『覇者の萌芽』

オークの拠点を制圧してから、二週間が過ぎた。


俺たちは東の谷にも勢力を広げ、支配領域は以前の三倍に拡大していた。群れの数も増えている。オークに襲われた生き残りの六匹に加え、東の谷で保護した別のゴブリン群れが十二匹。合計で五十匹を超える大所帯になっていた。


「呂布、報告がある」


ゴルドが駆け寄ってきた。


「何だ」


「東の残り二つの群れだが——こちらから接触する前に、向こうから使者が来た」


「使者?」


「ああ。従いたい、と言っている」


俺は眉を上げた。


オークを壊滅させたことが、噂になっているのだろう。東の谷で暮らすゴブリンたちにとって、オークは恐怖の象徴だったはずだ。それを倒した俺たちは——


「恐れられているのか、それとも頼られているのか」


「両方だろうな」


ゴルドが苦笑した。


「恐れているからこそ、敵に回りたくない。頼りになるからこそ、味方になりたい。どちらにせよ、俺たちにとっては悪い話じゃない」


「確かにな」


俺は考えた。


二つの群れが自ら従うと言っている。戦わずして勢力を拡大できる。これは好機だ。


「使者はどこにいる」


「洞窟の入口で待たせている」


「連れてこい」


---


使者は二匹のゴブリンだった。


どちらも成体だが、痩せており、目には疲労の色が濃い。長い間、安定した生活を送れていなかったのだろう。


「お前たちが使者か」


俺は彼らの前に立った。ホブゴブリンになった俺は、彼らより頭二つ分大きい。見下ろす形になる。


「は、はい」


一匹が膝をついた。もう一匹も慌てて続く。


「俺たちは、東の谷の二つの群れを代表して参りました。呂布様の軍門に下りたく——」


「待て」


俺は彼を遮った。


「まず、立て。跪く必要はない」


「え……?」


「俺は、恐怖で人を従わせるつもりはない。話は対等にする。立て」


二匹は困惑した様子で顔を見合わせたが、ゆっくりと立ち上がった。


「それでいい。さて、改めて聞こう。お前たちの群れは、なぜ俺に従いたいと思った」


使者の一匹が、意を決したように口を開いた。


「オークです」


「オーク?」


「俺たちは、長い間オークに怯えて暮らしてきました。奴らは気まぐれに俺たちの群れを襲い、仲間を殺し、食料を奪っていった。俺たちには、抵抗する力がなかった」


もう一匹が続けた。


「でも、あなたがオークを全滅させた。十匹以上のオークを、たった数日で。俺たちには信じられないことでした」


「だから、従うのか」


「はい。あなたの下にいれば、もうオークに怯えなくていい。安全に暮らせる。それが——俺たちの望みです」


俺は黙って彼らを見つめた。


安全に暮らしたい。それは、最も基本的な願いだ。前世の俺は、そんな願いを理解できなかった。強さだけを追い求め、弱者の気持ちなど考えもしなかった。


だが、今は分かる。


「分かった。お前たちの群れを受け入れる」


使者たちの顔が、ぱっと明るくなった。


「本当ですか……!」


「ああ。ただし、条件がある」


「条件……?」


「俺の指示には従え。群れの掟を守れ。そして——仲間を裏切るな。この三つを守れるか」


使者たちは顔を見合わせ、そして力強く頷いた。


「守ります。必ず」


「よし。では、お前たちの群れを連れてこい。俺の群れへようこそ」


---


三日後、東の二つの群れが合流した。


一つは十五匹、もう一つは十八匹。合わせて三十三匹。


これで、俺の群れは八十匹を超えた。


「すごい数になったな……」


グルドが感慨深げに言った。


「ああ。だが、数が増えれば問題も増える」


「問題?」


「食料、住居、統制。八十匹以上が一つの洞窟に住むのは無理だ。拠点を分ける必要がある」


俺は地図を広げた。


「北の山の洞窟が本拠地。東の谷のオークの洞窟を第二拠点にする。群れを二つに分けて、それぞれに指揮官を置く」


「指揮官?」


