『覚醒』



戦いが終わり、静寂が戻った。


峡谷には人間の死体が散乱し、血の匂いが立ち込めている。生き残った人間たちは、既に山を下りて逃げ去った後だった。


「勝った……本当に勝ったんだ……」


仲間たちの間から、安堵の声が漏れた。


だが、俺は——


「っ……」


突然、全身に熱が走った。


膝が震え、視界が歪む。心臓が激しく脈打ち、血管の中を炎が駆け巡るような感覚。


「呂布!?」


グルドが駆け寄ってきた。


「どうした、怪我か!?」


「違う……これは……」


俺は自分の体を見下ろした。


皮膚の下で、何かが蠢いている。筋肉が膨張し、骨が軋み、全身が内側から作り変えられていく感覚。


『進化条件を満たしました』


頭の中に、文字が浮かんだ。


『種族進化が可能です。現在の種族:ホブゴブリン。進化先候補——』


リストが表示された。


『オーガ:筋力と耐久に特化した大型種。知性は低下するが、圧倒的な身体能力を得る』


『ゴブリンロード:ゴブリン系種族を統べる上位種。統率力と知性が大幅に向上。身体能力の上昇は中程度』


『鬼人:極めて稀な進化先。人型を維持しつつ、全能力が高水準で向上。条件:「鬼狩り」称号を保持していること』


三つの選択肢。


俺は迷わなかった。


「鬼人」


---


選択した瞬間、光が俺を包んだ。


「うおっ……!」


仲間たちが目を庇う。


俺の体が、光の中で変貌していく。


骨格が再構成され、筋肉が編み直され、皮膚が生まれ変わる。痛みはない。むしろ、心地よい温かさが全身を満たしている。


頭の中に、さらなる文字が浮かんだ。


『種族進化:ホブゴブリン → 鬼人(ゴブリン系譜)』


『全ステータスが大幅に上昇します』


『新規スキルを獲得します』


『称号「覇者」の獲得条件を満たしました』


覇者——


その文字を見た瞬間、俺の心臓が大きく跳ねた。


『称号「覇者」を獲得しました』


『固有スキル「天下無双」の封印が解除されました』


---


光が収まった。


俺は——変わっていた。


まず、視線の高さが違う。以前より頭一つ分高くなっている。手を見ると、肌の色は深い蒼灰色に変わっていた。筋肉は引き締まり、無駄のない体躯。そして、額には——


「角……?」


触れてみると、額の両側に小さな角が生えていた。二本の角。鬼の証。


「呂布……なのか……?」


グルドが呆然と俺を見上げていた。


俺は自分の手を握り締めた。


力が漲っている。以前とは比較にならない。体の隅々まで、力が満ち溢れている。


「ああ。俺だ」


声も変わっていた。以前より深く、響く声。


「これが……鬼人」


俺は拳を振るってみた。


風が唸った。ただ拳を振っただけで、空気が裂ける。


「すげえ……」


ゴリが感嘆の声を漏らした。


「本当に、進化したのか……」


「ああ」


俺は仲間たちを見回した。


そして——


『天下無双』


その名が、俺の中で輝いた。


---


頭の中に、スキルの説明が浮かんだ。


『固有スキル:天下無双』


『種別:固有スキル(唯一)』


『効果:戦闘時、全ステータスが1.5倍に上昇。さらに、敵の数が多いほど効果が増加(最大2倍)。単独で軍勢と戦う力を得る』


『追加効果:「覇気」を放つことが可能。覇気を浴びた者は、強制的に畏怖状態となる。格下の敵は戦意を喪失し、同格の敵も動きが鈍る』


『備考:前世において「天下無双」と呼ばれた者の魂が持つ、唯一無二の力。この力を完全に引き出すには、さらなる成長が必要』


天下無双。


前世で俺を象徴した言葉。それが今、スキルとして俺の中に宿った。


「これが……俺の力」


俺は空を見上げた。


二つの月が、昼間の空に薄く浮かんでいる。


「やっと、取り戻した」


---


「呂布」


グルドが近づいてきた。


「その姿……鬼人、というのか」


「ああ。ゴブリンの上位種——いや、ゴブリンとは別の存在かもしれない」


俺は自分の手を見つめた。


蒼灰色の肌。鋭い爪。額の角。もはや、ゴブリンの面影はほとんどない。


「人間に近づいたな」


グルドが呟いた。


「そうか?」


「ああ。前より、ずっと——人間っぽく見える。体格も、顔つきも」


言われてみれば、確かにそうかもしれない。ゴブリンの歪んだ体型ではなく、均整の取れた人型。人間の戦士に近い姿。


「だが、角がある」


「それが、鬼の証なんだろう」


グルドは少し笑った。


「似合ってるぜ。王様っぽい」


「王様、か」


俺も笑った。


「まだ王じゃない。だが——」


