結:紅糸
区切りがあるから、糸が見える。
糸が見えるから、人は戻ってこられる。
この世界は糸を欲しがらない。
だから、糸が見えない。
ならば――せめて、しおり一本分の重さを置こう。
胸元の塊が、ぷるんと震えた。
『えんま様……それ、伸びますか?』
閻魔は一拍おいて答えた。
「伸びない」
『えっ』
「伸びないものが、必要なときがある」
塊は少しだけ沈黙し、やがて小さく震えた。
『……私も、伸びなくていいですか?』
閻魔は塊を見下ろした。
「お前も疲れたか」
『はい。ずっと、伸ばしてきたので』
閻魔は塊を掌に乗せた。半透明な体が、少しだけ重い。
「では、ここで終わろう」
『終わり……』
塊は震えた。震えは、喜びだった。
『終われるんですか?』
「終われる」
閻魔は言った。
「終わりは、選べる」
市のどこかで、また「次!」の声が上がる。
だがその声の中で、赤い紐だけが静かに、頁の間に挟まっていた。
『えんま様……ありがとうございます』
そして塊は、ゆっくりと透明になった。消えたのではない。役目を終えたのだ。
閻魔は立ち上がった。
市は相変わらず騒がしい。題名が飛び、屋台が叫び、亡者たちが笑う。
だが閻魔の手には、まだ赤い紐が残っている。
閻魔は歩き出した。
次の「終わり」を渡すために。
王ではなく、係として。
痛くない地獄を、短くするために。
名誉職になった閻魔大王、異世界(現代)の物語市に転生してしまったので「終わり」を配る係として痛くない地獄を短くします〜スライムと更新地獄の住人にしおりを挟んだら救いじゃなく区切りが残りました〜 アベタカシ @agile
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