」
俺は決断した。
「赤兎、援護を頼む。俺が突っ込む」
赤兎が力強く吠えた。
---
俺は『天下無双』を発動した。
全身に力が漲る。視界がクリアになり、感覚が研ぎ澄まされる。
「行くぞ」
俺は駆け出した。
トロールたちは、俺の接近に気づいていなかった。木々の間から飛び出した俺を見て、ようやく反応する。
「グルアアア!? 何だ!?」
遅い。
俺の剣が、最初のトロールの首を刎ねた。
「敵襲だ! 殺せ!」
トロールたちが武器を構える。棍棒、斧、素手——様々だが、どれも粗末なものだ。
「来い」
俺は剣を構えた。
三匹のトロールが同時に襲いかかってきた。棍棒が振り下ろされる。俺は横に跳んで避け、返す刀で一匹の腕を斬り落とした。
「グアアア!」
悲鳴を上げるトロール。だが、俺は止まらない。
二匹目の腹を突き刺し、三匹目の足を斬る。
「強い……! 何者だ!?」
トロールたちが後ずさる。
その瞬間——
赤兎が背後から襲いかかった。
「グルアアア!?」
炎が噴き出した。赤兎の『火炎放射』だ。三匹のトロールが、炎に包まれて悲鳴を上げる。
「今だ」
俺は炎の中に飛び込み、燃えるトロールたちを斬り伏せた。
「残りは十五匹か」
俺は剣を振り払い、残りのトロールたちを睨んだ。
「まだやるか」
トロールたちは、明らかに怯えていた。仲間が次々と倒されていく様を見て、戦意を失いつつある。
「逃げろ! こいつには勝てない!」
一匹が叫び、逃げ出した。それを合図に、残りのトロールたちも蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「……追わなくていい」
俺は赤兎を止めた。
「深追いは無意味だ」
赤兎が不満そうに唸ったが、従った。
---
俺は捕らえられていたゴブリンたちに近づいた。
彼らは、俺を見上げて震えていた。
「大丈夫か」
「あ、あなたは……」
「俺は呂布だ。北の山を支配している」
ゴブリンたちの目が見開かれた。
「呂布……! 人間の軍勢を打ち破った……!」
「あの、伝説の……!」
伝説か。そこまで名が広まっているとは知らなかった。
「お前たちは、どこの群れだ」
「俺たちは……東の森から来ました。群れが滅ぼされて……逃げてきたんです」
「滅ぼされた? 誰に」
「トロールです。三日前、奴らが突然襲ってきて……群れは壊滅しました。俺たちは、たまたま狩りに出ていて……」
「なるほど」
俺は頷いた。
トロールの群れが東から移動してきている。それが、最近の不穏な動きの正体か。
「お前たち、行く当てはあるか」
「ありません……どこへ行けばいいのか……」
俺は考えた。
「俺の群れに来るか」
ゴブリンたちが顔を見合わせた。
「いいんですか……?」
「ああ。行く当てがないなら、俺の下につけ。食わせてやるし、鍛えてもやる」
ゴブリンたちは、涙を浮かべて頭を下げた。
「ありがとうございます……! 呂布様……!」
「礼はいい。立て。歩けるか」
「はい……!」
---
ゴブリンたちを連れて、俺は拠点に戻った。
その途中、ゼドの集落に立ち寄り、ガッシュに状況を報告した。
「トロールの群れが、東から移動してきている。注意しろ」
「分かりました。警戒を強めます」
「何かあれば、すぐに連絡をよこせ」
「はい」
---
拠点に戻ると、グルドたちが出迎えてくれた。
「おかえり、呂布。その者たちは……」
「トロールに襲われていたのを助けた。今日から、俺たちの仲間だ」
グルドは頷いた。
「分かった。世話は俺たちがする」
「頼む」
俺はグルドにゴブリンたちを任せ、洞窟の奥に向かった。
赤兎がついてくる。
「今日の戦い、どうだった」
赤兎が得意げに鼻を鳴らした。
「ああ、お前の火炎は見事だった。あれがなければ、もう少し手こずっていたかもしれない」
赤兎が嬉しそうに尻尾を振った。
「これで、群れの奴らも——お前を認めるようになるだろう」
---
俺の予想は、当たった。
