第5話 変人の奮闘

 若い男たちの喧騒で夜更けに目が覚めた。私は夫を起こして外の様子を窺う。聞こえてくるのは兵士たちの怒号らしかった。


「魔物だ! 魔物が来るぞ!!」

「全員隠れろ!!」


 扉越しには多くの兵士たちがバタバタと走り抜けていく音が聞こえる。隣の家では赤ん坊が泣いているような声がする。


「あなた、地下に急がないと!」

「あぁ。子供らは俺が連れていくから、お前は食料と明りを!」


 地下へ続く梯子を覆っていた床板をはがし、かき集めた食料を担いで落ち着いて下へ降りていく。夫は子供を二人とも抱えて私のすぐ後に地下へ入ってきた。


「俺はギリギリまで上で様子を見ている。もし俺に何かあっても絶対ここは開けるな」

「あなた! やめて! いかないで!」

「大丈夫だ。無理はしないから」


 夫は私たちそれぞれにキスをして上へと戻った。私は不安に押しつぶされそうになったが、子供たちを守らなくてはいけない。ろうそくの明かりをともして半ば夢の中にいる子供たちをゆっくり導いて地下の奥まで進んだ。


「いい? 二人とも。ママの言うことをきちんと聞くのよ」

「うーん.....はい...」

「...わかった...」


 娘たちが眠り姫でよかったと心から思った。今はまだ外の惨劇を知らないだろうから。二人を寝かせて私はすぐそばでろうそくを握りしめて震える手を落ち着かせようとした。一分一秒が永久に感じられた。どうか、どうか皆無事であってと祈り続けた。

 何分経ったかわからない頃、静かに梯子を覆う床板をはがす音が聞こえた。私ははっとして明りを急いで消す。梯子の方を睨むように見つめていると、聞き慣れた声が聞こえた。


「大丈夫、俺だ。外の様子が変なんだ。ちょっと来てくれ」


 私は娘たちがぐっすり寝ているのを確認して静かに歩き、梯子をのぼった。玄関扉に耳をぴったりとつけると、戦いの音の中に歓声が上がっているのが聞こえた。


「見ろ! あっちだ! 只者じゃねえぞ!」

「いけ! 彼に続け!!」

「勝てる、勝てるぞ!!」


 私は夫と目を見合わせ、互いに安堵したのを確認した。扉の向こうは激しい戦いの音から、次第に歓喜の声だけで満たされるようになっていった。



 翌朝、外へ出てみると想像していた惨劇はどこにもなかった。家々を訪問し、戦いの終わりを告げる兵士たちの顔はどれも清々しかった。

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