第3話
学園裏に広がる『初級の森』。
そこが、俺たちFランク生に課された試験会場だった。
「いいかゴミども! ノルマはゴブリンの耳5つだ! 死にたくなければさっさと動け!」
教官の怒鳴り声と共に、試験が開始される。
本来なら教師の引率がつくはずだが、落ちこぼれクラスにはそんな優しさはない。
「おい見ろよ、あの黒いの」
「プッ、トカゲかよ。あんなの連れてダンジョンとか正気か?」
すれ違う生徒たちが、俺の肩に乗ったノクスを見て嘲笑う。
特に、わざわざ見物に来ていたガイウスたちの嘲笑は酷かった。
「おいレオン! そのトカゲ、非常食にでもするつもりか? ギャハハ!」
「……行くぞ、ノクス」
俺は挑発を無視して、森の奥へと足を進めた。
今の俺たちに必要なのは、口喧嘩での勝利じゃない。実績だ。
森に入って数十分。
ガサガサッ、と茂みが揺れた。
「グルルゥ……」
現れたのはゴブリンではない。
鋭い牙と、風をまとう緑色の毛並みを持つ狼――『疾風ウルフ』だ。
初級の森には稀にしか出ないはずの、Dランク相当の魔獣。Fランクの召喚獣では、まず勝ち目のない相手だ。
「くそっ、運が悪い……! ノクス、逃げるぞ!」
俺は即座に撤退を判断した。
だが、肩に乗っていたノクスが、ぴょんと地面に飛び降りる。
「キュ!」
「おい、何やってるんだ! そいつは危険だ!」
ノクスは逃げるどころか、自分より何倍も巨大なウルフの前に立ちはだかった。
ウルフが獲物を見つけ、嘲笑うように唸る。
次の瞬間、ウルフが口から不可視の風の刃――『ウィンドカッター』を吐き出した。
「しまっ――」
俺が叫ぼうとした時だ。
ノクスが、あろうことか大口を開けて、その風の刃に飛びついた。
バクンッ!
「え?」
音が消えた。
ノクスが、魔法を“食べた”。
まるでビスケットでもかじるかのように、風の魔力を咀嚼(そしゃく)し、飲み込む。
『――風属性エネルギーを捕食。敏捷性(S)を一時獲得します』
俺の脳内に、無機質なアナウンスが響く。
直後、ノクスの小さな身体がバチバチと黒い雷を纏い始めた。いや、あれは雷じゃない。魔力が溢れ出し、空間を震わせているんだ。
「グルッ!?」
ウルフが驚き、後ずさる。だが、もう遅い。
「行け、ノクス!」
俺の本能が叫んだ。
ノクスの姿がブレる。
ドンッ!!
爆発音のような衝撃音が森に響いた。
俺の目ですら追えなかった。
気づけば、ウルフは遥か後方の巨木に叩きつけられ、白目を剥いて沈黙していた。
その横には、パチパチと黒い余韻を放つノクスが、何食わぬ顔で着地している。
「嘘だろ……一撃?」
Dランクの魔獣を、生まれたばかりの幼竜が瞬殺した。
これが『捕食進化』の力。相手の力を食らい、自分の力として利用する、規格外の能力。
「なんだ今の音は!?」
騒ぎを聞きつけたのか、ガイウスたちが茂みをかき分けて現れた。
彼らは倒れている巨大な疾風ウルフを見て、目を丸くする。
「疾風ウルフだと……? こいつは上級生でも苦戦する魔獣だぞ。誰がやったんだ?」
「俺たちしかいないだろ」
俺が答えると、ガイウスは鼻で笑った。
「はっ! 嘘をつくなゴミ虫! そのトカゲがやったとでも言うのか? どうせ死にかけてた奴にトドメを刺しただけだろうが!」
ガイウスは俺の胸倉を掴み上げようとする。
その時。
「キュウ……」
ノクスが低く唸り、ガイウスを睨みつけた。
ほんの一瞬、ガイウスの顔が恐怖に歪む。
彼は無意識に後ずさり、尻もちをついた。
「ひっ!? な、なんだ今の殺気は……」
「行くぞノクス。ゴブリンを探さないとな」
俺はガイウスを見下ろすことなく、背を向けて歩き出した。
今の俺には、彼らの相手をしている暇なんてない。この最強の相棒を育てることの方が、何百倍も重要で、楽しかったからだ。
「お、覚えてろよレオンーッ!!」
背後で負け犬の遠吠えが聞こえる。
だが、その声はもう俺の心には届かなかった。
そして。
俺たちの戦いを、木陰から静かに見つめる一人の少女がいた。
「……黒い雷。間違いないわ」
学園のマドンナであり、剣術の天才と呼ばれる少女、セリア。
彼女だけが、ノクスが放った一撃の“異常さ”を正確に理解していた。
「あれは古代竜(エンシェントドラゴン)の……ふふっ、面白くなりそう」
最弱召喚士の反逆は、まだ始まったばかりだ。
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