トロールの群れからゴブリンたちを救った話は、あっという間に群れ中に広まった。そして、その活躍の中心に赤兎がいたことも。
「赤兎様が、炎でトロールを焼き払ったらしい……」
「呂布様と赤兎様の連携は、すごいらしい……」
「あの二人がいれば、怖いものなしだ……」
赤兎への警戒心は、尊敬へと変わっていった。
「よかったな、赤兎」
俺は赤兎の首を撫でた。
「お前も、群れの一員として認められた」
赤兎が、満足そうに目を細めた。
---
だが、問題は解決していなかった。
「トロールの群れが東から来ている。その規模は、俺たちが遭遇したものより大きいかもしれない」
俺は幹部たちを集めて会議を開いた。
「今日倒したのは二十匹程度だが、逃げた奴らがいる。本隊はもっと多いはずだ」
「どれくらいだと思う」
グルドが尋ねた。
「分からない。だが、一つの群れを滅ぼすほどの数だ。五十匹以上はいるだろう」
「五十匹以上のトロールか……厄介だな」
「ああ。放置すれば、ゼドの集落が危険に晒される可能性がある」
俺は地図を見た。
「先手を打つ。トロールの本隊を見つけ出し、叩く」
「攻撃するのか」
「ああ。防衛に回れば、いつ襲われるか分からない。こちらから仕掛けて、脅威を排除する」
ゴルドが頷いた。
「理にかなっている。で、どうやって本隊を見つける」
「赤兎の追跡能力を使う」
俺は赤兎を見た。
「お前なら、逃げたトロールの臭いを追えるな」
赤兎が力強く頷いた。
「よし。明日、追跡を開始する。精鋭を三十匹選抜しろ」
「了解」
---
翌朝、俺たちは東へ向かって出発した。
俺と赤兎が先頭。その後ろにグルド、ゴルド、ゴリが率いる三十匹の精鋭部隊。
赤兎が地面の臭いを嗅ぎながら、トロールの痕跡を追っていく。
「こっちか」
赤兎が示す方向へ、俺たちは進んだ。
森を抜け、丘を越え、川を渡る。トロールたちは、かなりの距離を移動していたようだ。
「逃げ足は速かったな」
俺は呟いた。
「だが、逃げ切れるとは思うなよ」
---
追跡は二日間続いた。
三日目の朝、赤兎が立ち止まった。
「近いのか」
赤兎が頷き、前方を睨んだ。
俺は部隊を止め、偵察を出した。
しばらくして、ピックが戻ってきた。
「見つけた。前方の谷に、トロールの野営地がある」
「数は」
「六十匹以上。もしかしたら、八十近くいるかもしれない」
俺は眉をひそめた。
「予想より多いな」
「どうする、呂布。三十匹で八十匹のトロールは、さすがに厳しいぞ」
グルドが言った。
俺は考えた。
正面からぶつかれば、確かに厳しい。だが——
「奇襲なら、いける」
俺は地形を確認した。
「谷の入口は狭い。そこを塞いで火を放てば、トロールたちは逃げ場を失う」
「火計か」
「ああ。まずは混乱させる。そして、混乱したところを叩く」
俺は部隊を見回した。
「準備しろ。今夜、仕掛ける」
---
夜になった。
俺たちは谷の周囲に展開し、準備を整えた。
枯れ枝と油を谷の入口に積み上げる。火を点ければ、壁のような炎が上がる仕掛けだ。
「準備完了だ」
ゴリが報告した。
「よし」
俺は赤兎に跨った。
「俺と赤兎が谷の中に突入し、トロールたちを起こす。奴らが入口に殺到したところで、火を放て」
「了解」
「その後は、崖の上から石と矢を落とせ。混乱を最大限に利用しろ」
「分かった」
俺は深呼吸した。
「行くぞ、赤兎」
赤兎が駆け出した。
---
谷の中に突入した。
トロールたちは、焚き火の周りで眠っている。見張りは二匹だけ。油断している。
「起きろ、トロールども!」
俺は叫び、『覇気』を放った。
圧倒的な威圧感が、谷全体に広がる。トロールたちが目を覚まし、混乱し始めた。
「な、何だ!?」
「敵襲だ!」
赤兎が火炎を放った。焚き火の周りにいたトロールたちが、炎に包まれて悲鳴を上げる。
「入口だ! 逃げろ!」
トロールたちが、谷の入口に向かって殺到した。
「今だ! 火を放て!」
俺の号令で、谷の入口に積まれた枯れ枝に火が点けられた。
轟音と共に、炎の壁が立ち上がった。
「う、うわあああ!?」
「燃えてる! 出られない!」
