『継承』


南への道を、俺たちは駆け続けた。


休息は最低限。食事は移動しながら。三日で着くはずの道のりを、二日で踏破した。


「見えた……集落だ」


ピックが前方を指差した。


森の中に、見覚えのある光景が広がっている。簡素な小屋が立ち並び、ゴブリンたちが行き交う。ゼドの集落だ。


だが、以前とは様子が違っていた。


空気が重い。行き交う者たちの表情は暗く、あちこちで囁き声が聞こえる。


「呂布様!」


俺たちの姿を見つけた一匹が、駆け寄ってきた。以前、訓練を受けた若者の一人だ。


「ゼドは」


「長老の小屋に……どうぞ、こちらへ」


俺たちは案内されるまま、集落の中心へ向かった。


---


ゼドの小屋に入ると、薬草の匂いが鼻を突いた。


奥の寝床に、ゼドが横たわっていた。以前会った時よりも、さらに痩せ細っている。肌は土気色で、呼吸は浅い。


「ゼド」


俺は彼の傍に膝をついた。


ゼドの目が、ゆっくりと開いた。


「来たか……呂布……」


声は弱々しいが、目にはまだ光が残っている。


「何があった。急に倒れたと聞いたが」


「寿命だ……」


ゼドは微かに笑った。


「百二十年……生きすぎた。体が、限界を迎えている……」


「治す方法は」


「ない。これは……病ではない。命の……終わりだ」


俺は拳を握り締めた。


分かっていた。ゼドは老いていた。いつか、この時が来ることは。だが、こんなに早いとは——


「呂布」


ゼドが手を伸ばした。俺はその手を取った。骨と皮だけの、細い手だ。


「お前に……頼みがある」


「何だ」


「この集落を……頼む」


俺は息を呑んだ。


「お前に……後を継いでほしい。この集落の……長になってほしい」


「ゼド、俺は——」


「分かっている……お前には、お前の道がある。天下を……目指すのだろう」


ゼドの目が、真っ直ぐに俺を見た。


「だが……この集落を、見捨てないでくれ。お前の傘下に……入れてくれ。それだけで……いい」


俺は黙っていた。


「お前なら……この集落を、導いてくれる。私が……百二十年かけてもできなかったことを……お前なら、できる」


「買いかぶりすぎだ」


「いや……分かるのだ。長く生きた者には……分かる。お前は……王になる男だ」


ゼドの手が、わずかに震えた。


「頼む……呂布。この集落の者たちを……守ってくれ」


俺は、ゼドの手を握り返した。


「分かった。約束する」


ゼドの顔に、安堵の表情が浮かんだ。


「ありがとう……」


---


その夜、ゼドは集落の者たちを呼び集めた。


小屋の前に、三百匹以上のゴブリンが集まっている。皆、不安と悲しみの入り混じった表情を浮かべていた。


ゼドは、二匹の若者に支えられながら、小屋の前に立った。


「皆……聞いてくれ」


弱々しいが、しっかりとした声だ。


「私の命は……もう長くない。だが……心配するな。この集落は……滅びない」


ざわめきが広がった。


「私は……後継者を決めた」


ゼドが、俺の方を見た。


「呂布だ」


静寂が落ちた。全員の視線が、俺に集まる。


「呂布は……北の山を支配する王だ。オーガを倒し、オークを滅ぼし、今や……八十を超える群れを率いている」


驚きの声が上がった。


「彼は……私と同盟を結んでくれた。そして……この集落を、守ると約束してくれた」


ゼドは俺に向き直った。


「呂布……この者たちの前で、改めて誓ってくれ」


俺は一歩前に出た。


三百匹以上の目が、俺を見つめている。期待、不安、警戒——様々な感情が入り混じっている。


「俺は呂布だ」


俺は声を張り上げた。


「ゼドの遺志を継ぎ、この集落を守ることを誓う」


静寂の中、俺は続けた。


「だが、誤解するな。俺は、お前たちを支配するために来たのではない」


「俺が求めるのは、仲間だ。共に戦い、共に生き、共に高みを目指す仲間だ」


「お前たちが俺に従うなら、俺はお前たちを守る。鍛える。強くする。そして——」


俺は拳を掲げた。


「共に、天下を目指す」


沈黙が続いた。


やがて、一匹のゴブリンが膝をついた。以前、俺が訓練した若者の一人だ。


「呂布様に、従います」


もう一匹が続いた。もう一匹。もう一匹。


やがて、三百匹以上のゴブリンが、全員膝をついていた。


「呂布様!呂布様!」


歓声が、夜空に響き渡った。


---


ゼドは、その三日後に息を引き取った。


静かな最期だった。眠るように、穏やかに。


「よく……やった……」


最期の言葉は、俺に向けられたものだった。


「後は……頼んだ……」


そして、ゼドは目を閉じた。二度と、開くことはなかった。


---


ゼドの葬儀は、盛大に行われた。


集落の全員が参列し、彼の遺体を見送った。遺体は集落の外れにある丘に埋葬され、石の墓標が立てられた。


「百二十年か……」


