第4話 呪われの海の町

 この町はもうおしまいかもしれない。王子が魔物に呪いをかけられてからというもの町周辺には魔物が群がりはじめ、虎視眈々と俺たちの衰弱を待っている。王子が指揮を執っていた兵隊たちも、リーダーを失ってしまっては士気も衰えるばかりだった。大切なものは奪われて初めてそれが大切だったと知る。私たちはまさに、平和という大切なものをこの手から奪われつつあるのだ。足の弱い祖父を連れてはここからも逃げ出すことはできないだろう。俺たちはただ最期の日を待つしかないのか。毎日そう考えている。


「じいちゃん、ほら、飯だよ。食べよう」

「すまんのう。だがわしはもういいんだよ。お前がたくさん食べなさい」

「やめろよじいちゃん、そんなこと言うな」


 町周辺が危険になって、物資の搬入も滞っている。今は何とか凌げているが、それもいつかは底をつく。それを知っているからこそじいちゃんは俺を優先してくれるのだ。だが俺にはそれが切なくて苦しくてたまらなかった。


「こんにちは...あ、レノ! いたんだね」

「あぁタムか。どうしたんだ」


 彼女は幼馴染で、よくじいちゃんの様子を見に来てくれる。今日も何か差し入れを持ってきたようだ。


「ごめんね、こんなものしかないけど」

「いや、十分さ。ありがとう」


 申し訳なさそうにはにかむ彼女を見ると、胸が締め付けられる思いだ。魔物の脅威が去ってくれればと切に願うが、同時に俺だけじゃどうにもならない不甲斐なさも腹の底から湧いてくる。


「そうだレノ。噂話なんだけど」


 タムは笑顔を作って変な奴がいるという話をし始めた。身なりからすれば少し離れた森の街の人間らしいが、一言も話さず淡々と街を歩き回っていて少し不気味だという。危害を加えるようなことはしていないが、こんなに周囲が危険な時にふらっとやってくるとは度胸があるのかよほどの阿呆なのか...。


「確かに変な奴だな。タム、あまり近づくなよ」

「わかってる」


 そう言うとタムはじゃあね、と一言残して玄関を出た。じいちゃんは扉が閉まるその瞬間まで見送り続けて、ようやく食事に手を付けた。一口食べるごとにありがとう、ありがとうと言っている。呪いでも魔物でも、1つでも何か奇跡が起きてくれとただ祈った。

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