【第二部:赤兎との再会】 第二章 邂逅 『紅き影』



鬼人への進化から、三ヶ月が過ぎた。


季節は夏を迎え、山は緑に覆われていた。俺たちの勢力は順調に拡大し、今や五百を超える配下を抱えている。


だが、俺の心には——ずっと引っかかっていることがあった。


赤兎。


前世で俺と共に戦場を駆けた、紅き名馬。曹操に捕らえられ、俺の処刑を見届けた後、どうなったのか。


この世界に転生した時から、俺はどこかで——赤兎もこの世界にいるのではないかと、感じていた。


根拠はない。ただの直感だ。


だが、その直感が——今日、現実のものとなろうとしていた。


---


「呂布様、緊急の報告があります」


ピックが息を切らせて駆け込んできた。


「何があった」


「南の森で、奇妙な魔物が目撃されました」


「奇妙な魔物?」


「はい。巨大な狼のような姿で——毛皮が、紅いと」


俺の心臓が、大きく跳ねた。


「紅い……だと?」


「はい。燃えるような紅い毛皮で、目撃した者は『炎のようだった』と言っています。体格は馬ほどもあり、他の魔狼とは明らかに違うと」


俺は立ち上がった。


「どこだ。どこで目撃された」


「南の森の奥、ゼドの集落から東に半日ほど行った場所です。ただ——」


ピックが言い淀んだ。


「ただ?」


「その魔物は、非常に凶暴だと。近づいた偵察隊が二匹、重傷を負いました。命に別状はありませんが……」


「分かった。俺が行く」


「え? 呂布様自らが?」


「ああ」


俺は剣を腰に差した。


「その魔物は——俺でなければ、対処できない」


---


俺は単身で南の森へ向かった。


グルドたちは同行を申し出たが、断った。


「これは、俺一人で行かなければならない」


理由は説明しなかった。説明しても、理解されないだろう。


前世の記憶。赤兎との絆。そんなものを、どう説明すればいい。


森を駆け抜け、ゼドの集落を通り過ぎ、東へ向かう。


半日の距離を、俺は四時間で踏破した。鬼人になってから、俺の身体能力は桁違いに向上している。


「この辺りか……」


森の奥深く。木々が鬱蒼と茂り、日光がほとんど届かない場所。


獣の臭いがする。血の臭いも混じっている。


俺は足を止め、周囲を見回した。


「——いるな」


気配がある。強い気配。


木々の間から、何かがこちらを窺っている。


俺は剣に手をかけず、ゆっくりと前に進んだ。


「出てこい」


静かに、だが力強く言った。


「俺が分かるだろう。赤兎」


---


沈黙が流れた。


風が木々の葉を揺らす音だけが聞こえる。


やがて——


茂みが動いた。


そこから現れたのは、巨大な狼だった。


いや、狼という言葉では足りない。馬ほどの体躯。筋肉が隆起した四肢。そして——


燃えるような、紅い毛皮。


「赤兎……」


俺は息を呑んだ。


それは、確かに魔狼の姿をしていた。だが、その紅い毛皮、その威風堂々たる姿は——


前世の赤兎を、彷彿とさせた。


魔狼は俺を睨んでいた。金色の目には、警戒と——何か別の感情が渦巻いている。


「お前……俺が分かるか」


俺は一歩、近づいた。


魔狼が唸り声を上げた。牙を剥き、威嚇している。


だが、俺は止まらなかった。


「俺だ。呂布だ。お前の主だ」


もう一歩。


「前世で、共に戦場を駆けた。覚えているか、赤兎」


魔狼の目が、わずかに揺らいだ。


「虎牢関で、三人の英傑を相手に戦った。お前は一歩も引かなかった」


もう一歩。


「長安への逃避行。董卓の軍勢から逃げる時も、お前は俺を乗せて走り続けた」


魔狼の唸り声が、小さくなった。


「そして——白門楼。俺が処刑された時、お前は……」


俺は魔狼の前に立った。


「お前だけが、俺を見送ってくれた」


---


沈黙が流れた。


魔狼は——赤兎は、俺を見つめていた。


その金色の目に、涙が浮かんでいる。獣が泣くのを、俺は初めて見た。


「覚えているんだな」


俺は手を伸ばした。


赤兎は身じろぎしなかった。


俺の手が、紅い毛皮に触れた。


温かい。生きている証だ。


「よく……生きていてくれた」


俺の声が、震えた。


赤兎が、低く鳴いた。それは威嚇ではなく——再会を喜ぶ声だった。


「俺も……会いたかった」


俺は赤兎の首に腕を回し、抱きしめた。


紅い毛皮に顔を埋める。獣の臭いがする。だが、それすらも懐かしかった。


「もう離れない。今度こそ、最後まで一緒だ」


赤兎が、俺の頬を舐めた。


---


しばらくして、俺は赤兎から離れた。


改めて見ると、その姿は見事だった。


体長は三メートル以上。肩の高さは俺の胸ほどある。筋肉は引き締まり、毛皮は炎のように輝いている。


「お前も、この世界で強くなったんだな」


赤兎が頷くように首を振った。


俺はステータスを確認しようとした。だが——


「見えないな。他者のステータスは、本人が許可しないと見えないのか」


赤兎が、じっと俺を見つめた。


その瞬間、頭の中に文字が浮かんだ。


『赤兎がステータスの開示を許可しました』


---


**【名前】赤兎**

**【種族】炎狼王(魔狼上位種)**

**【レベル】48**


**【HP】620/620**

**【MP】280/280**


**【筋力】380**

**【敏捷】450**

**【知力】120**

**【魔力】180**

**【耐久】350**

**【幸運】75**


**【スキル】**

炎牙(固有)、疾走(固有)、威圧(上位)、火炎放射(Lv.5)、再生(Lv.6)、危機察知(Lv.7)、追跡(Lv.8)、縄張り意識(Lv.5)、単独行動(Lv.10)【MAX】、王の咆哮(Lv.3)