俺は墓標の前に立ち、呟いた。


「長い人生だったな。ゆっくり休め」


俺は背を向け、歩き出した。


やるべきことが、山ほどある。


---


ゼドの死後、俺は集落の再編に取り掛かった。


まず、新しい指導者を決める必要があった。俺がここに常駐するわけにはいかない。北の山を空けるわけにはいかないからだ。


「この集落を任せられる者が必要だ」


俺は集落の者たちを見回した。


以前、俺が訓練した五十匹の若者たち。彼らの中から、リーダーを選ばなければならない。


「ガッシュ」


俺は一匹の名を呼んだ。


「はい」


前に出てきたのは、若い成体のゴブリンだった。訓練の時から、頭角を現していた者だ。動きが良く、判断も速い。何より、仲間からの信頼が厚い。


「お前に、この集落を任せたい」


ガッシュの目が見開かれた。


「俺が……ですか」


「ああ。お前には、人を率いる才がある。それに、仲間からの信頼もある」


「でも、俺はまだ——」


「ゼドも、最初から完璧だったわけではない。やりながら学べ。困ったことがあれば、俺に相談しろ」


ガッシュは少し考え込んだ後、深く頷いた。


「分かりました。やります」


「よし。では、お前をこの集落の長に任命する」


俺は振り返り、集落の者たちに告げた。


「今日から、ガッシュがこの集落を率いる。俺の代理として、全権を委ねる。ガッシュの指示には、俺の指示と同じ重みがあると思え」


集落の者たちが、一斉に頭を下げた。


---


集落の再編には、十日を要した。


指揮系統を整え、役割分担を決め、訓練の計画を立てた。北の山で培った経験が、ここでも活きた。


「これで、ある程度は回るはずだ」


俺はガッシュに最後の指示を伝えた。


「毎日の訓練を怠るな。食料の備蓄を常に確保しろ。周囲の偵察も忘れるな」


「はい」


「何か問題があれば、北へ伝令を送れ。俺が対応する」


「分かりました」


俺は集落を見回した。


三百匹以上のゴブリン。これで、俺の勢力は四百匹を超えた。


「ガッシュ、一つ聞きたい」


「何でしょう」


「この集落に、特技を持った者はいるか。鍛冶とか、薬草の知識とか」


ガッシュは少し考えた。


「鍛冶はいませんが……薬草に詳しい者が何人かいます。ゼド様に教わった者たちです」


「薬草か。それは役に立つ」


「あと、罠を作るのが上手い者が数人。弓を作れる者も一人います」


「弓を作れる者?」


「はい。人間の村の近くで育った者で、人間の弓職人を見て技術を覚えたとか」


俺の目が光った。


「その者を、北に送ってほしい。俺の群れには、弓を作れる者がいない」


「分かりました。すぐに手配します」


「ありがとう」


俺は立ち上がった。


「では、俺は北に戻る。何かあれば、連絡をくれ」


「呂布様」


ガッシュが俺を呼び止めた。


「何だ」


「ありがとうございます。俺たちに、希望をくれて」


俺は少し微笑んだ。


「礼を言うのは、まだ早い。これからが本番だ」


---


北の山に戻ったのは、出発から二十日後だった。


「おかえり、呂布」


グルドが出迎えてくれた。


「留守の間、何かあったか」


「いくつかある。まず、良い報告から——カザンが剣を十本作った」


「十本か。よくやった」


「それから、ゴリの採掘隊が新しい鉄鉱脈を見つけた。砂鉄より質が良いらしい」


「それは朗報だ」


「で、悪い報告だが——」


グルドの表情が曇った。


「北から、人間の偵察が来た」


俺の目が鋭くなった。


「偵察?」


「ああ。三人組の人間が、山の麓をうろついていた。見つかる前に撤退したから、こちらの存在はバレていないと思うが……」


「辺境伯の手の者か」


「おそらく。以前の討伐隊が戻らなかったから、調査に来たのかもしれない」


俺は考え込んだ。


以前の討伐隊を全滅させてから、半年以上が経つ。人間たちが動き出しても、不思議ではない。


「警戒を強めろ。北の見張りを倍に増やせ」


「分かった」


「それから、人間が来た場合の対応を決めておく必要がある」


俺は地図を見た。


人間との戦い。それは、いずれ避けられないことだった。だが、今はまだ——


「まだ、早い」


俺は呟いた。


「今の俺たちでは、人間の軍勢と正面からぶつかれば負ける。もっと力をつけてからだ」


「では、見つからないように隠れるか?」


「隠れ続けることは不可能だ。いずれバレる。その時までに——」


俺は拳を握り締めた。


「戦える態勢を整える」


---


その夜、俺は一人で洞窟の入口に座り、夜空を見上げていた。


二つの月が、静かに輝いている。


この世界に来て、どれほどの時が過ぎただろう。


最弱のゴブリン幼体として目覚め、仲間を集め、オーガを倒し、オークを滅ぼし、今や四百匹以上の群れを率いている。


