『同盟の証』



翌朝、俺は再びゼドの小屋を訪れた。


「答えを聞かせてもらおう」


ゼドは焚き火の前に座り、俺を待っていた。


「同盟を受ける」


「ほう」


「ただし、条件がある」


ゼドの目が、わずかに細められた。


「言ってみろ」


「集落の長を継ぐかどうかは、その時が来たら決める。今は約束できない」


「理由は」


「俺の目標は天下だ。一つの集落に縛られるわけにはいかない。だが、この集落を見捨てるつもりもない。その時が来たら、最善の判断をする」


ゼドはしばらく黙っていた。


やがて、彼は小さく笑った。


「正直だな」


「嘘をついても仕方がない」


「ああ。その通りだ」


ゼドは立ち上がり、俺に手を差し出した。


「いいだろう。その条件で同盟を結ぼう」


俺はその手を取った。


「よろしく頼む、ゼド殿」


「ゼドでいい。殿などつけるな」


「では、ゼド」


「うむ。それでいい」


ゼドは握手を解き、小屋の奥へ向かった。


「同盟の証を渡そう」


彼が持ってきたのは、古びた短剣だった。柄には複雑な紋様が刻まれ、刃は黒く光っている。


「これは——」


「百年前に死んだ、先代の長の遺品だ。『黒牙』という名がついている」


俺は短剣を受け取った。手に馴染む重さ。そして、微かな魔力を感じる。


「魔法の武器か」


「そうだ。切れ味は普通の剣より鋭く、闇の中では光を吸収する。隠密行動に向いている」


「貴重なものを——」


「同盟の証だ。お前が持っているべきだ」


俺は短剣を腰に差した。


「感謝する」


「礼はいい。それより——」


ゼドは窓の外を見た。


「お前に、もう一つ頼みたいことがある」


---


「頼み?」


「ああ。この集落の若者たちを、鍛えてほしい」


俺は眉を上げた。


「鍛える?」


「お前は、オーガを倒すほどの戦術を持っている。その知識を、この集落の者たちにも伝えてほしい」


「……俺は、長くここに留まるつもりはない」


「分かっている。だから、短期間でいい。十日——いや、七日でもいい。お前の訓練を受けさせてくれ」


俺は考えた。


七日間の滞在。その間に、この集落の戦力を少しでも上げる。それは、同盟相手を強くすることでもある。悪い話ではない。


「分かった。引き受けよう」


「ありがとう」


ゼドは深く頭を下げた。


「では、今日から始めてくれ。若者たちを集めておく」


---


昼過ぎ、集落の広場に五十匹ほどのゴブリンが集められた。


全員が成体。若く、体力はあるが、訓練されていない。目には好奇心と不安が入り混じっている。


「俺は呂布。北の山から来た」


俺は彼らの前に立ち、声を張り上げた。


「これから七日間、お前たちを鍛える。楽ではない。だが、生き残りたければ——真剣についてこい」


ざわめきが広がった。


「あいつ、ホブゴブリンだぞ……」


「北の山のオーガを倒したって……」


「本当かよ……」


俺は無視して続けた。


「まず、基本から始める。構え、足運び、呼吸。戦いの土台だ」


俺は剣を抜き、構えを取った。


「見ろ。これが基本の構えだ」


五十匹のゴブリンが、俺の動きを食い入るように見つめている。


「足は肩幅に開く。重心は低く。膝を軽く曲げ、いつでも動けるようにする」


俺は一歩踏み出し、剣を振った。


「動きの起点は、足だ。腕だけで振っても、力は伝わらない。足で地面を蹴り、腰を回し、肩から腕へ、腕から剣へ——力を伝える」


もう一度、ゆっくりと振って見せた。


「分かったか。では、やってみろ」


---


最初の訓練は、散々だった。


構えはばらばら、足運びは乱れ、剣を振れば自分の足を切りそうになる者もいた。


「違う。足が動いていない」


「もっと腰を落とせ」


「力を入れすぎだ。力むな」


俺は一人一人を回り、指導した。グルドとゴルドも手伝ってくれた。


日が暮れる頃には、全員がへとへとになっていた。


「今日はここまでだ。明日も同じ時間に集まれ」


ゴブリンたちが、疲労困憊の表情で散っていく。


「呂布」


グルドが近づいてきた。


「どうだった」


「素材は悪くない。体力はあるし、言うことも聞く。だが——」


「だが?」


「戦いを知らない。本当の戦場を経験していない」


「ああ。この集落は、長い間戦っていないからな。平和ボケしている」


「平和ボケ、か」


俺は空を見上げた。


「それは、幸せなことだ。だが——」


「だが?」


「いずれ、戦わなければならない時が来る。その時に備えて、今鍛えておく必要がある」


グルドは頷いた。


「分かった。明日も、厳しくいこう」


「ああ」


---


訓練は、七日間続いた。


二日目は、組み手の基礎。三日目は、集団での動き方。四日目は、罠の仕掛け方。五日目は、奇襲と撤退の戦術。六日目は、実戦形式の模擬戦。


七日目——最終日。


「今日で、訓練は終わりだ」


俺は五十匹のゴブリンたちを前に、最後の言葉を伝えた。


「七日間、よくついてきた。お前たちは、確実に強くなった」


実際、彼らの動きは見違えるほど良くなっていた。構えは安定し、足運びは滑らかになり、集団での連携も取れるようになっている。


「だが、これで終わりではない。訓練は、毎日続けろ。体は、使わなければ鈍る。今日学んだことを忘れれば、元に戻る」


ゴブリンたちが、真剣な顔で頷いている。


「そして——いつか、戦いの時が来る。その時、お前たちが学んだことが、命を救う。自分の命だけじゃない。仲間の命も」


俺は彼らを見回した。


「強くなれ。もっと強くなれ。そして——生き残れ」


沈黙の後、一匹のゴブリンが拳を突き上げた。


「呂布様!」


続いて、もう一匹。もう一匹。やがて、五十匹全員が拳を突き上げていた。


「呂布様! 呂布様!」


俺は——少し、面食らった。


「様、はやめろ。俺は——」


「呂布様は、俺たちの師匠だ!」


一匹が叫んだ。


「七日間で、俺たちをここまで変えてくれた! 感謝しています!」


師匠、か。


俺は苦笑した。


「……分かった。好きに呼べ」


歓声が上がった。


---


その夜、ゼドが俺を呼んだ。


「見事だった」


ゼドは満足そうに言った。


「たった七日で、あの若者たちをあれほど変えるとは。さすがは転生者だ」


「買いかぶりすぎだ。俺は、基礎を教えただけだ」


「その基礎が、最も大切なのだ。土台がなければ、何も積み上げられない」


ゼドは茶を俺に差し出した。香ばしい匂いがする。この世界にも、茶があるのか。


「お前は明日、北に戻るのか」


「ああ。群れを長く離れるわけにはいかない」


「そうだな。だが——」


ゼドは窓の外を見た。


「また来い。お前が来れば、この集落は変わる。若者たちも、お前を待っている」


「……考えておく」


俺は茶を飲んだ。苦いが、悪くない味だ。


「一つ聞いていいか」


「何だ」


「ゴブリンの王国について、もっと詳しく教えてくれ」


ゼドの目が、わずかに鋭くなった。


「何が知りたい」


「規模、戦力、王の名前——何でもいい」


ゼドはしばらく考え込んだ。


「王国の名は『グロンド』。数万のゴブリンが住み、王が治めている。王の名は——『ゴブリン王ガロン』」


「ガロン」


「ああ。百年以上王座に君臨している。強大な力を持ち、樹海の魔王に仕えている」


「樹海の魔王に仕えている……つまり、魔王の配下か」


「そうだ。グロンド王国は、樹海の魔王の勢力の一部だ。独立した国ではあるが、魔王に逆らうことはできない」


俺は考えた。


ゴブリンの王国。魔王の配下。いずれは、そこと関わることになる。


「王国に近づくのは、危険か」


「今のお前では——ああ、危険だ。王国には、強力なホブゴブリンやオーガが多数いる。王自身も、並の魔物では太刀打ちできない」


「そうか」


俺は茶を飲み干した。


「ありがとう。参考になった」


「お前は、いずれ王国に挑むつもりか」


「分からない。だが、天下を目指すなら——避けては通れないだろう」


ゼドは長い間、俺を見つめていた。


「お前は——本当に、天下を取るかもしれんな」


「取る。必ず」


俺は立ち上がった。


「明日、早朝に出発する。世話になった」


「ああ。気をつけて行け」


---


翌朝、俺たちは集落を出発した。


見送りには、ゼドと訓練を受けた五十匹のゴブリンたちが来ていた。


「呂布様! また来てください!」


彼らが手を振っている。


俺は振り返り、軽く手を上げた。


「強くなっていろ。次に会う時、成長を見せてくれ」


「はい!」


元気な返事が返ってきた。


俺たちは森の中へ消えていった。


---


「様付けで呼ばれてたな」


帰り道、グルドがからかうように言った。


「うるさい」


「いや、似合ってたぞ。呂布様」


「殴るぞ」


グルドが笑った。ゴルドも、メザも、ピックも笑っている。


「まあ、いい旅だったな」


ゴルドが言った。


「同盟を結び、情報を得て、集落の連中も鍛えた。収穫は大きい」


「ああ」


俺は北の山を見上げた。


まだ遠いが、見える。俺たちの拠点。俺たちの領域。


「帰るぞ。やることは、まだ山ほどある」


---


五日後、俺たちは山に帰還した。


「おかえり、呂布!」


ゴリが出迎えてくれた。


「留守の間、何かあったか」


「いや、何もない。平和だった」


「そうか。よくやった」


俺は洞窟に入り、仲間たちを集めた。


「全員、聞いてくれ」


三十匹以上のゴブリンとホブゴブリンが、俺の前に集まった。


「南への偵察は成功した。ゴブリンの集落と同盟を結んだ。そして——この世界のことが、少し分かった」


俺は、ゼドから聞いた情報を伝えた。


大陸の名前。人間の帝国。四つの人間の国。七人の魔王。そして——ゴブリンの王国。


話を聞き終えた仲間たちは、驚きと興奮に包まれていた。


「七人の魔王……」


「ゴブリンの王国……」


「すげえ……世界って、そんなに広いのか……」


俺は全員を見回した。


「俺たちは、まだ小さい。この山を支配しただけだ。だが——」


俺は拳を握り締めた。


「ここから始める。この山を拠点に、勢力を広げる。仲間を増やし、力をつけ、いつか——天下を取る」


仲間たちの目に、火が灯った。


「そのために、もっと強くなれ。もっと賢くなれ。俺と一緒に、頂点を目指せ」


沈黙の後——


「おおおおお!」


歓声が、洞窟に響き渡った。


俺は、その声を聞きながら思った。


これが、俺の軍勢だ。


まだ小さい。まだ弱い。だが——


必ず、大きくなる。必ず、強くなる。


そして、いつか——


天下を取る。


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】ホブゴブリン**

**【レベル】40**


**【HP】380/380**

**【MP】142/142**


**【筋力】152**

**【敏捷】162**

**【知力】105**

**【魔力】88**

**【耐久】142**

**【幸運】50**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(覚醒)、天下無双(封印)、指揮(Lv.10)【MAX】、投擲(Lv.7)、隠密(Lv.6)、危機察知(Lv.8)、窮地の逆転(Lv.3)、戦術眼(Lv.10)【MAX】、教導(Lv.9)【UP】、統率(Lv.9)【UP】、読字(自動習得)、剣術(Lv.8)、野営(Lv.4)、追跡(Lv.4)、火計(Lv.3)、再生(Lv.4)、鼓舞(Lv.5)【UP】、交渉(Lv.4)【UP】、威厳(Lv.5)【UP】、耐寒(Lv.2)、講義(Lv.3)【UP】、情報収集(Lv.2)【UP】、指導者の器(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者、外交者、師【NEW】


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**【スキル最大到達】指揮 Lv.10(MAX)**


**効果:**戦場での指揮能力が極限に達した。配下への命令伝達が瞬時に行われ、複雑な戦術も即座に実行可能。配下の戦闘力+15%。


**備考:**これ以上の成長には、より高位のスキルへの進化が必要。


---


**【スキル最大到達】戦術眼 Lv.10(MAX)**


**効果:**戦場を俯瞰する目が極限に達した。敵の動きを予測し、最適な戦術を瞬時に構築できる。奇襲成功率+30%、罠の効果+25%。


**備考:**これ以上の成長には、より高位のスキルへの進化が必要。


---


**【新規スキル】指導者の器 Lv.1**


**種別:**統率スキル


**効果:**多くの者を導く器が認められた。配下の最大数が増加し、異なる種族の者も配下にできる可能性が生まれる。


**成長条件:**より多くの者を率い、導き、成長させること。


**備考:**真の王は、一族だけでなく、全ての者を導く。


---


**【新規称号】師**


**効果:**教えを受けた者からの忠誠心+15%。教導・講義スキルの効果+10%。


**取得条件:**多くの者に教えを施し、成長させること。


**備考:**知識と技術を伝える者。その教えは、弟子たちの中で生き続ける。

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