占い師を試そうとしたら、返り討ちにあった

ぴよぴよ

第1話 占い師を試そうとしたら、返り討ちにあった

皆さんは占いを信じるだろうか。私はあまり信じる方ではない。

特に手相占い。あれはなんだ。手の皺で運命がわかってたまるかと思っていた。


「ねえ、手相占いに言ってみようよ。お願い」

しかし女の子の友達にこう言われて、行ってみることにした。信じていなくても、興味がないわけじゃない。占い師はカウンセラーみたいなものだ。

所作や顔立ち、服装などからこちらを分析してくるのだろう。


そう思うと、悪い考えが浮かんだ。私はいつもチャランポランとしていて、髪もボサボサ、まるで清潔感のない見た目なのだ。このまま占いに行けば「あなたはだらしない人間です」と言われるに決まっている。

だからあえてキッチリした格好で占いに行ってみようと思った。綺麗に身なりを整えて、紳士のように登場するのだ。それで占い師が私の手相を見て、「あなたはだらしないな」と言えば、そいつは本物である。


占い師を試すために、キッチリしたジャケットを着て、髪を綺麗にとかした。

革靴の汚れを落として、頭からつま先まで風呂に入って綺麗にした。

いい感じだ。どこから見ても、立派な人間に見える。


占い師が私を立派な人間だと言えば、心の中で笑ってやろう。


女の子の友達曰く、そこは非常によく当たる手相占いだそうで、これまでたくさんの人が占い師の言う通りにして成功したらしい。

そんなにすごいならば、腕を見てやろう。私のだらしなさが見抜けるかな?


友達と駅で集合して、占い師のところへ向かった。その間、私は車道側を歩き、紳士的に振る舞った。外は小雨が降っており、二人で傘をさして歩いた。

「今日、なんでそんなに清潔なの?いつも小汚いじゃん」

黙せ。たまには私だって綺麗にしたくなるのだ。気にしなくて良い。


占いの館についた。占い師らしき人がちらっと玄関の我々を見ている。ここから占いは始まっているのだ。

私はキッチリと傘を巻くと、雫を玄関で丁寧に落とし、ゆっくりと傘立てに入れた。

友達は傘を落とし、慌てた様子でそれを拾っていた。

ここからもう見られている。私の第一印象は完璧だ。

きっと友達は「そそっかしい人ですね」なんて言われるのだ。


占い師の方を見ると、魚のクエのような目をしていた。じっと海底に沈んで動かない。そんな感じだ。格好はラフなのに、ただならぬオーラを発していた。


友達から占ってもらうことにした。

占い師は友達の手相を見て、「あなたはそそっかしいタイプだね。何事も慌てすぎると損をするよ」と言った。途端に私の口角が上がった。

やはり見られていたのだ。私の読み通り、そそっかしいタイプだと言った。


友達は目を輝かせ、「すごい!当たってる!」と大喜びしていた。

ああ、そうだとも。大いに喜ぶといい。こうして無邪気に占いを信じられるなんて羨ましいな。友達の手相が見られている間も、私は姿勢を崩さず、キリッとした顔つきで見ていた。