**【称号】**

転生者、紅き風、孤高の狼、魔狼殺し、森の支配者、炎を纏う者


---


「レベル48……俺とほぼ同じか」


赤兎は、この世界で独自に成長していた。魔狼として生まれ、戦い、進化を重ね、今の姿になったのだろう。


「炎狼王。魔狼の上位種か」


赤兎が誇らしげに首を振った。


「お前も転生者なんだな。道理で、俺のことを覚えているわけだ」


俺は赤兎の額に手を置いた。


「一緒に来てくれるか。俺の軍に」


赤兎は一瞬、考えるような仕草をした。


そして——


大きく頷いた。


「ありがとう。赤兎」


---


俺は赤兎を連れて、拠点に戻った。


その姿を見た仲間たちは、驚愕した。


「な、何だあれは……!」


「魔狼……いや、あんなでかい魔狼、見たことない……!」


「呂布様、それは……!」


グルドが駆け寄ってきた。


「説明してくれ。何があった」


「赤兎だ」


「赤兎?」


「俺が前世で共に戦った、相棒だ。この世界に転生して、魔狼として生まれ変わっていた」


グルドは目を見開いた。


「前世の……相棒……?」


「ああ。名馬だった。誰よりも速く、誰よりも勇敢で、俺以外の者を乗せなかった」


赤兎が、グルドを見下ろした。グルドは思わず一歩後ずさった。


「お、おい……睨まれてるぞ……」


「心配するな。敵じゃないと分かれば、攻撃しない」


俺は赤兎の首を撫でた。


「こいつは俺の仲間だ。傷つけるな」


赤兎は、グルドをじっと見つめた後、ふいっと顔を背けた。


「……認めてくれたのか?」


「たぶんな」


俺は苦笑した。


「気難しいところは、前世と変わらないな」


---


その夜、俺は赤兎と共に洞窟の外に出た。


二つの月が、夜空に浮かんでいる。


「お前は、この世界で何をしていた」


赤兎は俺の隣に座り、月を見上げていた。


「ずっと一人で戦っていたのか」


赤兎が、低く鳴いた。肯定の意味だろう。


「そうか……辛かったな」


俺は赤兎の背に手を置いた。


「もう一人じゃない。俺がいる」


赤兎が、俺に頭を寄せてきた。


「一緒に天下を取ろう。前世で果たせなかった夢を、この世界で」


赤兎の金色の目が、月の光を反射して輝いた。


「お前がいれば、百人力だ」


俺は笑った。


赤兎も、笑ったように見えた。


---


翌日から、俺は赤兎との連携訓練を始めた。


前世では、俺は赤兎に騎乗して戦っていた。だが、今の俺はゴブリンから進化した鬼人。赤兎は馬ではなく魔狼。


「同じようにはいかないな」


俺は赤兎の背に跨ってみた。


「……乗れなくはないが、鐙がないと安定しない」


赤兎が不満そうに唸った。


「分かった、分かった。無理に乗らなくてもいい」


俺は赤兎の背から降りた。


「並んで走る方が、お前も動きやすいだろう」


赤兎が頷いた。


「よし、じゃあ連携の形を考えよう」


俺と赤兎は、様々な戦術を試した。


俺が前衛で敵を引きつけ、赤兎が側面から奇襲する。


赤兎が火炎で敵を焼き払い、俺が残党を斬る。


俺が敵の注意を引き、赤兎が逃げ道を塞ぐ。


「いい感じだ」


俺は満足げに頷いた。


「お前との連携は、前世より良くなっているかもしれない」


赤兎が誇らしげに鼻を鳴らした。


---


赤兎の加入は、群れ全体に大きな影響を与えた。


まず、士気が上がった。


「呂布様に、あんな強力な魔獣が従っている……」


「やっぱり呂布様はすごい……」


「俺たちも、もっと頑張らないと……」


次に、戦術の幅が広がった。


赤兎の機動力と火力は、群れの戦略を大きく変えた。偵察、奇襲、追撃——あらゆる場面で、赤兎は活躍した。


「これで、人間の騎兵にも対抗できる」


俺はグルドに言った。


「騎兵の強みは機動力だ。だが、赤兎がいれば、こちらも同等以上の機動力を持てる」


