『嵐の前』


北に戻ってから一ヶ月が過ぎた。


俺たちは人間への備えを急ピッチで進めていた。見張りを増やし、逃走経路を確保し、いざという時の避難場所を決めた。


だが、人間の偵察は——それ以降、来なかった。


「静かすぎる」


俺は呟いた。


「偵察が来たのに、動きがない。何を考えている」


「準備をしているのかもしれない」


グルドが言った。


「大規模な討伐隊を編成するには、時間がかかる。それまでは、静観しているのかも」


「あり得るな」


俺は地図を見た。


人間の村から、この山までの距離。軍勢を率いて進むなら、三日から四日。偵察から一ヶ月以上経っている。動くなら、そろそろのはずだ。


「ピック」


「ここにいる」


「北の偵察を強化しろ。人間の村の近くまで行って、動きを探れ」


「分かった」


ピックが走り去った。


---


三日後、ピックが戻ってきた。


「呂布、大変だ」


その顔色は悪かった。


「何があった」


「人間が……集まっている」


「集まっている?」


「村の外に、兵士たちが野営を張っている。数は——百人以上」


俺の表情が険しくなった。


百人以上。前回の討伐隊の二十倍だ。


「旗印は見えたか」


「見えた。青い鷲の紋章だった」


「グラナド辺境伯の紋章か」


俺は以前見た討伐依頼書を思い出した。辺境伯ヴァルター・フォン・グラナド。あの男が、本腰を入れて俺たちを潰しに来る。


「他に何か気づいたことは」


「馬がいた。騎兵だと思う。それから、荷車も。物資を運んでいるみたいだ」


「長期戦の構えか……」


俺は考え込んだ。


百人以上の兵士。騎兵。物資を積んだ荷車。これは本格的な軍事行動だ。ただの討伐隊ではない。


「いつ出発しそうだった」


「分からない。でも、準備は整っているように見えた」


「つまり、いつ来てもおかしくない、ということか」


俺は立ち上がった。


「全軍に警戒態勢を発令しろ。訓練を中止し、戦闘準備に入れ」


「了解」


グルドが駆け出した。


俺は洞窟の入口に立ち、北の空を見つめた。


「来るか……」


---


その夜、俺は幹部たちを集めた。


グルド、ゴルド、ゴリ、メザ、ピック。そして、ゼドの集落から来たガッシュの代理として派遣された者。


「状況を説明する」


俺は地図を広げた。


「北から、百人以上の人間の軍勢が来る。おそらく、数日以内に」


幹部たちの顔が強張った。


「百人……」


ゴリが唸った。


「俺たちは何匹いる」


「本拠地に五十。東の拠点に二十五。遊撃隊が十五。合わせて九十」


「南の集落は」


「戦力として計算するには、距離がありすぎる。援軍が来る前に、決着がつく」


沈黙が落ちた。


「正面からぶつかれば、負ける」


俺は断言した。


「人間の兵士は、訓練を受けた戦士だ。一対一なら、俺たちの成体でも苦戦する。まして百人以上——正面衝突は自殺行為だ」


「なら、どうする」


グルドが尋ねた。


「逃げるか?」


「逃げても、追われる。そして、いずれ追いつかれる」


俺は地図を指した。


「戦う。だが、正面からではない」


「また、罠か」


「ああ。この山は、俺たちの領域だ。地形を知り尽くしている。それを活かす」


俺は山の地形を指でなぞった。


「人間の軍勢が来るルートは限られている。北からの山道は三本。だが、騎兵と荷車を連れているなら、使えるのは一本だけだ」


「ここか」


ゴルドが、最も広い山道を指した。


「ああ。この道は、途中で狭くなる場所がある。両側を崖に挟まれた峡谷だ」


「オークを倒した時と、同じ地形か」


「似ている。だが、規模が違う。オークは十数匹だった。人間は百人以上いる」


俺は峡谷の図を描いた。


「同じ手は使えない。だが——」


俺は図に線を引いた。


「複数の罠を組み合わせれば、大軍を相手にできる」


---


俺は作戦を説明した。


「まず、峡谷の入口に落とし穴を掘る。大きく、深く、何十人もの兵士を飲み込めるような穴だ」


「それだけで百人は倒せない」


「ああ。だから、第二の罠を用意する」


俺は崖の上を指した。


「峡谷の両側の崖に、岩を積んでおく。人間が峡谷に入ったら、岩を落とす」


「岩雪崩か」


「そうだ。落とし穴で先頭を足止めし、岩雪崩で隊列を分断する。混乱したところを、弓で射掛ける」


「弓だけで、百人は倒せないだろう」


「全滅させる必要はない」


俺は言った。


「目的は、敵の戦意を挫くことだ。大きな損害を与え、『この山を攻めても割に合わない』と思わせる。そうすれば、撤退する」


「本当に撤退するか?」


「分からない。だが、人間は——魔物と違って、命を大事にする。仲間が大勢死ねば、士気は下がる。指揮官が死ねば、なおさらだ」


俺は地図の一点を指した。


「だから、指揮官を狙う」


「指揮官?」