だが、まだ足りない。


七人の魔王。人間の帝国。天下を取るには、はるかに遠い道のりがある。


「呂布」


声がして振り向くと、グルドが立っていた。


「眠れないのか」


「ああ。考え事をしていた」


グルドが隣に座った。


「ゼドのことか」


「それもある。だが、それだけじゃない」


俺は月を見上げた。


「俺は、前世で多くの者を失った。丁原、董卓、陳宮、高順——全て、俺が裏切り、あるいは見捨てた者たちだ」


「……」


「この世界では、同じ過ちは繰り返さないと誓った。仲間を大切にし、信頼を築き、共に歩むと」


俺はグルドを見た。


「だが、リーダーになるということは——いつか、仲間を失う覚悟も必要だということだ」


グルドは黙って聞いていた。


「ゼドは、百二十年生きた。その間、どれほどの仲間を見送ってきたのか。それでも、彼は最後まで集落を守ろうとした」


俺は深く息を吐いた。


「俺にも、それができるだろうか。仲間を失っても、折れずに前に進み続けることが」


「できるさ」


グルドが言った。


「俺が保証する」


「なぜ、そう言える」


「お前は、変わったからだ」


グルドは俺を真っ直ぐに見た。


「前世のお前がどんな奴だったか、俺は知らない。だが、今のお前は——仲間のために戦える奴だ。仲間を守るために、命を懸けられる奴だ」


「……」


「だから、俺たちはお前についていく。お前が折れそうになったら、俺たちが支える。それが、仲間ってもんだろう」


俺は——少し、笑った。


「ありがとう。グルド」


「礼はいらねえ。さあ、もう寝ろ。明日も早いんだろう」


「ああ。そうだな」


俺は立ち上がり、洞窟の奥へ向かった。


明日から、また新たな戦いが始まる。


だが、俺は一人ではない。


仲間がいる。共に歩む者たちがいる。


それが——俺の、最大の武器だ。


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】ホブゴブリン**

**【レベル】48**


**【HP】470/470**

**【MP】185/185**


**【筋力】192**

**【敏捷】202**

**【知力】135**

**【魔力】112**

**【耐久】180**

**【幸運】62**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(覚醒)、天下無双(封印)、指揮(Lv.10)【MAX】、投擲(Lv.8)、隠密(Lv.7)、危機察知(Lv.9)、窮地の逆転(Lv.4)、戦術眼(Lv.10)【MAX】、教導(Lv.10)【MAX】、統率(Lv.10)【MAX】、読字(自動習得)、剣術(Lv.10)【MAX】、野営(Lv.5)、追跡(Lv.6)、火計(Lv.4)、再生(Lv.6)【UP】、鼓舞(Lv.8)【UP】、交渉(Lv.6)【UP】、威厳(Lv.8)【UP】、耐寒(Lv.2)、講義(Lv.6)【UP】、情報収集(Lv.5)【UP】、指導者の器(Lv.4)【UP】、奇襲(Lv.2)、殲滅戦(Lv.2)、組織運営(Lv.3)【UP】、資源管理(Lv.2)【UP】、継承(Lv.1)【NEW】、領主(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者、外交者、師、オーク殺し、軍団長、後継者【NEW】、盟主【NEW】


---


**【新規スキル】継承 Lv.1**


**種別:**統治スキル


**効果:**先人の意志を受け継ぎ、その力を自らのものとする能力。継承した組織の忠誠心が低下しにくくなる。


**成長条件:**より多くの遺志を継承し、それを発展させること。


**備考:**過去から未来へ、意志は受け継がれていく。


---


**【新規スキル】領主 Lv.1**


**種別:**統治スキル


**効果:**複数の拠点を統治する能力。離れた場所にある配下への命令伝達効率が向上。領地内の生産性+5%。


**成長条件:**より広い領域を支配し、統治すること。


**備考:**群れの長から、領地を持つ者へ。王への第一歩。


---


**【新規称号】後継者**


**効果:**継承した組織への統率力+10%。先代の配下からの信頼が得やすくなる。


**取得条件:**先代の遺志を継ぎ、組織を引き継ぐこと。


**備考:**受け継いだものを、さらなる高みへ導く者。


---


**【新規称号】盟主**


**効果:**同盟関係にある勢力への影響力+15%。同盟勢力との連携効率が向上。


**取得条件:**複数の勢力を傘下に収め、盟主として認められること。


**備考:**一つの群れを超え、複数の勢力を束ねる者の証。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る