天使になったの

葛籠澄乃

全1話

 私はまっしろな部屋の隅でまあるくなった。膝を抱えて、そこに顔を埋める。開いた窓の隙間から、少し寒い、けれども時期に暖かくなるのを知らせる柔らかな風が吹き込んでくる。私の髪は揺れなかった。

 あなたの声色を真似して、あなたの呼吸を真似して、あなたの歩幅を真似して……。あなたと過ごした部屋の出来事を、何度も何度も一人で再生するのを続けている。たった短すぎる春の出来事なのに、こうして私の記憶に絡みついたまま消えてはくれない。熱にやられているのだと、てのひらをそっと額に置いてみても、じんわり温いだけだった。こんなときは、平熱だ。

 あなたは悪魔かもしれない。私にさよならの四文字を言う猶予も与えてくれなかったのだから。いま私に四文字を与えてくれるのならはっきり言うよ。「好きだよ」

 ううん、あなたは悪魔じゃない。きっとない。絶対ない。あなたの優しさは天使そのもの。天使なら四文字を与えさせて。もっと文字を与えさせて。「また会おうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使になったの 葛籠澄乃 @yuruo329

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画