「ゴルド、お前が東の拠点を任せる。三十匹を率いて、東の守りを固めろ」


ゴルドが目を見開いた。


「俺が……?」


「お前は元々、二十匹の群れを率いていた経験がある。任せられる」


ゴルドは少し考え込んだ後、深く頷いた。


「分かった。任せてくれ」


「グルドは俺と一緒に本拠地を守る。ゴリは遊撃隊を率いて、二つの拠点の間を巡回しろ」


「了解」


「ピックとメザは偵察専門だ。周囲の情報を常に集め、異変があれば即座に報告しろ」


「分かった」


俺は全員を見回した。


「俺たちは大きくなった。だが、これで終わりじゃない。もっと大きくなる。もっと強くなる。そして——」


俺は拳を握り締めた。


「いずれ、この大陸全土に名を轟かせる」


---


組織の再編に、一週間を費やした。


群れを三つの部隊に分け、それぞれに役割を与えた。


本隊は俺とグルドが率いる四十匹。本拠地の防衛と、重要な作戦の実行を担う。


東方隊はゴルドが率いる二十五匹。東の谷の防衛と、さらなる東方の偵察を担う。


遊撃隊はゴリが率いる十五匹。二つの拠点間の連絡と、緊急時の増援を担う。


「これで、ある程度の規模の敵が来ても対応できる」


俺は満足げに頷いた。


「だが、まだ足りないものがある」


「何だ」


グルドが尋ねた。


「武器と防具だ。今の装備は、人間から奪ったものとオークから奪ったものだけ。数が足りないし、質もバラバラだ」


「確かに……剣を持っている奴は半分もいない。大半は棍棒か石だ」


「武器がなければ、戦力は上がらない。どうにかして、まともな武器を手に入れる必要がある」


俺は地図を見た。


北には人間の領域。武器は豊富にあるだろうが、奪いに行くのは危険だ。


南にはゼドの集落とゴブリンの王国。集落には武器を作る技術がないと聞いた。王国には——あるかもしれないが、まだ接触する段階ではない。


「作るしかないな」


俺は呟いた。


「作る?」


「ああ。自分たちで武器を作る。鍛冶の技術を持った者がいれば——」


「呂布様」


声がして振り向くと、新しく加わった群れの一匹が立っていた。東の谷から来た者だ。


「どうした」


「あの……聞こえてしまったのですが、武器を作る話……」


「ああ。何か知っているのか」


彼は少し躊躇った後、口を開いた。


「俺の父は、鍛冶をやっていました」


「鍛冶?」


「はい。元々は人間の村の近くに住んでいて、人間の鍛冶を見て覚えたと聞いています。俺も、少しだけ教わりました」


俺の目が光った。


「お前、名前は」


「カザンと申します」


「カザン。お前に、鍛冶を任せたい。できるか」


カザンは目を見開いた。


「俺が……?でも、俺はまだ見習いで——」


「構わない。やりながら覚えろ。必要な材料や道具があれば、言え。できる限り揃える」


カザンは少し考え込んだ後、決意を込めて頷いた。


「分かりました。やってみます」


「よし。期待している」


---


カザンを鍛冶担当に任命したことで、新たな問題が浮上した。


材料だ。


「鉄が必要です」


カザンが説明した。


「剣や槍を作るには、鉄がないと始まりません。あとは、炭と、鍛冶場を作るための石……」


「鉄はどこで手に入る」


「鉄鉱石を掘るか、人間から奪うか……あとは、沼地に砂鉄があることもあります」


俺は地図を見た。


「沼地か……西の森の先に、沼地があったはずだ」


「暗黒沼地ですか?」


メザが口を挟んだ。


「ゼドから聞いた話では、西の暗黒沼地には『瘴気の魔王』がいるとか……」


「沼地全体が魔王の領域というわけではないだろう。端の方なら、砂鉄を採取できるかもしれない」


俺は決断した。


「偵察隊を出す。西の森を抜けて、沼地の端を調べてこい。砂鉄が採れそうな場所があるかどうか、確認しろ」


「了解」


ピックが頷いた。


「ただし、深入りするな。危険を感じたら、即座に撤退しろ」


