『新たなる体』


光が収まった時、俺は自分の体が変わっていることに気づいた。


まず、視線が高くなっていた。これまで俺の胸ほどだった岩が、今は腰の位置にある。立ち上がると、洞窟の天井に頭がつきそうになった。


「な……なんだ、これは……」


俺は自分の手を見た。


緑色だった肌が、深い翠色に変わっている。指は五本。爪は鋭く、硬い。腕は太く、筋肉が盛り上がっている。


「呂布……?」


グルドの声がした。


振り返ると、仲間たちが目を見開いて俺を見つめていた。


「お、お前……体が……」


「ああ。進化した」


俺は自分の体を確かめながら答えた。


背丈は、以前の一・五倍ほど。ゴブリンの成体より大きく、オーガよりは小さい。だが、体つきは明らかに変わっている。筋肉の密度、骨格の頑丈さ、全てが別物だ。


「進化って……これが?」


ピックが恐る恐る近づいてきた。


「俺も、いつかこうなれるのか……?」


「ああ。レベルを上げ、条件を満たせば」


俺は拳を握り締めた。


力が漲っている。以前とは比較にならない。この体なら——オーガとも、正面から戦えるかもしれない。


「すげえ……」


ゴリが感嘆の声を上げた。


「本当に、進化なんてものがあったんだな……」


「ああ。グルドが昔聞いた話は、本当だったということだ」


俺はグルドの方を向いた。


彼は岩にもたれ、添え木で固定された左腕を抱えていた。顔色は悪いが、意識はある。


「グルド。腕の具合はどうだ」


「……まだ痛い。だが、折れただけだ。時間が経てば治る」


「無理をするな。当分は安静にしていろ」


「分かってる」


グルドが俺を見上げた。


「お前、本当に変わったな。見た目だけじゃない。雰囲気が違う」


「そうか」


「ああ。なんというか……威圧感が増した。前からあったけど、今はもっと——」


グルドは言葉を探すように眉をひそめた。


「王、みたいだ」


王。


その言葉が、胸に響いた。


---


翌日から、俺は新しい体に慣れるための訓練を始めた。


進化によって、身体能力は大幅に向上した。だが、感覚がずれている。手足のリーチが変わり、体重のバランスが変わり、以前と同じ動きをしようとすると違和感がある。


「くそ……」


剣を振るうたびに、空を切る。的を狙って石を投げても、微妙にずれる。


「調整が必要だな」


俺は独り言ちた。


三日かけて、ようやく新しい体に順応した。以前よりも力が強く、速く、頑丈になっている。剣を振れば、岩を砕ける。走れば、風を切る。


「これが、ホブゴブリンの力か」


悪くない。いや、素晴らしい。


だが、同時に気づいたこともあった。


仲間たちとの体格差が、さらに広がったのだ。


以前は、俺が成体で仲間たちが幼体という差だった。今は、俺がホブゴブリンで、仲間たちがゴブリンという差になっている。種族そのものが異なる。


「呂布」


メザが近づいてきた。


「話がある」


「なんだ」


「仲間たちの間で、動揺が広がっている」


俺は眉をひそめた。


「動揺?」


「お前が進化して……強くなりすぎた。俺たちとの差が、開きすぎた。一部の者は——」


メザは言いにくそうに口ごもった。


「言え」


「お前に、置いていかれるんじゃないかと、不安に思っている」


俺は黙った。


予想していたことだった。俺だけが強くなり、仲間たちとの差が広がれば、彼らは不安になる。当然のことだ。


