第7話 砂漠の悲劇

 悲しみに暮れた王妃のすすり泣く声が、この広い砂漠の宮殿で静かに響き渡る。侍女の身分であっても姫様の行方がわからないまま何日も過ぎていくのはあまりにも息苦しい。母ともなればその心情は計り知れないほどの暗闇に沈んでいるに違いない。


「ハンジ、昼食の準備をするぞ。...少しでも王妃の気を紛らわせねば」

「...そうですね」


 宮殿の料理長は私にそう声をかけた。彼は姫様が誕生する前からこの宮殿に勤めているため、王妃の食の好みは完璧に把握していた。そんな彼でも自分の力で王妃を勇気づけることはできないと、声もなく日々嘆いているようだった。すでに下準備は始まっているようで、宮殿の厨房付近を調理師や給仕係がせわしなく行き交っている。皮肉なことに、厨房の中はやさしい小麦と王妃が毎日欠かさず飲むケイヴナッツのスープの香りで埋め尽くされている。どんな環境でも人は腹を空かせ、食べなければ生きていけない。姫様は食事をとれているだろうか。毎日暖かい料理を口に運ぶたびにそのことが思い出されては胸を締め付ける。罪悪感を抱えながら、私は同僚のネディムと一緒にスープの準備を始めた。


「俺にもっと力があれば、あんなクソドラゴンなんて、煮詰めて食ってやるのに...」

「ネディム落ち着いて、そんなに強くかき混ぜたらスープがこぼれてしまうわ」

「クソ...ハンジだってそう思うだろ?」

 

 一週間前に突如としてこの国に降り立ったドラゴンは、いくつもの家を破壊しながら宮殿の包囲網を軽々と突破した。そしてただ一つ望むのは姫の身柄だと言い、渡さないならば国を滅ぼすと脅したのだ。王と王妃は苦渋の決断を強いられた。国を守るためには実の娘を犠牲するほかなかった。姫様は涙を流しながらも、恐怖心を押し殺した笑顔でドラゴンとともに消えてしまった。

 それからというもの、王は必ず姫様を取り返すと奮起され、寝る間も惜しんで捜索を続けている。各地から優秀な兵士や傭兵を集ってはドラゴン討伐を目指して派兵するが、未だ有力な情報は得られず、帰ってこなかった兵士たちもたくさんいるようだった。この世に神様というものがいるのなら、それはなんて残酷なのだろうか。幼き頃から心優しく温かい姫様をどうしてこのような運命に導くのだろうか。私への加護などいらないから、どうか姫様を助けてほしい。心からそう願った。

 


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