メープル
をりふで
メープル
三年近く暮らしている茶色の猫は、甘い匂いがする。
どこかで嗅いだ匂いだ。
記憶を手繰り寄せようと、もう一度猫に顔を近づける。
ぷにっと顔に肉球の感触がした。
これ以上嗅ぐのを猫に止められる。
猫は私の手から抜け出すと、カーテンの内側へ行く。
なんだよ。
自分から構ってくれと来るのに。
こちらから構うと嫌がる。
……そんなところも、可愛い。
飼い主バカとは、よく言ったものだ。
私が嫌なことがあって落ち込んだ時、猫は寄り添ってくれた。
嬉しさも相まって涙を流す。
泣き止むまで猫はいてくれた。
元気になったら、励ます必要はないと思われたらしい。
距離感が戻って、少し寂しく感じた。
私が落ち込む度、猫は寄り添う。
何度も心を癒してくれている。
猫に限らず、動物は人間の感情に敏感なのだろう。
休日、友人と喫茶店に行った。
私と友人は同じパンケーキを注文する。
「うちの猫、甘い匂いがするんだよね」
「へえ、どんな?」
「どこかで嗅いだ匂いなんだけど、わからないの」
「そのうち、わかるんじゃない?」
友人は軽い調子で言った。
「このまま一生わからないかもしれないのに」
「でも、三年経ってから気づくこともあるんだ」
「最近、猫の匂いを嗅いだんだよね」
「猫ちゃん、嫌がらない?」
「抵抗される」
「大丈夫なの?」
「いいよ。可愛いから」
「私も動物飼おうかな」
しばらくすると、店員が注文したものを持って来た。
二枚重なったパンケーキの上にバターとはちみつ、白いふわふわの生クリームが添えられている。
ふわりと漂う甘い匂い。
あ。
帰宅すると、私のベッドの上に猫はいた。
穏やかな寝息を立てている。
呼吸に合わせて、茶色の毛が上下に動く。
本当に、よく眠るな。
寝違えたりしないのだろうか。
目を閉じた猫の顔を見る。
寝ていても、やっぱり可愛い。
優しく撫でたら、ゴロゴロと音がする。
猫の首の後ろに顔を近づけた。
甘い匂いがする。
猫は起きて、アーモンド形の目をこちらに向けた。
「ただいま」
私は愛猫の名前を口にする。
メープル をりふで @worifude
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