第4話

 疾風ウルフの討伐から数時間後。

 俺は学園の購買部のカウンターに立っていた。


「……おいおい、冗談だろ?」


 店主の男が、俺が出した素材を見て目を丸くする。

 カウンターに置かれているのは、疾風ウルフの毛皮と牙、そして魔石だ。


「疾風ウルフはDランクの魔獣だぞ。しかも、毛皮に傷ひとつない。一体どうやって倒したんだ?」


 店主が疑いの眼差しを向けてくるのも無理はない。

 Fランクの制服を着た生徒が、上級生でも手こずる魔獣の、しかも最高品質の素材を持ってきたのだから。

 魔法で焼けば毛皮は焦げるし、剣で斬れば傷がつく。だが、ノクスの攻撃は速すぎて、傷つく前に内部破壊で絶命させたらしい。


「ええと、それは……たまたま、同士討ちして死んでいたのを拾ったんです」


 俺は苦しい言い訳をした。

 正直に「生まれたばかりのペットがやりました」なんて言っても信じてもらえないし、ノクスの能力が知れ渡ってガイウスたちに目をつけられるのも面倒だ。


「拾っただと? そんな都合のいい話があるか。お前、どっかから盗んできたんじゃないだろうな?」

「ち、違います! 本当に俺が……!」


 店主の目が険しくなる。

 まずい。このままだと換金どころか、盗難の疑いで補導されかねない。

 どうしようかと冷や汗をかいた、その時だった。


「その素材は、確かに彼が手に入れたものですよ」


 凛とした声が、店内に響いた。

 振り返ると、そこに一人の女子生徒が立っていた。

 腰まで届くプラチナブロンドの髪に、宝石のような蒼い瞳。制服の胸元には、学園最強の証である『剣聖勲章』が輝いている。


「セ、セリア様!?」


 店主が慌てて姿勢を正す。

 セリア・シルヴェスト。

 大貴族の令嬢でありながら、剣の腕前は学園ナンバーワン。その美貌と実力から『戦乙女(ヴァルキリー)』とも呼ばれる、高嶺の花だ。


「私、見ていましたから。森で彼が……いえ、彼の相棒が一撃で仕留めるところを」

「セリア様が見ていたと言うなら、間違いありませんな!」


 店主の手のひら返しは早かった。

 結局、素材は相場の二倍近い高値で買い取ってもらえた。

 店を出た俺は、深々と頭を下げた。


「あの、助けていただいてありがとうございました。セリアさん」

「お礼には及ばないわ。事実を言っただけよ」


 セリアは涼しい顔で微笑むと、俺の肩に乗っているノクスに視線を移した。


「それより……少し、お話できないかしら?」

「え?」

「貴方のその竜、ただのトカゲじゃないわよね? 疾風ウルフの『風の刃』を食べて、自分の力に変えた。……違う?」


 俺は息を呑んだ。

 完全にバレている。


「……他言無用でお願いできますか?」

「ええ、約束するわ」


 俺たちは人目のつかない中庭のベンチに移動した。

 俺は観念して、ノクスが『捕食進化』というスキルを持っていること、魔石や魔法を食べると強くなることを説明した。


「なるほど……食べたモノを力に変える、か。常識外れね」

「やっぱり、気味悪いですよね」

「いいえ」


 セリアは即答した。

 そして、意外なことに目を輝かせてノクスを覗き込んだ。


「すごく、面白いわ」

「……へ?」

「私もね、悩んでいたの。家からは『貴族らしい優雅な剣を使え』って言われるけど、私はもっと実戦的で、泥臭い強さを求めているから」


 セリアは少し寂しげに笑い、それから俺を真っ直ぐに見つめた。


「貴方の戦い方には、常識に囚われない自由さがある。魔法を『受ける』んじゃなく『食べる』なんて発想、普通は出てこないもの」

「いや、それはノクスが勝手に……」

「それを信じて指示を出した貴方も凄いわ、レオン君」


 ドキリとした。

 誰かに、召喚士としての俺を褒められたのは初めてだった。

 ハズレだ、ゴミだと言われ続けてきた俺を、彼女は対等な一人の人間として見てくれている。


「キュウ!」


 ノクスが「俺も褒めろ」と言わんばかりにセリアの手に頭を擦り付けた。

 セリアは「ふふ、可愛い」とノクスの顎を撫でる。


「ねえレオン君。私と『協力関係』を結ばない?」

「協力関係、ですか?」

「ええ。貴方はその竜を育てるための知識や素材が必要でしょう? 私は、貴方の常識破りな戦い方を近くで見て、剣の参考にしたい。……ウィンウィンだと思わない?」


 学園のマドンナからの、まさかの提案。

 俺に断る理由なんてなかった。


「よ、よろしくお願いします! 俺で良ければ!」

「ふふ、決まりね。じゃあ早速だけど……その子、すごくお腹が減ってるみたいだけど?」


 見ると、ノクスが俺の鞄(さっき換金した金貨が入っている)を物欲しそうにじっと見つめていた。


「あ、こら! 金貨は食べるなよ!? それは妹の治療費なんだから!」


 俺が慌ててノクスを取り押さえると、セリアがクスリと笑った。


「大変な相棒ね。……そうだ、私の実家の倉庫に、廃棄予定の『壊れた魔道具』がたくさんあるの。それならいくら食べてもタダよ?」

「えっ、いいんですか!?」

「ええ。どんな進化をするのか、私も見てみたいし」


 こうして、俺と最強の相棒に、心強い理解者が加わった。

 この時の俺はまだ知らなかった。

 この『魔道具の食べ放題』が、ノクスをとんでもない姿へと進化させるきっかけになることを。


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2026年1月19日 19:00
2026年1月20日 07:00
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最弱召喚士の俺、ハズレ枠の“卵”を引いたら古代竜でした kuni @trainweek005050

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