「あと一年で運命の人に出会って結婚するよ。姑さんとは最初はうまくいかないみたい。でもすぐに結婚できるわよ」

ほお。手相でそんなことまでわかるのか。しかしこの友達、失礼だが異性に恵まれたことがない。一年で結婚できるわけがないだろう。

結婚できるんだ!と友達はさらに喜んでいた。全く、この純粋さが眩しいな。

私が必死に神経質そうな紳士の擬態をしていると言うのに。


続いて私の番になった。

「よろしくお願いします」私は堅苦しい雰囲気を発して、手を出した。

クエのような占い師は、ちらっと私の手を見て、一言。

「あなた、変な人ね」と言った。


変な人とはなんだ。私の外見からクールで物静かそうだとは思わなかったのか。

まさか本当に手相を見てそう思ったのか。

「それに珍しい。土星環があるね。変人で自分の世界を持った独特な人が多いのよ」

土星環とは、中指の付け根を半円状に囲む線のことである。

「内向的で孤独を好む傾向にある。あなた、小説とか書くんじゃない?」


待ってくれ。なぜわかる。本当に首筋に汗が浮かんだ。クエのような目に見つめられ、私は紳士コスプレが剥がれていくのを感じた。

そうさ、私はあなたの言うように小説を書いている。内向的だし、多分独特だと思う。


もしかして占いって当たるのか。この手の皺に、私の内面が刻まれているとでも言うのか。私が恐れ慄いている間にも、占い師はぽんぽんと私の特徴を言い当てた。

実はだらしなくて片付けが苦手なこと。恋愛経験がほとんどないこと。創作に情熱を注いでおり、文章を書くことに自信があること。


「あなた、かなり珍しい手相を持ってる。二重生命線が両手にあるわ。特殊部隊とかに入ったらどうかしら」

生命線が二重になっていると、生命力が強いらしい。私の両手にはくっきりと生命線が二本走っていた。


「どんなに孤独になっても、自分の世界観を守り、創作を続けることができる人よ。あなたは作家になれる」


作家になりたいなんて言ってないのに、こう断言された。作家になれると言われて、私は大変気をよくした。なんだよ。手相ってすごいんですね。

すごく当たるではないか。私の負けだ。占い師を試そうなんて、バカな気を起こすんじゃなかった。


「ただし、自殺しようとしたり、孤独のあまりヤケを起こして危ない行動を取らないように」

自殺という言葉にハッとした。普段からうっすら希死念慮に支配されていた私には、かなり刺さる言葉だった。そんなことまでわかってしまうのか。占いというやつは。


そして占い師って必要な職業なんだなと感じた。

こうして言葉をもらえたら、勇気が湧いてくる。明日を真っ直ぐ歩いて行こうと思えるじゃないか。自分の特性を誰かに言ってもらって、道を示してもらえる。

それでゆっくり歩き出せる人もいるのだろう。


私はすっかりこの占い師を信じてしまった。恋愛のこともきいておいた。

「あなたはあと何年かしたら、ものすごく好きな人ができて結ばれる。それもただの恋ではなく、心から愛せる人が見つかるよ」

本当だろうか。恋人なんてろくにできたこともない私が、心から愛せる人が見つかる?

これに関してはあまり信じられなかったが、信じたら救われるかもしれない。


なかなか面白かった。占いってすごいな。

友達と「当たるといいね」と言い合いながら、占いの館を出ようとした。

占い師にお礼を言って、料金を渡し、席を立とうとすると、「ちょっと」と言われた。

大きな魚のような目で私を見上げると、彼女は


「あなた、インスタグラムやりなさい。他のSNSじゃだめ。インスタグラムに作品を載せなさい。わかった?」と言った。


なぜインスタグラムなのか、それはわからないが、占い師的に良いと思ったのだろう。


面白い体験をした。友達はずっと興奮しており、「結婚できるんだ!よかった!」とひたすら無邪気に喜んでいた。私も作家になれると言われたので、すっかり上機嫌だった。その日はおしゃれな喫茶店で昼ごはんを食べて帰った。


占いの館を訪れてしばらくして。

一年ほど経って、友達はマッチングアプリでいい感じのハンサムな青年と出会った。

そしてこの前あれよあれよという間に結婚して行った。


私は心から好きだと思える人に出会え、今交際を続けている。


あとは私が作家になれるかどうかだが、これは私の努力次第と言ったところだろう。

占い師の言う通り、インスタグラムをやってみようか。

インスタグラム、アプリは入れているのだが、操作方法がいまいちハマらず、まだ始められていない。ちゃんとやれば、私の作品はもっと広まるだろうか。


占い師の言葉がずっと私に勇気と希望をくれていることは、間違いない。

挫けそうになったり、私は作家になれないんだ!と絶望しそうになった時は、さっと手を見る癖をつけた。

そこには私の運命を刻んだ手相がくっきりと書かれている。

私を作家にしてくれる手がそこにある。


これからも頑張って行こうと思えた。


皆さんも先が見えなくて不安な時は、占いに行ってみてはどうだろうか。人から道を示されると、心が安心するものである。


インスタグラム、ちゃんとやってみようかな。

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