俺は北の空を見た。人間たちが逃げ去った方角。


「いずれ、なる」


---


戦場の後片付けを終え、俺たちは拠点に戻った。


仲間たちは、俺の変化に驚きながらも、歓迎してくれた。


「呂布様、すごい姿になりましたね……」


「前より、もっと強そうだ……」


「あの角、かっこいい……」


俺は苦笑した。


「見た目が変わっただけだ。中身は変わっていない」


「いや、変わっただろ」


グルドが言った。


「強さが、段違いだ。さっき、拳を振っただけで空気が裂けてたぞ」


「ああ。力の制御が、まだ上手くいかない」


実際、今の俺は力が有り余っている。普通に歩くだけで地面が揺れ、物を掴めば潰してしまいそうになる。


「慣れるまで、少し時間がかかりそうだ」


---


その夜、俺は一人で洞窟の奥に籠もり、新しい体の調整を行った。


まず、基本動作の確認。歩く、走る、跳ぶ、しゃがむ。どの動作も、以前より速く、力強くなっている。だが、力の入れ加減を間違えると、過剰な動きになる。


「七割の力で、ちょうどいいくらいか」


次に、剣を振る。


一振り。


風が唸り、岩が斬れた。


「……触れてもいないのに」


剣圧だけで、岩を斬った。これほどの力があるとは。


「天下無双を使えば、さらに上がる……」


俺は『天下無双』を発動してみた。


瞬間、全身に力が漲った。視界がクリアになり、感覚が研ぎ澄まされる。


「これが……天下無双」


試しに、剣を振ってみた。


轟音と共に、洞窟の壁が抉れた。


「……やりすぎた」


俺は苦笑しながら、スキルを解除した。


「制御が難しい。だが——」


俺は拳を握り締めた。


「この力があれば、何でもできる」


---


翌日、俺は仲間たちを集めた。


「報告がある」


全員が、俺を見上げている。俺の姿に、まだ慣れていない者も多い。


「昨日の戦いで、俺は進化した。ホブゴブリンから、鬼人になった」


ざわめきが広がった。


「そして、封印されていたスキルが解放された。『天下無双』だ」


「天下無双……」


グルドが呟いた。


「それが、お前が前世で呼ばれていた名前か」


「ああ。このスキルがあれば、俺は単独で軍勢と戦える」


仲間たちの目が見開かれた。


「だが、勘違いするな」


俺は言った。


「俺が強くなっても、お前たちが不要になるわけではない。むしろ、逆だ」


「逆?」


「俺一人では、天下は取れない。どれだけ強くても、一人でできることには限界がある。だから、お前たちが必要だ」


俺は全員を見回した。


「俺が前に出て、道を切り開く。お前たちは、その後に続け。そして、共に天下を目指せ」


沈黙の後——


「おおおおおお!」


歓声が、洞窟に響き渡った。


---


その日から、俺たちは新たな段階に入った。


人間の軍勢を打ち破ったことで、俺たちの名は周囲に轟いた。近隣のゴブリンの群れが、次々と傘下に入りたいと申し出てきた。


「呂布様の下で戦いたい」


「人間を打ち破った英雄に従いたい」


「俺たちも、強くなりたい」


一ヶ月で、俺たちの勢力は倍増した。


本拠地に百匹。東の拠点に五十匹。南の集落に三百匹。遊撃隊が三十匹。合わせて——四百八十匹。


「もうすぐ、五百だな」


グルドが言った。


「ああ。だが、数だけ増えても意味がない。全員を鍛え上げる必要がある」


「それは、時間がかかるぞ」


「構わない。急いで弱い軍を作るより、時間をかけて強い軍を作る方がいい」


俺は地図を見た。


北には人間の領域。東にはまだ未開拓の山脈。西には沼地と「瘴気の魔王」の領域。南には「樹海の魔王」の領域とゴブリンの王国。


「次は、どこへ向かうか」


俺は呟いた。


「人間との戦いは避けられない。だが、今すぐ仕掛ける必要もない。まずは——」


俺は南を指した。


「ゴブリンの王国。そこと、接触する必要がある」


「接触? 戦うのか?」


「分からない。だが、知る必要がある。あの王国が、どんな存在なのか。敵なのか、味方になり得るのか」


俺は立ち上がった。


「準備をしろ。南へ、偵察を送る」


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】鬼人(ゴブリン系譜)**