「俺は」


俺はメザの目を見て言った。


「お前たちを置いていくつもりはない。何度でも言う。俺たちは群れだ。俺だけが先に行っても、意味がない」


「だが、実際に差は——」


「だから、お前たちも強くする」


俺は断言した。


「俺が進化できたなら、お前たちにもできる。レベルを上げ、経験を積み、条件を満たせばいい。俺がその手助けをする」


メザの目が、わずかに見開かれた。


「……本気か」


「本気だ。今日から、訓練を強化する。狩りの頻度も上げる。お前たちが成体に進化し、いずれはホブゴブリンになるまで——俺が導く」


メザはしばらく黙っていた。


やがて、彼は小さく頷いた。


「……分かった。皆に伝える」


「頼む」


---


その日の夜、俺は全員を集めた。


グルドも、添え木を抱えたまま参加した。


「お前たちに、話がある」


俺は仲間たちを見回した。


「俺は進化した。ホブゴブリンになった。お前たちとの差が、さらに広がった」


誰も口を開かない。皆、俺の言葉を待っている。


「不安に思う者もいるだろう。俺が強くなりすぎて、お前たちを置いていくのではないかと。捨てられるのではないかと」


一部の者が、目を逸らした。図星なのだろう。


「だが、俺は言った。俺たちは群れだと。仲間を置いていかないと。その言葉は、今も変わらない」


俺は一歩前に出た。


「むしろ、俺が強くなったことで、お前たちを守る力も増えた。お前たちを鍛える余裕も生まれた。俺の進化は、群れ全体の力が増すことを意味する」


仲間たちの目が、少しずつ俺に向けられた。


「そして、お前たちにも進化の道は開かれている。俺ができたのだ。お前たちにできないはずがない」


俺は拳を握り締めた。


「今日から、訓練を強化する。全員が成体に進化するまで、毎日狩りを行う。そして、いずれは——お前たちもホブゴブリンになれ。俺と並び立て」


沈黙が流れた。


やがて、グルドが口を開いた。


「……なあ、呂布」


「なんだ」


「お前、前よりも——喋るようになったな」


俺は眉を上げた。


「そうか?」


「ああ。昔は、もっと無口だった。言葉より先に、行動で示す奴だと思っていた」


グルドが笑った。


「でも、今のお前は——言葉で、俺たちを導こうとしている。それが、なんだか——」


「何だ」


「嬉しいんだ。お前が、俺たちのことを考えてくれているのが、分かるから」


その言葉が、胸に染みた。


前世の俺は、言葉を軽んじていた。武で示せばいい。強さで従わせればいい。そう思っていた。


だが、それでは——人の心は繋げなかった。


「グルド」


「ん?」


「腕が治ったら、お前を最初に成体へ進化させる。俺の右腕として、ふさわしい力をつけさせてやる」


グルドの目が見開かれた。


「……本気か」


「本気だ。お前は、俺について来ると言った。なら、俺の隣に立つ力を持て」


グルドは——笑った。


痛みを堪えながら、それでも笑った。


「……ああ。分かった。絶対に、追いついてやる」


---


それから十日が過ぎた。


俺たちは山での生活を確立していった。


オーガの巣は、拠点として申し分なかった。広く、深く、外敵から身を守れる。水場も近い。食料となる獣も、山には多い——オーガがいなくなったことで、獲物が戻ってきたのだ。


