第5話

翌日の手術室には白い光が差し込んでおり、静かな機械音のみが息をしているようでした。

少女は言いました。

「先生なら、痛くしないでしょ」

男は何も言えませんでした。


淡々と準備が進み、二本あるうちの一本が切除されました。二本目のツノを切除するために、麻酔を追加して注射したその時。

少女の恐怖が限界を超えたのです。

角が黒紫に光り、施設が揺れました。

都市全体に警報が出ました。

嵐、地震、豪雨…泣いているのです。彼女が泣くと、雨が降ります。

それは偶然ではありません。

雨は、感情を世界に薄めるための装置なのです。もし彼女が普通の子どもなら、母親の胸で泣けたでしょう。ですが彼女は、雲の中でしか泣けなかったのです。


男は叫びました。

「落ち着け!お前はもう立派な人間になるんだ!

感情くらい、泣きたい気持ちくらい自分で制御しろ!」

その言葉は、自分自身に向けた刃でした。

「この世には…嫌なことなんて山ほどある!

ご飯を食べながら泣くほど沈む日だってある!何もかも上手くいかなくてクソみたいな日だってある!でも、だからといって毎日が涙に塗れてるわけじゃない、クソみたいな人生を送っているわけではないんだ!君みたいに、不安な自分に悩まされる人だっている!それでも人間は、我慢して大人になるんだ!」


少女は、静かに聞いていました。

そして言い放ちました。

「……先生は、自分の感情に素直なの?」

その一言で、男はメスを持つ手を緩めました。

「……違う。俺は優しくなんかない。弱いだけだ。自分を守るために、君一人の幸せすら守れない……」

少女は微笑んだ。

「そうなの?先生、優しいね」


男は、メスを置きました。

「中断する」

その言葉をはなった瞬間、災害は嘘のように止みました。

「ごめんね……私がわがままだから……」

少女はぐすんと鼻を鳴らし、手で顔を抑えました。男は首を振りました。

「違う。全部、人間のエゴだ」

そして、名前を呼びました。

「怖かったな、███。君は、悪くない」

少女は、初めて心から笑いました。

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