「軍勢の中で、最も立派な鎧を着ている者。あるいは、旗の近くにいる者。それが指揮官だ。そいつを殺せば、軍は混乱する」


グルドが眉をひそめた。


「言うのは簡単だが、実行は難しいぞ。指揮官の周りには、護衛がいるはずだ」


「だから、奇襲で狙う」


俺は別のルートを指した。


「正面で戦っている間に、少数の精鋭が迂回する。そして、背後から指揮官を襲う」


「誰が行く」


「俺だ」


幹部たちの顔が強張った。


「待て、呂布。お前が行くのは——」


「俺が最も強い。そして、俺が最も速い」


俺はグルドを見た。


「正面は、お前に任せる。罠の発動、弓の指揮、全てお前が仕切れ」


「俺が……?」


「お前なら、できる。信じている」


グルドは唇を噛んだ。だが、やがて頷いた。


「分かった。任せろ」


---


作戦が決まった後、俺たちは準備に取り掛かった。


落とし穴を掘り、岩を積み、弓と矢を揃える。全員が、昼夜を問わず働いた。


三日後——


「呂布、人間が動いた」


ピックが報告に来た。


「軍勢が、村を出発した。こちらに向かっている」


「速度は」


「荷車があるから、遅い。山の麓に着くのは、明日の昼頃だと思う」


「よし」


俺は立ち上がった。


「全員に伝えろ。明日、決戦だ」


---


夜、俺は洞窟の入口で一人、夜空を見上げていた。


明日、人間と戦う。


百人以上の軍勢。騎兵。訓練された兵士。まともに戦えば、俺たちは全滅する。


だが——


「負けるわけには、いかない」


俺は呟いた。


この山を失えば、俺たちは住処を失う。仲間たちは散り散りになり、一人ずつ狩られていく。ゼドから継いだ集落も、いずれ同じ運命を辿る。


全てを守るために——勝たなければならない。


「呂布」


声がして振り向くと、グルドが立っていた。


「眠れないのか」


「お前もな」


グルドが隣に座った。


「なあ、呂布。一つ聞いていいか」


「何だ」


「怖くないのか。明日の戦い」


俺は少し考えた。


「怖い、とは少し違う。だが——緊張はしている」


「意外だな。お前でも緊張するのか」


「当然だ。命がかかっている。仲間の命が」


俺は月を見上げた。


「前世では、何度も戦場に立った。だが、あの頃は——失うものがなかった。俺が死んでも、誰も悲しまない。だから、怖くなかった」


「今は違う?」


「ああ。今は——お前たちがいる。守りたい者がいる。だから、負けるわけにはいかない」


グルドは黙って聞いていた。


「だから、緊張している。失敗は許されないからな」


「……そうか」


グルドが立ち上がった。


「なら、俺たちも頑張らないとな。お前一人に、背負わせるわけにはいかない」


「グルド」


「何だ」


「明日、正面を頼む。俺がいなくても、やれるな」


グルドは笑った。


「当たり前だ。誰に言ってる」


「そうだな。すまなかった」


「謝るな。さあ、少しは寝ろ。明日に備えて」


「ああ」


俺は立ち上がり、洞窟の奥へ向かった。


明日——全てが決まる。


---


翌朝、俺たちは配置についた。


峡谷の入口に落とし穴。両側の崖の上に岩と弓兵。そして、俺と精鋭五匹は迂回路に潜んでいた。


「来たぞ」


遠くから、土煙が上がっている。人間の軍勢だ。


旗が見える。青い鷲の紋章。グラナド辺境伯の軍だ。


先頭を歩くのは歩兵。その後ろに騎兵。最後尾に荷車。


「百人以上——いや、百五十はいる」


メザが呟いた。


「予想より多いな」


「ああ。だが、計画は変わらない」


俺は前方を睨んだ。


人間の軍勢が、ゆっくりと山道を登ってくる。峡谷の入口に、近づいていく。


「もう少し……」


先頭の兵士たちが、峡谷に入った。


そして——


落とし穴の上を、踏んだ。


---


轟音と共に、地面が崩れた。


「うわあああっ!?」


先頭の兵士たち——十人以上が、穴の中に落ちていく。


「何だ!? 罠だ!」


「止まれ! 止まれ!」


混乱が広がった。後続の兵士たちが足を止め、前方を窺っている。


「今だ!」


グルドの声が響いた。


崖の上から、岩が落ちてきた。大小の岩が、峡谷の中に降り注ぐ。


「岩雪崩だ! 逃げろ!」


兵士たちが悲鳴を上げる。岩に潰される者、逃げ惑う者、隊列は完全に乱れた。


「弓! 射て!」


矢が、崖の上から降り注いだ。混乱した兵士たちが、次々と倒れていく。


「敵は崖の上だ! 登れ!」


指揮官らしき声が響いた。


だが、崖は急峻だ。登ろうとする兵士を、俺たちの弓兵が射落としていく。


「今だ。行くぞ」


俺は精鋭五匹を率いて、迂回路を駆けた。


---


人間の軍勢の背後に、俺たちは回り込んだ。


荷車の周りには、護衛の兵士が数人。そして、その奥に——


立派な鎧を纏った男がいた。


旗の傍に立ち、前方の混乱を睨んでいる。


「あれが指揮官だ」