毎日、狩りと訓練を繰り返した。


俺が先導し、仲間たちが従う。獲物を追い詰め、仕留め、分配する。その繰り返しの中で、仲間たちは確実に成長していった。


最初に変化があったのは、ゴリだった。


「呂布、なんか——体が熱い」


狩りから戻った夜、ゴリがそう言った。


「熱い?」


「ああ。中から燃えるような——痛くはないけど、なんか変な感じだ」


俺はゴリを観察した。


確かに、彼の体から微かな光が漏れている。


「進化の兆候だ」


「え?」


「お前、レベルはいくつだ」


「えーと……十二」


「十分だ。成体への進化条件を満たしている」


ゴリの目が見開かれた。


「本当か……?」


「ああ。今夜中に、お前は成体になる」


その言葉通り、翌朝——ゴリは成体へと進化していた。


体格が一回り大きくなり、筋肉が厚みを増し、顔つきも精悍になった。幼体の面影は消え、立派な戦士の姿がそこにあった。


「すげえ……俺、成体になったのか……」


ゴリが自分の体を見下ろして呟いた。


「これが、進化……」


「ああ。お前が最初だ。だが、他の者も続く」


俺は仲間たちを見回した。


「次は誰だ。お前たちも、早く追いつけ」


その言葉に、皆の目に火が灯った。


---


二十日後には、グルドも成体へと進化した。


折れた腕は完全に治っていた。いや、以前よりも太く、強くなっている。


「これが、成体の力か……」


グルドは拳を握り締め、感慨深げに言った。


「ああ。だが、まだ終わりじゃない。次は、ホブゴブリンを目指せ」


「分かってる。お前に追いつくまで、止まらない」


グルドの目には、強い意志が宿っていた。


その後も、仲間たちは次々と成体へ進化していった。ピック、メザ、そして帰還者たちも。


一ヶ月が過ぎる頃には、群れの全員が成体へと進化を遂げていた。


---


ある夜、俺は洞窟の入口に座り、山の景色を眺めていた。


眼下には、森が広がっている。遠くには、人間の村の明かりが微かに見える。あの村から、かつて討伐隊が送られてきた。今頃、彼らの行方不明が問題になっているだろう。


「呂布」


グルドが隣に座った。


「眠れないのか」


「考え事をしていた」


「何を」


「これからのことだ」


俺は山を見回した。


「この山は、俺たちのものになった。オーガを倒し、領域を支配した。だが——」


「だが?」


「これで終わりじゃない。俺は、もっと上を目指す」


グルドが黙って俺を見た。


「この山の先には、何がある。森の向こうには、何がある。この世界には、どれほどの強者がいる。俺は——全てを知りたい。そして、全てを超えたい」


俺は立ち上がり、夜空を見上げた。


「天下を取る。この世界の頂点に立つ。そのために——まだまだ、先に進まなければならない」


グルドが立ち上がり、俺の隣に並んだ。


「なら、俺も行く。どこまでも」


「ああ。一緒に行こう」


俺たちは、二つの月を見上げた。


覇道は、まだ始まったばかりだ。


---


【ステータス更新】


**【名前】呂布**

**【種族】ホブゴブリン**

**【レベル】32**


**【HP】285/285**

**【MP】98/98**


**【筋力】108**

**【敏捷】118**

**【知力】75**

**【魔力】58**

**【耐久】100**

**【幸運】35**


**【スキル】**

暗視(固有)、威圧(覚醒)、天下無双(封印)、指揮(Lv.7)【UP】、投擲(Lv.6)【UP】、隠密(Lv.5)、危機察知(Lv.6)、窮地の逆転(Lv.3)、戦術眼(Lv.7)【UP】、教導(Lv.6)【UP】、統率(Lv.5)【UP】、読字(自動習得)、剣術(Lv.6)【UP】、野営(Lv.3)【UP】、追跡(Lv.3)【UP】、火計(Lv.2)【UP】、再生(Lv.2)【UP】、鼓舞(Lv.1)【NEW】


**【称号】**

転生者、主殺し、反逆者、魔狼討伐者、群れの長、人殺し、鬼狩り、育成者【NEW】


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**【新規スキル】鼓舞 Lv.1**


**種別:**指揮スキル


**効果:**言葉や行動で仲間の士気を高め、一時的に能力を向上させる。効果範囲と持続時間はレベルに応じて拡大。


**成長条件:**仲間を鼓舞し、困難を共に乗り越えること。


**備考:**真の指揮官は、力だけでなく言葉でも人を動かす。


---


**【新規称号】育成者**


**効果:**配下の成長速度+10%。配下が進化する際の成功率が上昇。


**取得条件:**複数の配下を上位種族へ進化させること。


**備考:**仲間を育て、共に高みを目指す者の証。


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