第6話 酔っぱらいの行商人

「あ、そうそう昨日おもしれえ奴に会ったぜえ」


 森の果実の甘い香りが運ばれる夜風の下、酒場の洒落たテラスで友人は思い出したようにそう言った。久しぶりに会ったかと思えば、今じゃそれなりに有名な行商人になっているという。確かに身なりも前に比べちゃ随分良いものになったし、表情も明るくなっている。


「おもしれえ奴?」

「あぁ。海の近くに町があんだろお? 数週間前まで魔物だらけで通れなかったのが急に開通されたからよ、どんなもんかと思って通ったんだよ」

「そうなのか」

「あ、お前聞いてねぇだろお?」


 酔っぱらった友人はややこしいオッサンと化すのが悪い癖だった。仕方がないので真面目に聞いているふりをする。


「いやぁな、そいつまぁまぁいい恰好した傭兵なんだがよ、おもしれえくらい何もしゃべらねえんだ。とはいえよ、俺も商人だから品物見せてやるわけだ。そしたらそいつ、品物だけはきっちり吟味してやがるんだよお!」


 ひゃっひゃっひゃと大笑いするが、何がそんなに面白いのかさっぱりだ。だが最近少し噂になっている男のことだと直感した。


「おいそれって、海の町の王子の呪い解いた男じゃないのか?」

「あーん? なんだ知ってんのかあ」


 つまらねえなぁ、とでかでかと溜息を放ってまた酒を煽る。いやな人間になってしまったものだと呆れる。俺は飲みすぎている友人のために、水を注文した。


「その男は結局どうなったんだ?」

「あー、そうだなあ」


 ゆらゆらと胡散臭さのある動きで解説を始める。そのうち椅子から転げ落ちそうな勢いだ。


「あの野郎、黙って地図見せてくっからよお、近場のそこそこの町書き込んでやったんだよ。あー、なんか、砂漠の国の方面でも行ってたっけなあ」

「なっ...お前ってやつは...。あそこは今大事になってるだろう。止めてやらなかったのか」


 店員が水を持ってきてくれたので、友人に半ば無理やり差し出した。不貞腐れたような顔でそれを手に取って友人は渋々飲み始めた。


「まあ、何とかなるだろ。うちの一番の兜を買って行ったからな...」


 彼が眠りに落ちるのがあまりにも早すぎて俺は目を疑った。またこいつを宿屋に運ぶ羽目になるとは。俺は舌打ちをしながら机を片付け、酒臭いおっさんを背負って店を後にした。

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