人生全部賭けても、電波な彼女に勝ちたい。

深水紅茶(リプトン)

第1話

 生まれてから15年。なにをやっても一番だった。

 運動会は常に一位で、クラスの出し物ではいつもセンター。成績だって抜群で、ついでに言えば実家も太い。

 もちろん、友達だってたくさんいる。

 みんなが口を揃えて言う。


火織ひおりちゃん、すごーい! なんでもできるね!」

 

 実際わたしはすごいし、何でもできるので、その評価はとても正しい。

 すごいのは小学校の中だけじゃない。夕方からは習い事にいく。英会話に体操教室に水泳に絵画教室にプログラミング学習、そしてピアノ。

 ここでも、みんなが口を揃えて言う。


「火織ちゃん、すごいね! なんでこんなに上手いの?」


「ありがとう。でも、あなたのモーツァルトも素敵よ」


 にっこり微笑むと、目の前の女の子が「ほわわっ」って感じに赤くなる。

 どうやらわたしはかなりの美少女らしい。

 そしてどうやら、美少女という生き物は、老若男女を問わず愛されてしまうものらしい。

 何歳のときだって、わたしを囲む女の子たちからはビシバシとオーラが伝わってきた。


 ──どうにかして、雨森火織のお友達になりたい。


 だから、わたしはずっと、人生の勝者だった。

 小学校を卒業して、エスカレーター式の名門女子校、聖ルクレツィア女学院に入学したときも。

 中等部で生徒会長を務め、高等部で総代として祝辞を読み上げたときも。

 いつだって世界の中心はわたしだった。

 

 だったのに!


  †


「高等部って、成績を廊下に張り出すんだって」


 高等部初の中間試験を終えた翌日。

 人気のない放課後の教室で、幼馴染の水瀬紫亜がそう言った。

 紫亜は沖縄出身のクォーターだ。

 すらりと伸びた手足に、よく日に焼けた肌と天然の金髪が相まって、見た目は完全にギャルである。

 

「もう貼ってあるみたい。火織ちゃん、一緒に見にいこ」


「見なくても、どうせわたしが一位であんたが二位でしょ」


 わたしが一位なのは天地開闢からの掟として、紫亜もギャルギャルしい外見に反して勉強ができる。

 中等部時代の成績は、常にわたしが一位で紫亜が二位だった。

 多分、この順位は高等部に入っても変わらないだろう。

 なのに、紫亜は首を左右に振った。

 頭の横でくくったツインテが、大型犬の耳みたいに揺れる。


「ううん。さっき友達から聞いたんだけど、紫亜は三位だったって」


「……まじ?」


「まじまじ」


「愛理の阿呆がよっほど調子よかったとか? ちょっと、あんなのに負けてんじゃないわよ」


「いや〜、さっきすれ違ったとき睨まれたから、愛理ちゃんは違うんじゃないかな〜」


 愛理でもないなら、外部生が二位か。

 ふーん。少し興味がわいてきた。


「ちょっと見てくる」


「紫亜も行くってば〜」


 †


 貼り紙が掲示された廊下には、案の定、人だかりができていた。

 その端にいたひとり、内部進学生の生徒がわたしを見つける。


「ちょっ、みんな、火織さま来た!」


「えっ」「あっ、火織さま」「ごきげんよう、火織さま」

 

 わたしは一度だけ咳払いをして、喉の調子を整えた。


「──ごきげんよう、みなさま」


 スポンジケーキみたいに柔らかく、上品に口角を上げて微笑むと、たちまち黄色い声が上がった。


「かわいい!」「ちっちゃい!」「お人形さんみたい!!」


 いつも思うけど、なんか違くない?

 そこは「麗しい」とか「お美しい」とかであるべきでは?

 まあいいけど。


「申し訳ありません。すこし、通していただけますか?」


「あ、はい……でも……」


 最初にわたしを見つけた生徒が、掲示板とわたしの顔を交互に見比べる。


「でも?」


「火織さま。こんなの、きっと何かの間違いですから」


「はい?」


 事態を飲み込めないわたしに、生徒たちが次々声をかけてくる。


「そうです! きっと先生方の手違いです!」


「火織さま、全国模試でも一桁台の成績なのに」


「あの外部生が何か、卑怯な手を使ったに決まってますっ」


 だから何の話だなんの。


「すみません、なんのことかよく──」


「絶対におかしいですわ! 火織さまがなんて!」


 ──あん?

 わたしは人波をかきわけて、掲示板に近づいた。白い紙に印字された名前を確かめる。


 一位 氷室伊月

 二位 雨森火織

 三位 水瀬紫亜

 ……。


「──む、ぐっ」


 むぎゅっと、自分の口を手のひらで塞ぐ。

 うっかり叫んでしまうところだった。「誰よその女⁉︎」と。

 氷室伊月。

 知らない名前だった。

 内部進学生なら、わたしは全員の名前と顔を記憶している。つまり、こいつは高等部から入ってきた外部進学生だ。

 そいつに負けた。

 ──負けた? この雨森火織が?


「……火織ちゃん、大丈夫?」


 かたわらの紫亜が、気遣うようにわたしの顔を覗き込む。

 わたしは即座に笑顔を作って、母譲りの、赤みを帯びた髪を手で払う。

 視線が集中しているのがわかる。

 危ない。

 こんな人前で、無様な姿を見せるわけにはいかない。


「──聡明なかたが、入学されたようですね」


 役者が観客に語り聞かせるように、背筋を伸ばす。


「喜ばしいことです。互いに切磋琢磨し、世界に通じる乙女を育成すること──それこそが、我ら聖ルクレツィアの理念なのですから。わたしも見習わないと」


「まあ」「さすがです、火織さま」「わたくしたちも頑張らなくては!」


 耳触りの良い言葉で誤魔化して、きらきら光る乙女たちの憧憬を浴びながら、その実、わたしの内心は煮えくり返っていた。

 いったい全体、どこの馬の骨だ。


 わたしの人生に、土をつけてくれたのは!!






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【人生全部賭けても、銀の魔女に勝ちたい】

https://kakuyomu.jp/works/16818093093165957353

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2026年1月19日 18:00
2026年1月20日 18:00
2026年1月21日 18:00

人生全部賭けても、電波な彼女に勝ちたい。 深水紅茶(リプトン) @liptonsousaku

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