**【レベル】50**


**【HP】680/680**

**【MP】320/320**


**【筋力】350**

**【敏捷】380**

**【知力】220**

**【魔力】200**

**【耐久】320**

**【幸運】85**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(上位覚醒)【進化】、天下無双(解放)【NEW】、指揮(Lv.10)【MAX】、投擲(Lv.8)、隠密(Lv.8)、危機察知(Lv.10)【MAX】、窮地の逆転(Lv.5)、戦術眼(Lv.10)【MAX】、教導(Lv.10)【MAX】、統率(Lv.10)【MAX】、読字(自動習得)、剣術(Lv.10)【MAX】、野営(Lv.5)、追跡(Lv.6)、火計(Lv.5)、再生(Lv.8)【UP】、鼓舞(Lv.8)、交渉(Lv.6)、威厳(Lv.10)【MAX】、耐寒(Lv.2)、講義(Lv.6)、情報収集(Lv.5)、指導者の器(Lv.6)【UP】、奇襲(Lv.4)、殲滅戦(Lv.3)、組織運営(Lv.5)【UP】、資源管理(Lv.4)【UP】、継承(Lv.2)、領主(Lv.3)【UP】、軍略(Lv.2)【UP】、覇気(Lv.1)【NEW】、鬼神の力(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し(上位)、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者、外交者、師、オーク殺し、軍団長、後継者、盟主、軍勢破り、覇者【NEW】、鬼人【NEW】


---


**【種族進化】鬼人(ゴブリン系譜)**


**効果:**

- 全ステータスが大幅に上昇(前種族比約1.8倍)

- 寿命が大幅に延長(推定寿命:500年以上)

- 「覇気」を放つ能力を獲得

- 人型に近い姿となり、知性と魔力の上限が大幅に向上

- さらなる進化の可能性が開かれた


**進化条件:**ホブゴブリンでレベル50以上に達し、「鬼狩り」称号を保持し、強大な敵を打ち破ること


**備考:**ゴブリン系譜における最上位種の一つ。通常のゴブリンとは完全に別の存在となる。「鬼」の名を冠する者。


---


**【固有スキル解放】天下無双**


**種別:**固有スキル(唯一)


**効果:**

- 戦闘時、全ステータス1.5倍(発動中)

- 敵の数が多いほど効果増加(最大2倍)

- 単独で軍勢と戦う力を付与

- 「覇気」との併用で効果増大


**発動条件:**意志による任意発動


**備考:**前世において「天下無双」と謳われた者の魂が持つ、唯一無二の力。この世界において、同じスキルを持つ者は存在しない。


---


**【新規スキル】覇気 Lv.1**


**種別:**特殊スキル


**効果:**威圧を超えた「覇気」を放つ。覇気を浴びた者は強制的に畏怖状態となる。格下は戦意喪失、同格は動作鈍化、格上にも精神的圧力を与える。


**成長条件:**より多くの敵に覇気を浴びせ、屈服させること。


**備考:**王たる者の威光。その存在感だけで、戦況を変える力。


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**【新規スキル】鬼神の力 Lv.1**


**種別:**身体スキル


**効果:**鬼人としての身体能力を最大限に引き出す。筋力、敏捷、耐久が一時的に大幅上昇。使用中は痛覚が鈍くなり、致命傷を受けても戦い続けられる。


**成長条件:**限界を超えた戦闘を経験すること。


**備考:**鬼の名を冠する者だけが持つ力。代償として、使用後に激しい疲労が訪れる。


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**【新規称号】覇者**


**効果:**

- 全ステータス+10%

- カリスマ性が大幅に向上

- 配下の上限数が撤廃

- 異種族の配下を従えやすくなる

- 「天下無双」スキルの完全解放条件を満たす


**取得条件:**複数の勢力を傘下に収め、強大な敵を打ち破り、「覇者の萌芽」から成長すること


**備考:**天下を目指す者。その歩みは、頂点へと続いている。


---


**【新規称号】鬼人**


**効果:**鬼系・ゴブリン系魔物からの友好度+30%。人間からの畏怖+20%。


**取得条件:**鬼人へ進化すること


**備考:**鬼の名を持つ者。その存在は、畏怖と尊敬を集める。


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**第一章 目覚め 『覚醒』 了**


---


**【第一章 目覚め 完結】**

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