「分かった」


偵察隊が出発した。


---


偵察隊の帰還を待つ間、俺は別のことに取り組んでいた。


訓練の強化だ。


八十匹以上に膨れ上がった群れ。その半数以上は、まともな戦闘訓練を受けていない。数だけ増えても、烏合の衆では意味がない。


「全員、集まれ」


俺は広場に群れを集めた。


八十匹以上のゴブリンとホブゴブリンが、俺の前に整列している。壮観な光景だ。だが、同時に——まだまだ未熟な者が多いことも分かる。


「今日から、全体訓練を始める」


俺は声を張り上げた。


「お前たちの中には、戦いを知らない者も多い。だが、これから先、戦いは避けられない。生き残りたければ、強くなれ」


俺は剣を抜いた。


「まず、基本の構えから教える。全員、俺の動きをよく見ろ」


---


訓練は、毎日続けられた。


朝は体力作り。昼は武器の扱い。夕方は集団戦術。夜は座学——俺が戦術や戦略について講義する。


厳しい訓練だったが、脱落者はいなかった。


「呂布様の訓練は厳しいが、確実に強くなれる」


そんな評判が、群れの中に広まっていた。


十日が過ぎた頃、偵察隊が戻ってきた。


「呂布、報告がある」


ピックが息を切らせて駆け寄ってきた。


「どうだった」


「砂鉄、見つかった。沼地の端、浅瀬になっている場所に、大量の砂鉄が堆積している」


「危険はなかったか」


「沼地の奥には入らなかった。端だけを調べた。今のところ、敵の気配はない」


「よし。採掘隊を編成する」


俺は即座に決断した。


「二十匹を選抜して、砂鉄の採取に向かわせる。護衛もつける。ゴリ、お前が指揮を執れ」


「了解」


ゴリが頷いた。


「ただし、慎重にやれ。沼地の奥には、何がいるか分からない。異変があれば、即座に撤退しろ」


「分かった」


---


採掘隊が出発して五日後、最初の砂鉄が届いた。


「これが砂鉄か……」


カザンが目を輝かせた。


黒い砂のような物質。これを精錬すれば、鉄になる。


「足りるか」


「これだけあれば、剣を数本は作れます。ただ——」


「ただ?」


「鍛冶場がまだ完成していません。炉を作る石が足りなくて……」


「石なら山にいくらでもある。何が必要だ」


「熱に強い石です。普通の石では、炉の熱に耐えられません」


俺は考えた。


熱に強い石。火山岩のようなものだろうか。


「山の奥を探してみろ。この山脈のどこかに、そういう石があるかもしれない」


「分かりました」


---


さらに十日が過ぎた。


採掘隊が持ち帰る砂鉄の量は増え、鍛冶場も少しずつ形になっていった。


そして——


「呂布様、できました!」


カザンが興奮気味に駆け寄ってきた。


「最初の剣が、完成しました!」


彼が差し出したのは、粗削りだが確かに「剣」と呼べるものだった。


刃渡りは短く、柄の仕上げも荒い。人間の剣と比べれば、明らかに見劣りする。


だが——


「俺たちの剣だ」


俺はそれを手に取った。


重さのバランスは悪くない。刃も、それなりに鋭い。実戦で使えるレベルだ。


「よくやった、カザン」


「ありがとうございます! 次はもっと良いものを——」


「焦るな。一本ずつ、確実に作れ。数を揃えることが先だ」


「はい!」


カザンは意気揚々と鍛冶場に戻っていった。


俺は剣を見つめた。


これが、俺たちの力だ。


奪うのではなく、作る。自分たちの手で、自分たちの武器を。


これこそが、真の強さへの第一歩だ。


---


「呂布」


グルドが近づいてきた。


「どうした」


「南から、伝令が来ている。ゼドの集落からだ」


俺は眉を上げた。


「ゼドから?何の用だ」


「分からない。ただ、急ぎの用らしい。伝令は、すぐに会いたいと言っている」


俺は頷いた。


「分かった。連れてこい」


しばらくして、一匹のゴブリンが連れてこられた。長い距離を走ってきたのか、息が上がっている。


