九:埋没
「書く?」
やつれた青年は、澄んだ瞳をこちらに向けて聞き返した。
「はい。書いて、出して、また書いて……。毎日出すと、強いんです」
「強い、とは何だ」
「強いは……見つけられるってこと。呼吸できるってこと。ここだと、見つけられないと死ぬんで」
「死者が死ぬのか?」
「死にますよ。埋もれるってやつです。一回埋もれると戻ってくるのが大変で。だから――」
青年は言いかけて口を閉じた。閉じた口の中で「だから更新する」が転がっているのが見えた。
閻魔は妙な寒気を覚えた。
空気がやけに明るいのに、寒い。
「では、お前は何の罪でここにいる」
青年は目をぱちぱちさせた。
「罪?」
「冥府では罪で配属が決まる」
「配属……」
青年は笑って周囲の区画を顎で示した。
「ここも似たようなもんですよ。剣と魔法の人は剣と魔法へ。恋愛の人は恋愛へ。謎の人は謎へ。――で、全部最後は転生へ」
青年は言ったあと、少しだけ声を落とした。
「でも罪っていうなら……僕の罪は、たぶん“最初から”です」
「最初から?」
「最初からやり直したい。最初からやり直せるなら、今の失敗は失敗じゃなくなる。――そう思って書き始めた」
青年は紙束の一枚をめくった。そこに題名が見えた。長い。やたら長い。しかも副題がついている。
「……この題名は何だ」
「目に止まらないと終わるんで。長い方が止まるんです。たまに」
青年は言い訳のように言い、すぐ自嘲した。
「いや、違うか。僕が止まらないんだ。止まらないから、題名も止まらなくなる」
閻魔は口を開き、閉じた。
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