トロールたちがパニックに陥った。逃げ場を失い、谷の中を右往左往している。
「石を落とせ! 矢を射ろ!」
崖の上から、石と矢が降り注いだ。トロールたちが次々と倒れていく。
俺と赤兎は、谷の中を駆け回り、混乱したトロールたちを斬り伏せていった。
「グルアアア! く、来るな!」
「死ね!」
俺の剣が、トロールの首を刎ねる。赤兎の炎が、トロールの群れを焼き払う。
戦いは、一方的だった。
---
夜明け前に、戦闘は終わった。
谷の中には、六十匹以上のトロールの死体が転がっている。
「生き残りは」
「十数匹が逃げた。追うか」
「いや、いい。これだけの損害を与えれば、もうこの辺りには近づかないだろう」
俺は剣を収めた。
「勝ったな」
グルドが言った。
「ああ。勝った」
俺は赤兎の首を撫でた。
「お前のおかげだ」
赤兎が誇らしげに鳴いた。
---
拠点に戻ると、仲間たちが歓声で迎えてくれた。
「勝ったぞ!」
「トロールを全滅させた!」
「呂布様万歳! 赤兎様万歳!」
俺は疲れた体で、洞窟の奥に向かった。
赤兎がついてくる。
「今日は、本当によくやった」
俺は赤兎の傍に座り、その背に頭を預けた。
「お前がいなければ、こうはいかなかった」
赤兎が、俺の顔を舐めた。
「ああ、分かってる。お前も疲れただろう。今日はゆっくり休め」
赤兎が目を細めた。
俺も、いつの間にか目を閉じていた。
---
【ステータス更新】
**【名前】呂布**
**【種族】鬼人(ゴブリン系譜)**
**【レベル】55**
**【HP】780/780**
**【MP】385/385**
**【筋力】420**
**【敏捷】450**
**【知力】260**
**【魔力】245**
**【耐久】385**
**【幸運】95**
**【スキル】**
暗視(固有)、威圧(上位覚醒)、天下無双(解放)、指揮(Lv.10)【MAX】、投擲(Lv.9)【UP】、隠密(Lv.8)、危機察知(Lv.10)【MAX】、窮地の逆転(Lv.6)【UP】、戦術眼(Lv.10)【MAX】、教導(Lv.10)【MAX】、統率(Lv.10)【MAX】、読字(自動習得)、剣術(Lv.10)【MAX】、野営(Lv.6)【UP】、追跡(Lv.8)【UP】、火計(Lv.7)【UP】、再生(Lv.8)、鼓舞(Lv.9)、交渉(Lv.6)、威厳(Lv.10)【MAX】、耐寒(Lv.2)、講義(Lv.6)、情報収集(Lv.6)【UP】、指導者の器(Lv.8)【UP】、奇襲(Lv.6)【UP】、殲滅戦(Lv.5)【UP】、組織運営(Lv.7)【UP】、資源管理(Lv.5)、継承(Lv.2)、領主(Lv.5)【UP】、軍略(Lv.4)【UP】、覇気(Lv.3)【UP】、鬼神の力(Lv.3)【UP】、騎獣連携(Lv.4)【UP】
**【称号】**
転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し(上位)、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者、外交者、師、オーク殺し、軍団長、後継者、盟主、軍勢破り、覇者、鬼人、赤兎の主、トロール殺し【NEW】、夜襲の王【NEW】
---
**【新規称号】トロール殺し**
**効果:**トロール系魔物に対する攻撃力+15%。トロール系魔物からの威圧に対する耐性を獲得。
**取得条件:**トロールを五十体以上討伐すること。
**備考:**山の巨人を狩る者。
---
**【新規称号】夜襲の王**
**効果:**夜間戦闘時の全ステータス+10%。夜襲の成功率が大幅に向上。暗闘での部隊指揮効率+15%。
**取得条件:**夜間に大規模な奇襲戦を成功させ、圧倒的な勝利を収めること。
**備考:**闘の中から現れ、敵を蹂躙する者。その名は、夜に恐れられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます