『冬の訪れ』



空から白いものが降り始めた。


雪だ。


俺は洞窟の入口に立ち、舞い落ちる雪片を見つめていた。この世界にも、冬があるのか。当然といえば当然だが、改めて実感すると奇妙な感慨があった。


「呂布、寒くないのか」


グルドが毛皮を肩にかけて近づいてきた。オーガの巣から見つけた獣の皮だ。冬を越すために、俺たちは備蓄を進めていた。


「平気だ。ホブゴブリンになってから、寒さに強くなった」


「そうか。俺はまだ駄目だな。早く進化したい」


グルドのレベルは既に二十を超えている。ホブゴブリンへの進化も近いだろう。


「焦るな。もうすぐだ」


「分かってる。だが——」


グルドは雪景色を見つめた。


「冬が来ると、狩りが難しくなる。獲物が減るし、動きも鈍くなる。備蓄だけで三十匹以上が冬を越せるのか、不安だ」


「だから、今のうちに狩りを増やしている。それに——」


俺は山の向こうを見た。


「冬の間は、他の勢力も動きにくい。守りを固めるには、良い機会だ」


---


雪が本格的に降り始めてから、十日が過ぎた。


山は白く染まり、気温は急激に下がった。獲物の姿は減り、狩りの成果は半分以下になっている。


だが、俺たちは備えていた。


「食料の備蓄は、あと二ヶ月分はある」


ゴルドが報告した。


「燻製にした肉と、干した木の実。水は雪を溶かせば手に入る。洞窟の奥には、凍らない湧き水もある」


「十分だ。だが、油断はするな。何が起きるか分からない」


「ああ」


冬ごもりの日々が始まった。


狩りに出る頻度を減らし、洞窟の中で過ごす時間が増えた。だが、俺は仲間たちを遊ばせるつもりはなかった。


「訓練は続ける。洞窟の中でできることをやる」


俺は全員を集めて宣言した。


「体を動かさなければ、鈍る。剣の型、組み手、投擲の練習——毎日続けろ」


さらに、俺はもう一つのことを始めた。


教育だ。


「今日は、戦術について話す」


俺は地面に図を描きながら説明した。


「戦いには、三つの要素がある。数、地形、奇襲だ」


仲間たちが、真剣な目で俺の話を聞いている。


「数で勝っていれば、正面からぶつかっても勝てる可能性が高い。だが、俺たちは常に数で劣ることが多い。だから、地形と奇襲を使う」


「オーガの時みたいに?」


ピックが尋ねた。


「そうだ。落とし穴、崖、狭い道——地形を利用すれば、数の差を覆せる。奇襲も同じだ。敵が準備する前に叩けば、少数でも勝てる」


俺は図に矢印を描いた。


「だが、最も大事なのは——情報だ。敵を知り、地形を知り、自分を知る。それができれば、負ける戦いを避けられる」


陳宮がよく言っていた言葉だ。前世の俺は聞き流していたが、今なら分かる。


戦いは、始まる前に決まっている。


---


冬の日々は、静かに過ぎていった。


訓練、教育、そして時折の狩り。同じことの繰り返しだが、仲間たちは着実に成長していた。


特に、ゴルドの群れから来た者たちの成長が著しかった。彼らは元々、生き延びるのに精一杯だった。まともな訓練を受けたことがなく、戦い方も我流だった。


だが、俺の教育を受けて、彼らは変わり始めていた。


「型を覚えると、こんなに違うのか……」


ゴルドの群れの一匹——ガッツという名だった——が、剣を振りながら呟いた。


「ああ。型は、先人の知恵の結晶だ。無駄な動きを省き、最も効率的に力を伝える方法が詰まっている」


「呂布は、どこでこんなことを学んだんだ」


「……前の人生でな」


ガッツは首を傾げたが、それ以上は聞いてこなかった。


---


ある夜、俺は洞窟の奥で一人、考え事をしていた。


冬が明ければ、動き出さなければならない。この山を拠点に、勢力を拡大する。だが、どの方向へ?


北には、人間の村と辺境伯の領地がある。今の俺たちでは、人間の軍勢と正面からぶつかるのは危険だ。


東は、この山脈が続いている。他の魔物の領域があるかもしれない。


西は、俺たちが来た森。人間の討伐が進んでいるかもしれないが、情報がない。


南は——まだ、何があるか分からない。


「情報が足りない」


俺は呟いた。


この世界のことを、俺はまだほとんど知らない。人間の国の名前、魔物の勢力図、世界の広さ——何も分かっていない。


「呂布」


声がして振り向くと、メザが立っていた。


「眠れないのか」


「いや……少し、聞きたいことがあって」


「何だ」


メザは俺の隣に座った。


「お前は、この世界のことをどれくらい知っている」


「ほとんど知らない。俺が知っているのは、この山と、森と、人間の村だけだ」


「……そうか」


メザは何かを考え込んでいる様子だった。


「どうした。何か知っているのか」


「いや……俺も大したことは知らない。ただ、昔——ゴルドの群れに合流する前、俺は別の群れにいた」


「別の群れ?」


「ああ。もっと大きな群れだ。百匹以上いた」


俺は目を見開いた。


百匹以上。それほどの大群れが存在するのか。


「その群れは、どこにあった」


「南だ。この山脈を越えた先に、大きな森がある。その森の奥に、いくつもの群れが集まった『集落』みたいなものがあった」


「集落……」


「俺も詳しくは知らない。子供の頃に離れたから。ただ、そこには——『長老』と呼ばれる存在がいた」


「長老?」


「何百年も生きている、古いゴブリンだと聞いた。見たことはないけど」


俺は考え込んだ。


何百年も生きているゴブリン。それは、どれほど強い存在なのか。そして、そんな存在が率いる集落は、どれほどの規模なのか。


「南に、ゴブリンの集落がある。その情報は、価値がある」


「役に立つか?」


「ああ。冬が明けたら、南へ偵察を送る。その集落の情報を集める」


メザは頷いた。


「俺も行く。道案内はできないかもしれないが、少しは役に立てると思う」


「頼む」


---


冬が深まるにつれ、俺の中で一つの決意が固まっていった。


春になったら、南へ向かう。


この山を拠点にしつつ、ゴブリンの集落と接触する。可能なら、同盟を結ぶ。あるいは——


支配する。


「大きく考えすぎか」


俺は自嘲気味に呟いた。


だが、小さく考えていては、天下は取れない。


「呂布」


声がして振り向くと、グルドが立っていた。その体が、淡く光っている。


「どうした、その光は——」


「来た。やっと来た」


グルドが笑った。


「進化だ」


---


グルドの体を、まばゆい光が包んだ。


仲間たちが集まり、固唾を呑んでその様子を見守っている。光は数分間続き、やがて収まった。


そこに立っていたのは——


「ホブゴブリン……」


ピックが呟いた。


グルドの体は一回り大きくなっていた。筋肉が厚みを増し、肌の色が深い翠色に変わっている。顔つきも精悍になり、目には力強い光が宿っていた。


「どうだ、この体は」


グルドが拳を握り締めた。


「力が、漲っている……!」


「おめでとう、グルド」


俺は手を差し出した。


「これで、お前は俺と同じ種族だ」


グルドは俺の手を握った。その握力が、以前とは比較にならないほど強くなっている。


「やっと、追いついた」


「いや、まだだ。俺も止まっていない。追いつきたければ、もっと上を目指せ」


「ああ、当然だ」


グルドが笑った。


仲間たちから、歓声が上がった。


---


グルドの進化は、群れ全体に希望を与えた。


「俺たちも、いつかああなれるのか」


「進化なんて、本当にあるんだな」


「頑張れば、ホブゴブリンに……」


仲間たちの間で、訓練への意欲が高まっていった。


俺は、その様子を見て満足していた。


群れが成長している。個々の強さだけでなく、全体としての力が増している。


これが、俺の目指す道だ。


独りで強くなるのではなく、皆で強くなる。群れ全体を、高みへ引き上げる。


そうすれば——天下も、夢ではない。


---


冬が、ゆっくりと過ぎていった。


雪が降り積もり、山は白く覆われた。気温は下がり続け、洞窟の外に出られない日も増えた。


だが、俺たちは生き延びた。


備蓄は底を尽きかけたが、春の兆しが見え始める頃には、狩りが再開できるようになった。冬を越えた仲間たちは、一回り逞しくなっていた。


「呂布」


ゴルドが報告に来た。


「雪が溶け始めている。あと十日もすれば、山を動けるようになる」


「そうか」


俺は洞窟の外を見た。


白い山肌の所々に、茶色い地面が顔を出し始めている。春が、近づいていた。


「冬の間、よく耐えた」


俺は振り返り、集まった仲間たちに声をかけた。


「お前たちは、強くなった。ここからが、本当の始まりだ」


仲間たちの目が、期待に輝いている。


「春になったら、南へ向かう。この山脈を越えた先に、ゴブリンの集落があるらしい。その情報を集め、可能なら——俺たちの勢力を、さらに広げる」


グルドが拳を握った。


「やっと、動けるな」


「ああ。長い冬だった。だが、無駄ではなかった」


俺は仲間たちを見回した。


三十一匹のゴブリンとホブゴブリン。冬を越え、絆を深め、鍛え上げられた群れ。


これが、俺の軍勢だ。


「春を待て。そして——」


俺は剣を抜き、掲げた。


「覇道を、進むぞ」


仲間たちの歓声が、洞窟に響き渡った。


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】ホブゴブリン**

**【レベル】38**


**【HP】355/355**

**【MP】130/130**


**【筋力】140**

**【敏捷】150**

**【知力】95**

**【魔力】78**

**【耐久】130**

**【幸運】45**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(覚醒)、天下無双(封印)、指揮(Lv.9)【UP】、投擲(Lv.7)【UP】、隠密(Lv.6)【UP】、危機察知(Lv.8)【UP】、窮地の逆転(Lv.3)、戦術眼(Lv.9)【UP】、教導(Lv.8)【UP】、統率(Lv.8)【UP】、読字(自動習得)、剣術(Lv.8)【UP】、野営(Lv.4)【UP】、追跡(Lv.4)【UP】、火計(Lv.3)【UP】、再生(Lv.4)【UP】、鼓舞(Lv.4)【UP】、交渉(Lv.2)【UP】、威厳(Lv.3)【UP】、耐寒(Lv.2)【NEW】、講義(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し、鬼狩り、育成者、山の王、越冬者【NEW】


---


**【新規スキル】耐寒 Lv.2**


**種別:**生存スキル


**効果:**寒冷環境での活動能力が向上。低温によるステータス低下を軽減し、凍傷への耐性を得る。


**成長条件:**厳しい寒さの中で活動すること。


**備考:**山の冬を乗り越えた証。


---


**【新規スキル】講義 Lv.1**


**種別:**教育スキル


**効果:**複数の者に同時に知識や技術を伝える効率が向上。聞き手の理解度と記憶定着率が上昇する。


**成長条件:**多くの者に教えを施すこと。


**備考:**教導が一対一の指導なら、講義は一対多の教育。真の指導者は、群れ全体を導く。


---


**【新規称号】越冬者**


**効果:**寒冷地での全ステータス+3%。群れの冬季生存率が向上。


**取得条件:**厳しい冬を群れと共に乗り越えること。


**備考:**自然の脅威に打ち勝った者。生存の知恵を体得した証。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る