「確かに……あの速さは、馬以上だ」


「ああ。前世でも、赤兎より速い馬はいなかった」


俺は赤兎を見た。


紅い毛皮が、陽光に輝いている。


「お前がいてくれて、本当に良かった」


赤兎が、俺の手を舐めた。


---


赤兎との再会から、一週間が過ぎた。


俺たちの絆は、日に日に深まっていった。言葉は通じないが、意思疎通は完璧にできる。視線一つ、仕草一つで、互いの意図が分かる。


「前世の記憶が、活きているのかもしれないな」


俺は呟いた。


千年以上の時を経て、別の世界で再会した。それでも、絆は失われていなかった。


「これが、運命というものか」


俺は空を見上げた。


二つの月が、昼の空に薄く浮かんでいる。


「この世界には、まだ多くの謎がある。だが——」


俺は赤兎を見た。


「お前と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる」


赤兎が、力強く吠えた。


その咆哮が、山に響き渡った。


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】鬼人(ゴブリン系譜)**

**【レベル】52**


**【HP】720/720**

**【MP】350/350**


**【筋力】380**

**【敏捷】410**

**【知力】240**

**【魔力】220**

**【耐久】350**

**【幸運】90**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(上位覚醒)、天下無双(解放)、指揮(Lv.10)【MAX】、投擲(Lv.8)、隠密(Lv.8)、危機察知(Lv.10)【MAX】、窮地の逆転(Lv.5)、戦術眼(Lv.10)【MAX】、教導(Lv.10)【MAX】、統率(Lv.10)【MAX】、読字(自動習得)、剣術(Lv.10)【MAX】、野営(Lv.5)、追跡(Lv.7)【UP】、火計(Lv.5)、再生(Lv.8)、鼓舞(Lv.9)【UP】、交渉(Lv.6)、威厳(Lv.10)【MAX】、耐寒(Lv.2)、講義(Lv.6)、情報収集(Lv.5)、指導者の器(Lv.7)【UP】、奇襲(Lv.5)【UP】、殲滅戦(Lv.4)【UP】、組織運営(Lv.6)【UP】、資源管理(Lv.5)【UP】、継承(Lv.2)、領主(Lv.4)【UP】、軍略(Lv.3)【UP】、覇気(Lv.2)【UP】、鬼神の力(Lv.2)【UP】、騎獣連携(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し(上位)、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者、外交者、師、オーク殺し、軍団長、後継者、盟主、軍勢破り、覇者、鬼人、赤兎の主【NEW】


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**【新規スキル】騎獣連携 Lv.1**


**種別:**戦闘スキル


**効果:**騎獣との連携戦闘能力が向上。騎獣と共に戦う際、互いのステータスが+10%。意思疎通の精度が上昇。


**成長条件:**騎獣と共に戦闘を重ねること。


**備考:**騎獣と騎手の絆が生み出す力。前世からの縁が、この力を高める。


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**【新規称号】赤兎の主**


**効果:**赤兎との連携効率+20%。赤兎の能力を一部共有(敏捷+5%)。赤兎からの絶対的な忠誠を得る。


**取得条件:**転生した赤兎と再会し、主従の絆を結ぶこと。


**備考:**千年の時を超え、世界を超えて結ばれた絆。これは運命である。

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