「呂布様……」


「俺がそうだ。何があった」


伝令は一度深呼吸をして、告げた。


「ゼド様が……倒れました」


「倒れた?」


「はい。十日ほど前から体調を崩されていたのですが、三日前に急に悪化して……今は、床に伏せっておられます」


俺の表情が険しくなった。


「命に別状は」


「分かりません。ただ、ゼド様は……呂布様に会いたいと仰っています。『最期に、あの男と話がしたい』と」


最期。


その言葉が、重く響いた。


「分かった。すぐに行く」


俺は振り返った。


「グルド、留守を頼む。俺は南へ向かう」


「俺も行く」


「駄目だ。群れを空けるわけにはいかない。お前がいなければ——」


「なら、少数で行け。護衛は最低限でいい」


俺は少し考えた後、頷いた。


「分かった。ピックとメザを連れていく。三匹なら、速く動ける」


「気をつけてな」


「ああ」


俺は駆け出した。


ゼドが待っている。


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】ホブゴブリン**

**【レベル】46**


**【HP】445/445**

**【MP】172/172**


**【筋力】182**

**【敏捷】192**

**【知力】125**

**【魔力】105**

**【耐久】170**

**【幸運】58**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(覚醒)、天下無双(封印)、指揮(Lv.10)【MAX】、投擲(Lv.8)、隠密(Lv.7)、危機察知(Lv.9)、窮地の逆転(Lv.4)、戦術眼(Lv.10)【MAX】、教導(Lv.10)【MAX】、統率(Lv.10)【MAX】、読字(自動習得)、剣術(Lv.10)【MAX】、野営(Lv.5)、追跡(Lv.6)【UP】、火計(Lv.4)【UP】、再生(Lv.5)、鼓舞(Lv.7)【UP】、交渉(Lv.5)【UP】、威厳(Lv.7)【UP】、耐寒(Lv.2)、講義(Lv.5)【UP】、情報収集(Lv.4)【UP】、指導者の器(Lv.3)【UP】、奇襲(Lv.2)【UP】、殲滅戦(Lv.2)【UP】、組織運営(Lv.1)【NEW】、資源管理(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者、外交者、師、オーク殺し、軍団長【NEW】


---


**【スキル最大到達】教導 Lv.10(MAX)**


**効果:**教える力が極限に達した。どんな者にも効率的に技術を伝えられる。弟子の成長速度+30%。


**備考:**これ以上の成長には、より高位のスキルへの進化が必要。


---


**【新規スキル】組織運営 Lv.1**


**種別:**統治スキル


**効果:**大規模な組織を効率的に運営する能力。役割分担、指揮系統、情報伝達の効率が向上。


**成長条件:**より大きな組織を運営し、成果を上げること。


**備考:**群れが軍団へと成長する時、必要となる力。


---


**【新規スキル】資源管理 Lv.1**


**種別:**統治スキル


**効果:**食料、武器、材料などの資源を効率的に管理する能力。無駄を減らし、生産性を向上させる。


**成長条件:**資源の採取、生産、分配を管理すること。


**備考:**戦いだけでなく、内政も王の務めである。


---


**【新規称号】軍団長**


**効果:**五十匹以上の配下を統率する際の効率+15%。複数の部隊を同時に指揮する能力が向上。


**取得条件:**五十匹以上の配下を複数の部隊に編成し、統率すること。


**備考:**群れの長を超え、軍団を率いる者の証。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る