俺は囁いた。


「俺が突っ込む。お前たちは護衛を抑えろ」


「了解」


俺は剣を抜き——駆け出した。


「敵襲! 背後から——」


護衛が気づいた時には、遅かった。


俺は護衛の一人を斬り伏せ、指揮官に迫った。


「な——ゴブリンだと!?」


指揮官が剣を抜いた。だが、動きが遅い。文官上がりか、あるいは実戦経験が少ないか。


俺の剣が、指揮官の胸を貫いた。


「がっ——」


指揮官が崩れ落ちた。


「指揮官が——!」


「ハインリヒ様が殺された!」


悲鳴が上がった。


俺は剣を引き抜き、振り返った。


「撤退だ! 全員、引けえ!」


人間の軍勢が、混乱の中で撤退を始めた。峡谷から這い出し、山道を転げ落ちるように逃げていく。


「追うか?」


ゴリが尋ねた。


「いや。深追いはするな」


俺は剣を収めた。


「目的は達した。これ以上の戦闘は、無駄な消耗だ」


俺は峡谷を見渡した。


地面には、数十人の兵士の死体が転がっている。岩に潰された者、矢に射られた者、穴に落ちた者。


「勝った……のか?」


ピックが呆然と呟いた。


「ああ」


俺は頷いた。


「勝った」


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】ホブゴブリン**

**【レベル】50**


**【HP】510/510**

**【MP】205/205**


**【筋力】215**

**【敏捷】225**

**【知力】150**

**【魔力】125**

**【耐久】200**

**【幸運】68**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(覚醒)、天下無双(封印解除可能)【NEW】、指揮(Lv.10)【MAX】、投擲(Lv.8)、隠密(Lv.8)【UP】、危機察知(Lv.10)【MAX】、窮地の逆転(Lv.5)【UP】、戦術眼(Lv.10)【MAX】、教導(Lv.10)【MAX】、統率(Lv.10)【MAX】、読字(自動習得)、剣術(Lv.10)【MAX】、野営(Lv.5)、追跡(Lv.6)、火計(Lv.5)【UP】、再生(Lv.6)、鼓舞(Lv.8)、交渉(Lv.6)、威厳(Lv.9)【UP】、耐寒(Lv.2)、講義(Lv.6)、情報収集(Lv.5)、指導者の器(Lv.5)【UP】、奇襲(Lv.4)【UP】、殲滅戦(Lv.3)【UP】、組織運営(Lv.4)【UP】、資源管理(Lv.3)【UP】、継承(Lv.2)【UP】、領主(Lv.2)【UP】、軍略(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者、外交者、師、オーク殺し、軍団長、後継者、盟主、人間殺し【進化】、軍勢破り【NEW】、覇者の萌芽【NEW】


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**【重要通知】天下無双(封印解除可能)**


**解放条件を満たしました:レベル50以上**


**残り条件:覇者の称号の獲得**


**現在の状態:「覇者の萌芽」称号を獲得。完全な「覇者」称号まで、あと一歩。**


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**【新規スキル】軍略 Lv.1**


**種別:**戦術スキル


**効果:**大規模な戦闘における戦略立案能力が向上。軍勢同士の戦いにおける勝率が上昇。


**成長条件:**より大規模な戦闘を指揮し、勝利すること。


**備考:**群れの戦いから、軍の戦いへ。王への道が開かれた。


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**【称号進化】人間殺し → 人間殺し(上位)**


**効果:**人間種に対する攻撃力+15%。人間種からの敵意感知能力が大幅に向上。人間の軍勢に対する威圧効果+10%。


**進化条件:**人間を五十人以上討伐すること。


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**【新規称号】軍勢破り**


**効果:**百人以上の軍勢との戦闘における全ステータス+10%。数的不利を覆す戦術の成功率が向上。


**取得条件:**百人以上の軍勢を、より少数の兵力で打ち破ること。


**備考:**寡兵で大軍を破る者。その名は、敵に恐怖を与える。


---


**【新規称号】覇者の萌芽**


**効果:**全ステータス+5%。カリスマ性が向上し、より多くの者が従いやすくなる。


**取得条件:**複数の勢力を傘下に収め、強大な敵を打ち破ること。


**備考:**覇者への道を歩み始めた者。天下無双の解放まで、あと一歩。

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